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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第三章 夕闇に潜む怪異を暴け
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プロローグ

 夜明けが近い空の下、アスカスへ続く街道を歩いている者がいた。

 旅用のローブに身を包み、引出がいくつもついた箪笥のような箱――薬箱を背負っている。

 白い息を吐きながら、まだ寒い空気を肩で切って歩くその足取りはしっかりとしている。

 しばらくして、山の向こうから徐々に空が白くなっていく。

 旅人が顔を上げる。

 目と鼻の先に、朝日に照らしだされていくアスカスの城壁が見えると、嬉しい気持ちになって口角をほんの少し上げた。

 皆、元気にしているかな。

 そして、


「……今度こそ、弟子入りさせてもらおう。力を、つけなくちゃ」

『力が欲しいか?』

「わっ」


 声が聞こえた気がして、驚いて振り返るが、誰もいなかった。

 妖精にでも化かされたのかな、と首を傾げ、少し急ぎ足になった。




 旅人が小麦の粒ほどの大きさに見える、まだ夜の色が残る空の上で、二つの影がぶつかっていた。


 一つはマントを羽織った赤い顔の男で、右腕だけが異常なほど膨張し、浮き出た血管が薄赤色に発光している。


 もう一つは、薄手の服の上に鎧を纏った少女で、意志の強さを湛えた瞳で目の前の怪人を睨み、薄緑色に光る剣を構えている。

 彼女自身の体も淡く発光しており、怪人は少女が近づくたび、剣が振るわれるたびに顔をしかめ、忌々しそうに唸っていた。


「観念しなさい。残りはアンタだけよ」


 少女が勇ましく剣を突き付けると、怪人は憤怒の様子で彼女を睨んだ。


『おのれ……□□と■■もやられたか』

「……倒したのは、私じゃないけどね」


 優勢に見える少女が、今度は表情を曇らせた。


「……いい加減、諦めてもらえないかしら? 私たちも、アンタたちを一々出迎えられるほど暇じゃないのよ」

『安心しろ。もう少しすればその必要もなくなる』


 怪人の右腕が一際鋭く光り出す。


『あの時のように、この星も、宇宙も、貴様たちもッ。ベルテス様とアーカイム様たち率いる軍勢が蹂躙してくれる! そして、我らが愛するあのお方の忘れ形見が、新たな時代を作り出すのだ!!』

「ッッッ!!!! 言ってなさいよ!!」


 目を見開いた少女が瞬時に怪人へと肉薄する。渾身の一撃が、振り上げられかけていた怪人の腕を切り飛ばし、いつの間にか細切れに切り刻んでいた。

 無数の粒子と化した右腕を見て、しかし怪人は勝利を確信したように、残虐な笑い声を上げた。


『バカめがっ、これで消えろ!! 大陸ごとなぁっ!!』


 傷口から噴き出していた血液が一斉に輝きだし、そして――――怪人ごと跡形もなく消し飛んだ。


 少女はかざそうとしていた手を降ろし、視線だけを別の方角へ向けた。


「私だけでもやれたわ」

「無駄が多すぎる。もしもの事があれば、どれだけの者が傷つくと思う?」


 静かな声で、諭すように話しかけるのは、少女と同じく体から光を発する、美しい青年だ。中性的な顔立ちをしており、どことなく彼女と似た造りをしている。


 青年の言葉に少女はバツが悪そうに視線を背けた。


「少しでも情報を引き出したかったのよ」

「それなら、相手を選ぶべきだ。昨晩、最後に倒された方が、まだ話ができただろう」

「話す前に、アイツが倒しちゃったじゃない」


 吐き捨てるように言うと、青年に背を向けて、その場から忽然と姿を消した。


「やれやれ……そのアイツ殿がまた倒そうとしていたのを、代わりに僕が引き受けたんだけどね」


 残された青年はそう一人ごちると、アスカスへもうじきたどり着く旅人を見下ろし、やがて少女と同じように姿を消した。




 上空での出来事など何も知らぬ旅人は、開かれようとしている門を目指す。

 フードを脱いで、朝日を顔いっぱいに浴びながら。


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