表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第三章 夕闇に潜む怪異を暴け
52/91

エピローグ 夕闇に潜む怪異を暴け

 赤い騎士に導かれて進んでいると、視界が一瞬歪み、次に目を開けた時には、今度こそ見慣れたアスカスの街へ戻っていた。

 夕日は当の昔に沈んでおり、星の海に月が浮かんでいた。

 ライカは騎士に改めて礼を言うべく振り返ったが、すでに影も形もなかった。


 それからほどなくしてコーシェが意識を取り戻した。状況を説明すると、コーシェは胸を撫で下ろした。

 一人で歩けると言うコーシェに引き続き、無理やりミスロは肩を貸しながら、ライカは彼の傍へ寄り添うように歩いて、ゆっくりとした足取りで彼の家へ向かう。


「あの、ユーフィッド様、セイクリッド様」

「何だ?」

「あの化け物たちは、一体、何者だったんですか?」


 ミスロは真っ直ぐ前を向いてしばらく黙っていたが、やがてライカへ視線を向けた。


「いいんじゃないかしら?」とライカが頷くと、ミスロは語り始めた。


「数日前より、この街で奴らのような化け物が姿を見せるようになった。奴らは人間のような姿をしているが、本性は見たこともない異形で、姫様と呼ばれる人物を探している」

「あんな生き物、見たことがありません」

「あぁ」

「アイツらは、自分を神様だって言っていました」

「神を自称する、邪悪な存在だ。耳を貸すことはない」


 ミスロの言葉に、ライカが追従して頷いた。


「奴らは、探し人ついでに人を弄び、殺そうとした。探している姫様とやらが何者かはわからないが、見つかるまでに民間人に犠牲が出る可能性が高い。それは絶対に阻止しなくてはならない。第一小隊は、奴らを止めるために動いている……だが、見ての通り、全く歯が立っていないのだがな」

「でも、ユーフィッド様は対抗して……そうです、そもそも、あの時に聞こえてきた声は……今朝、アスカスに入る前に聞こえた声は奴らの仲間だったのかも……!」

「落ち着け。とにかく、今日の所は帰って休め。それで明日も休日にするんだ。ゼットには私から言っておく」

「ダメですよ! ボク、明日は」

「コーシェ、明日、ふらふらな状態で行っても、ゼットさんたちを心配させるだけよ」


 ライカに諭され、コーシェは明日休むことを約束した。


「夢を追いかけるなら、まずは自分の体を労わりなさい」

「……はい」


 コーシェの家までもう目と鼻の先となった。ライカが先に行って家族に知らせようとするのを、ミスロがお前も無理をするなと止めていると、コーシェは意を決したように顔を上げた。


「あの、奴らが何者で、本当の目的が何なのかを暴く必要があるのであれば、ボクもそれに協力させてください」

「何?」

「アンタ、また」

「いえ、ボクに戦う力がないことはわかっています」


 そう言うコーシェの目には、諦めや不甲斐無さは浮かんでおらず、目標に進む時のような、強い意志が宿っていた。


「ですから、ボクは、ボクに出来る範囲で皆さんのお役に立ちたいんです。薬品の提供や、密偵の方々には敵いませんけれど、噂話や伝承を調べて、お伝えしようと思っています」

