chapter33
サァフの顔を見て、コーシェはほほ笑んだ。
「サァフさんも、アルファちゃんたちの事、好きですよね」
「……それは」
素直に頷くことは照れくさく、しかし否定するのはそれ以上に嫌な気持ちになるので、言葉を濁す。
「ふふっ。アルファちゃんもサァフさんが大好きみたいですから。あの子が懐いている方に、悪い人はいませんでした」
「……って言うか、お前もアイツの事を好き過ぎるだろ」
ダメだ、私以上に絆されている。
しかし、それをどこかで羨ましくも思いながら、サァフは頷いた。
「……アイツ、人たらしの才能でもあるのか?」
「そんな言い方はどうかと……ですが真面目な話、アルファちゃんには、どういう理由なのかはわかりませんけれど、人を惹きつける才能はあると思います」
「美人で、可愛くて、強くて、おまけに素直で優しくて、勇気がある、ってか」
「後、記憶力も良くて、凄く頭も回りますから。ボクの教えた薬草や調合法もすぐに覚えて、太鼓判を押せるほど出来がいいんです」
「優秀過ぎるだろ……」
「えぇ。将来、ここを継いで立派なお医者さんになってほしいです」
まるで、妹を想う姉のような声音と雰囲気のコーシェに、
「……じゃあ、お前も立派な薬師にならねーとな」
思わず口をついて出た言葉に、サァフはしまった、と思ったが遅い。
コーシェはきょとんとした表情をしていたが、やがてじんわりと嬉しそうに笑顔になった。
「はいっ!」
「……調子狂うな」
憎まれ口を叩きはしたが、悪い気はしなかった。
「ところで話は少し変わるけどよ、ゼットの奴がお前は十分に腕の立つ薬師だって言ってたけど、これ以上名を馳せてどうするんだ? 貴族か王族お抱えの薬師にでもなりたいのか?」
「流石にそれは……でも、雇っていただければ、と思う貴族の方はいます」
そう言いながら頬を先ほどよりも紅く染める様子に、サァフは首を傾げる。
「金や権力目当て……じゃなさそうだな」
「えぇ、まぁ」
「ふぅん……ははぁん?」
まさか、と思い至って笑いをもらすと、コーシェの方が小さく跳ねあがった。
「まさか、そこの屋敷の侍女に惚れている奴がいるのか?」
「じ、侍女の方ではなくて……」
「じゃあ、貴族令嬢か?」
コーシェは俯いて、顔を真っ赤にしてしまった。
わかりやすいほど面白い反応に、サァフは意地悪い笑みを浮かべた。
「ほー、ほー? 一体どこの誰なんだ? 深窓の貴族令嬢に惚れた奴の話はよく聞くけど、お前もその口か?」
「ぅぅ……」
「そうか、ゼットの野郎に弟子入りしたいっていうのも、お嬢様に振り返ってもらいたいがために、今よりももっと力を着けたいってことだな?」
「ぅぐ……はぃ」
「ま、悪いことじゃねーよ。諦めずに行動している点は評価してやる。もっと胸を張れよ」
「でも……」
「お嬢様を娶りたいんだろう?」
「娶るっ?! あ、えと、それは」
「どこぞの貴族かは知らねーが、少なくとも認めてもらうんだったら、もっと堂々としてろよ? もしラトゥス一の薬師になったとしても、こいつに娘や領地を任せてもいいって思えるくらいでないと、当主どもは納得しないぞー?」
「わかっていますよぅ! と言うか、サァフさん、さっきまでよりもぐいぐいと来ていませんか?」
「そりゃぁ面白そうな話があるんだから聞きたいに決まっているだろう? それに、その、なんだ、恩人どもの友人が? 気になっている奴がいるって言うんだから? まぁ聞いているこっちも気になるし?」
自分で言っていて途中でまた照れくさくなって、サァフは疑問符を浮かべて誤魔化していた。
「サァフさん……」
「あんだよ」
「いえ、その、サァフさんは、やっぱりいい人なんだなぁって」
「んな訳ねーだろ普通は怒るところだろ! ったく、お前もアルファも、ここにいる奴らは全員お人好しばっかりだな!」
今日幾度目かのこそばゆい感覚を誤魔化すために不機嫌な態度を取るサァフだったが、コーシェは僅かにまだ染まった頬のままはにかむのであった。
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