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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第三章 夕闇に潜む怪異を暴け
43/91

chapter34

ααααα


 帰宅したアルファがリリアンたちを連れて居間に入ると、サァフとコーシェが楽しそうに話しているところだった。

 サァフがツンと顔をあげ、コーシェがはにかんでいる様子から、半日もしないうちに二人が打ち解けたことをアルファは理解した。


「ただいまー」

「っと、アルファ、帰ったのか」

「おかえりアルファちゃん。リリアンちゃんも来たんだね」


 そう言って立ち上がろうとするコーシェだったが、最後に入ってきた人物を見て、動きを止めた。


「こんにちは、コーシェ」

「……こんにちは、セイクリッド様」


 コーシェは、アルファたちの手前、慌てることなく挨拶を返し、丁寧にお辞儀する。

 そして、彼女やリリアンと並ぶ貴族の子女二人に気が付いた。


 ミルシャとマルタは一歩前に出て、スカートの両裾をつまんで一礼した。


「初めまして。私はミルシャ・スクーテと申します」

「初めましてコーシェ様。マルタ・オージュです」

「ぇっ」


 驚くコーシェだったが、すぐに気を取り直した。


「コーシェと申します」

「はい。……まずは、感謝の言葉を。昨冬、風邪を引いたおり、コーシェ様のお薬を服用いたしましたら、すごくよく効きましたの。助かりましたわ」

「恐縮です。スクーテ様のお身体が健康になられたのであれば、それは私にも大きな喜びです」

「ふふっ。コーシェ様のお薬は貴族だけでなく、民たちにも広まっていると聞きました。これからも、困っている方々のために力を振るってくださいまし」

「はい」


 数か月前、名前を見て卒倒したとは思えないほど、コーシェは落ち着き払っていた。

 内心では、ラトゥス七大騎士の息女二名が現れたことに対して大いに焦っていたのだが、表にそんな動揺は一切出していない。


 そして、七大騎士の家系から直接言葉をもらった事に、確かな手ごたえも感じており、また目標へと一歩進んだと喜んでもいた。


 そこへアンジュとゼットがお茶の乗ったトレイを持って部屋に入ってきた。

 席へ着いたアルファたちに配り終えると、ゼットはサァフを連れてその場を去ろうとしたのだが、ライカが丁度いいと呼び止めた。


「もしかしたら聞いているかもしれないけれど、今日からしばらく夜間は外出禁止の報せがあったわ。アンジュとコーシェも、日が沈む前に家に帰ってね」

「わかりました。でも、何かあったんですか?」


 首を傾げるアンジュへ、ライカは表向きの説明をした。


「騎士団や警備の訓練や見直しね。特に何か大事があったって訳じゃないわ。まぁ治安維持の一環として、協力してくれると助かるわね」

「なぁ、街道封鎖の一環とは関係があるのか?」


 サァフが、暗部関係かと遠回しに質問するが、ライカは首を振った。


「ないわ」

「そうか」


 短いやり取りに、マルタの視線がそれとなく動いた。

 それにサァフは気が付いたが、気付いていない体を装った。


「しっかし、居酒屋と野郎どもには厳しいお達しだな」

「……ぁ、思い出した。オルトの所へ行ってくるわ。皆はゆっくりとくつろいでいてくれ。サァフ、休んだ分、表を頼むぞ?」


 突然、ゼットはそう言って部屋を出て行った。


「と言う訳でサァフ、交代」

「わーったよ。でも、今日はもう患者は来ないだろ」

「もしかしたら誰か来るかもしれないでしょ」


 アンジュに追い立てられるようにサァフが席を立ちあがった。

 それを見送りながら、コーシェも思い出したことがあって、口を開いた。


「街道で思い出した。今朝、アスカスの近くまで戻ってきたときに、声が聞こえてね。「力が欲しいか」って言われた気がして振り返ってみたんだけど、誰もいなかったんだ」

「妖精にでも化かされたんじゃねーのか?」

「サァフは早く行く」

「へいへい」


 今度こそサァフは部屋から出て行った。


「ボクも妖精の仕業かなって思ったんだけれどね」

「力が欲しいかって、妖精というより悪魔みたい」

「そもそも、妖精も悪魔もいるわけないでしょ。疲れて、風の音を間違えて聞き取ったのよ」

「ですが、セーウェやヴァルエの辺りではドラゴンの影を見たという噂がありますし、妖精が悪戯を仕掛けてきた、というのも夢がある話しですわ」


 アンジュは半ば呆れ、ミルシャたちは面白いと笑った。


 しかし、ライカだけはその話を聞いても笑えなかった。

 脳裏に蘇る、怪物の姿と声音。

 そして、昨晩ミスロと副隊長ディザイダが怪異と遭遇したという話も思い出したライカは、


「ねぇコーシェ。その時、周囲には本当に誰もいなかった? 空の上に人が浮かんでいなかった?」

「本当にすぐ後ろで聞こえましたし、近くには人が隠れられるような場所もありませんでした。でも、流石に空は見ていませんよ」


 コーシェも、本当に妖精に化かされたとまでは考えていない。もしかしたら、という話題を振ったに過ぎないのだ。


「そうですね、もし今度また聞こえたら、空も見上げてみます」

「……そうしたらいいと思うわ」


 気のせいだろう、と思っても、胸に沸き起こった不安は中々消えない。

 昨日の決闘騒ぎについて談笑するアルファたちの声を他所に、ライカはこの二日に渡る怪事件について考える。

 他の騎士や民たちに被害は出ていないという調査報告をディザイダから聞いてはいるが、もし奴らの仲間が彼に目を付けたとしたら……。そして、彼の周囲の人物に被害が広がっていくとしたら……。


「コーシェ、アンジュ、仕事が終わったら、それぞれの家まで送っていくわ」

「ありがとうございます。でも、ライカ様のお手を煩わせるわけにはいきませんから」

「アンジュちゃんは僕が送っていきますよ」

「大丈夫よ。これも騎士の仕事の一環だから。それに、護衛任務の訓練にもなるし」


 無理やりそう言いくるめ、ライカは二人を送ることになった。

 リリアンたちはもっと早い時間に帰宅するので、「仕方ない」と少し残念そうだった。





お読みいただきありがとうございます。

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