「一般人が首を突っ込むな。お前は、今まで通りに薬師として上を目指し、民衆のために腕を振るうんだ」


 ミスロの厳しい言葉を受けながらも、コーシェは引く気配を見せなかった。


「……だが、薬剤の提供は有り難いからな。私の一存では決められないが、隊長たちに購入検討の話をしてみよう」

「ありがとうございます」

「昔から、お前は頑固者だからな。ライカもそう思わないか?」

「そうね。こうと決めたら諦めるまで曲げないんだから」

「すみません」


 そうしているうちに、ようやくコーシェの家の前に着いた。

 出迎えた家族に、適当な理由をでっち上げて説明し、コーシェを引き渡すと、ミスロはライカに肩を貸して歩き出した。


「いいのにもぅ」

「無理して気を失われたら、連れて帰るのに苦労するだろう」

「何よそれ」


 言い合いながら夜の街を歩いていると、しばらくして巡回していたベルたちとばったり出くわした。


 ライカの姿に驚き、駆け寄ってくる仲間らを見ながら、ライカはミスロに囁きかけた。


「怪物もそうだけどさ……あの赤い騎士……一体、誰なんだろうね?」


「さぁな」と答えられるだろうとライカは思っていた。だから、次に聞こえてきた言葉が、鮮明に聞こえてきた。


「ギルフェンセィア」


 一言だけ答えると、ミスロはベルにライカを任せ、代わりに自分が入ることを提案した。


「ねぇ、今のって」

「ん、何の話だ?」


 訝しげな表情をするミスロを見て、ライカは言葉を飲み込み、何でもないと手を振って、ベルの肩に捕まった。

 二人が仲間たちにこれまでの事を説明すると、ベルはライカを背負い、大急ぎで駐屯地へ戻って行った。

 その後ろ姿を見ながら、ミスロもまた、仲間たちと共に夜の街へ歩き出した。



MMMMM




 夜更けのワンダー診療所の二階で、厠から戻ったサァフが部屋へ入ろうとして、ふと視線を向かいのドアへ向けた。

 ゼットたちから物置で、開いてはならないと言われていた部屋に、サァフは魔が差したように、ふらっと近づいて、取っ手に手をかけた。


「……やめとくか」


 早く戻らないとアルファが寂しがると思い、湧き出た好奇心を振り払って部屋へ戻った。


 その後すぐに部屋の前に人影が立った。


「お疲れ様」


 ゼット・ワンダーが、開かずの間と呼ばれた部屋の中に向かって声をかけた。


「おいおい、フルネーム呼びはよしてくれよ」


 わざとらしく肩を竦めると、ドア横の壁にもたれかかった。


「ありがとな」


 そんな風に――――


「いや、声に出して返答してもらいたいんだが」


 ……。

 聞こえているのであれば、別にこちらでも構わないだろう。まぁいい。たまには声を出しておくか。


「あぁ」


 ゼットはドアの向こうからの返答を受けると、どこからか取りだした、ハーブクッキーを乗せた皿をドアの前に差し出した。


「差し入れだ」

「いただこう」


 皿が瞬時に消え去る。

 むぐ……今日はヨモギか。うん、美味しい。


「そいつはよかった」

「私はいいが……妹君の方はあまりよくないと思っているようだぞ」

「どのことだ?」

「さっきのことだ」

「だろうな」


 ゼットは苦笑するだけだ。ヤバいなぁとつぶやいているが、本心はわからない。


「それに……彼女たちはライカとコーシェの記憶を消さなかった」

「気になるのか?」

「少しだけだ。彼女たちも守護対象だからな」


 今も、私の『目』には夜警中のミスロや医務室で寝息を立てているライカ、ベッドの中で泥のように眠るコーシェなどなど……数多の人間の姿や、街とその近隣の様子が映っている。

 その中央に浮かんでいるのは、サァフに守られるようにして眠る、アルファの姿だ。


「そう言えば、ミスロがお前の名前をライカに教えたぞ」

「あぁ、知ってる」

「いいのか?」

「構わん。ライカも混乱しているし、しばらくは誰かに話すことはないだろ」

「もし話したら?」

「その時はその時だ。これから嫌でも関わることになるんなら……ラトゥス様たちが、より強い加護を授けてくれるからな」


 あっけらかんとした物言いに、思わずこう言わずにはいられなかった。


「お前、怒っているのか、妹君に?」

「いや、全然?」


 あぁ、これは本当に怒っていないのだろうが……加護を授けることになるだろう妹君の仕事が増えることは確かだ。


「じゃあ、引き続き頼むぜ、ヴァンドラ」

「それが契約だからな。次はゴマ団子がいい」

「あいよ」




 こうして、魔と二度、三度に渡る死闘を潜り抜けたミスロとライカによって、怪物の情報は第一小隊の騎士たちだけでなく、アスカス駐屯地の騎士全員に広まった。


 夕闇に潜む怪異を暴け。


 この夜から、そう任務を受けた第一小隊は、本格的な怪物調査へ乗り出した。



お読みいただき、ありがとうございます。

これにて、第三章終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