プロローグ
お待たせしました。第四章スタートです。よろしくお願いします。
ラトゥス王国、王都南西部に位置するタンデオス地方は、ユーフィッド家が治める領地だ。
小さな村が点在し、館が置かれている地には町が存在する。
良く言えば穏やかで、少し悪い言い方をすれば簡素な場所だ。これと言ってわかりやすい特徴はないように見えるが、見る者が見れば、その些細ながら大きな違いに気が付くだろう。
まず、領民の顔は皆明るく、希望に満ちている。たまに暗い者がいたとしても、やがて気持ちを切り替えたように目を輝かせて立ち上がる。
どの村の田畑も豊かな作物の海となっていて、朝日が昇るよりも早くに起きていたそれぞれの畑の持ち主たちが、精一杯作業を行っている。荒れた場所は一つもない。
村の家屋はどれも小奇麗で、あばら屋や廃屋はない。壊れた場所があれば、逐次、家主と大工によって修繕作業が行われていた。
町では朝市が開かれ、今日も各村からやってきた人々たちと町人、旅商人たちが物を売り買いし、賑わっている。
領主直属の騎士や衛兵たちが巡回していると、人々が気さくに声をかけ、彼らもそれに軽く応えた。嫌味はなく、慣れ親しまれている。それもそのはずで、彼らの多くは、町や村々から志願した者たちだった。今日も彼らがいるだけで、町は平和だった。
村、町人関係なく、健康的で、小奇麗な様相だった。
今のご時世、ほとんどどの国も平和な様子だが、地方の村や町がここまで明るく、活気あふれている場所は滅多にない。
不思議な場所だった。
それもこれも、全ては領主一家の手腕と人望、そして彼らを信用する領民たちの働きによるものだ。
領民たちが活気にあふれた様子でそれぞれの用事に勤しみ始める朝。
領主アルデバラン・ユーフィッド卿は愛する妻ルラン・ユーフィッドと共に朝食を終え、仕事をするかと立ち上がろうとしたところで、一通の手紙が届いた。
ユーフィッド卿は読み終えると、その厳かな顔に小さな笑みを浮かべた。
「あら、どうかしたの?」
妻に尋ねられると、ユーフィッド卿は手紙から顔を上げて、嬉しさをにじませながら応えた。
「直に、ミスロが帰ってくるぞ」
彼はすぐに手紙をしたためると、封筒に入れて蜜蝋を垂らし、ユーフィッド家の紋章が彫られた指輪で印を押して、しっかりと封を施した。
それを信頼する密偵に持たせ、早馬で去っていく姿を自ら見送り、踵を返したところで、ふと表情を曇らせた。
愛娘からの手紙に、どうしても見過ごせない事柄が記されていたのだ。内容は現在極秘事項のため、直接会って話したいとあり、同時に、可能であればユーフィッドの力を借りたいともあった。
「私たちの力を借りたいと言うほどの出来事か……」
妙な胸騒ぎを覚えながら、ユーフィッド卿は愛する妻の下へと戻っていった。
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