chapter30
「メェェェェェンッ!!」
アルファの一撃が防具に覆われたミルシャの額に容赦なく入った。
「また、負けましたわ……」
崩れ落ちることはなかったが、ミルシャはシナイをアルファに突き付けた。
「しかし、今の攻撃はもう見切りました! 次こそ貴方を打ち負かせてみせますわ!」
「じゃあ、もう一回だけね?」
そして、数秒後、アルファの薙ぎ払いを胴に受け、ミルシャは校庭に沈んだ。
「うーん、パパのようにはいかないかぁ」
「なんですの……今のは……? 今、何が起きたんですか?」
起き上がり、アルファに詰め寄る姿は狂気すら感じるが、アルファは特に気にした様子もなく、拳を口元に当てる。
「昨日、パパが最後に使っていた技の一つを試したんだけど、上手くいかなかったかなぁ」
「ワンダー先生が使った技は、一つではないのですか?」
「うん。あれは二つの技を組み合わせたものなんだけど……最後の一つはなんだろう。何かが違う……」
あーでもない、こーでもないとつぶやきながら、次の対戦相手を探しに行くアルファを、ミルシャは追いかけようとしたが、リリアンに立ち塞がられた。
「ミルシャちゃん、次は私が相手になるね」
「仕方ありませんわね……」
アルファの様子が気になるが、ミルシャもまた色々と試してみたいことがあった。アルファとまたぶつかる前に、少しでも慣らしたい。
それに、このリリアンは、アルファの幼馴染で、ずっと傍にいる。
アルファの親友なのだ。
「リリアンさん、貴女とは一度じっくりお話ししたいところですが、今日の所はこの一撃で終わらせておきますわね」
「いいわよぅ。私もミルシャちゃんとは、じっくりお話しがしたかったからぁ」
リリアンの黒いオーラに、周囲の生徒たちが鍔迫り合いをしながら遠ざかっていく。
そして、少し離れたところにいたマルタもまた、少し黒いオーラを放ち、対戦相手を引かせていた。
それを見ていた体育教師とライカは、やれやれと肩を竦めるのであった。
アルファとミルシャから始まった昨日の決闘騒ぎは、騎士見習いたちに大きな衝撃を与えていた。
副隊長を破ったゼットの剣は、見た者全員が戦慄した。同時に、憧れる者も少なくなかった。
特に、決闘を間近で見ていた、当事者である子どもたちは、全員が昨日までよりもやる気に満ち溢れており、体育教師が目を見張るほどであった。
体育教師オージュもまたゼットから剣を教わっており、彼の実力を知る者の一人であった。
ライカから話を聞き、任務のためとはいえ、現場に行けなかった事を少し悔やんでいた。
「私も見たかったです。エウィ副隊長をどう破ったのか、すごく気になるじゃないですか」
「いや、見てもわからないと思うわよ? さっきアルファが真似していたけれど、何か違うのよね」
「うーん。今度見せてもらうことはできないんでしょうか。せめて、エウィ副隊長の攻撃を防いでいた姿は見たいですね。防御の参考になりそうです」
「確かに参考にはなるけれど、ちょっとレベルが上というか……」
「それでもいいじゃないですか。少しでも強くなって、先輩たちに追いつきたいんですから。それで、立派な騎士になるんです!」
「それなら私たちを追い越さないとねぇ。でも、そう簡単に追い越されは……あ、アルファ、じゃなかった、ワンダー、ちょっと待って。流石に剣を振り回すのはやめて! スクーテも! 何で昨日の今日でそこまで使えるようになっているのよこの天才どもー!!」
ライカが慌てて止めに入るのを見送りながらオージュは「あれは一体何の技だろう」と思い、ふと視線を移した先で、マルタが同じように剣を車輪のように回している姿を見て一瞬呆気にとられた。
「マルタ、じゃなかった! オージュ! ちょっと待ちなさい! その剣は何!? ちょっと待って、流石にそれはお姉ちゃんでもあんまり受けたくないから同級生に向かって使うのはやめなさい、ね?!」
真昼間の校庭に、王国騎士二人の慌てる声が響き渡った。
ディザイダ・エウィとゼット・ワンダーの決闘騒ぎによって起きた熱は、しばらく収まりそうになかった。




