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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第二章 決闘騒ぎ!
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エピローグ①


 夜遅くの診療所の居間で、ゼットとフィナが机を挟んで向かい合っていた。

 蝋燭もないのに、部屋が薄明るい。

 光源は、全身を淡く輝かせるフィナだった。

 幻想的な空間には二人しかおらず、アルファはすでに二階でサァフと共に眠りについている。


「ご苦労様でした、ゼットさん」

「いえ……」

「ふふっ、機嫌を直してくださいよ」

「別に怒っていませんよ」


 確かにゼットの雰囲気は普段通りだが、フィナに目を合わせようとしていない。


「ねぇ、ゼット」


 肩を竦めたフィナが、口調を改めた。柔らかさはそのままに、親しんだ者へ接するように。

 そこで初めてゼットが目をフィナへと向けた。


「フィナさん……俺は」

「違うでしょ」


 ほら、呼んでと言われて、ゼットはため息をつきながら、姿勢を正した。


「ラトゥス様」

「よろしい」


 口元をゆるめてほほ笑むフィナにつられるように、ゼットも苦笑を浮かべる。


「それで、ゼットは私の何が不満なの?」

「貴女ではなく、貴方がディザイダを戦わせるように誘導したことです。あのまま穏便に済ませる方法は、いくらでもあったのに」

「あらあら、そうしたらアルファがあの場で爆発したかもしれないわよ?」

「俺を信用してくださいよ」

「それはそれ、これはこれ。アルファだけではなく、アンジュやリリアンたちも心に傷を負うところだった」

「それは……いえ、あの後事情を説明するつもりではありましたが」

「言い訳無用。それに、あれはディザイダのためでもあったの」

「……と言いますと?」

「わかっているでしょ。あのままだと、ディザイダは孤立した人生を送るところだった」

「ミスロたちがいるでしょう」

「支えてくれる人がいても、わからないものはある。貴方の言葉でいう、『ざまぁ系』? だったかしら、そんな展開になる可能性もあった」

「つまり、民間人である俺が彼女を試合で負かすことで、今のうちにあの子の価値観を変えたかったと?」

「気に食わない?」

「俺はそんな柄じゃないんですよ。あの子を変えるなら、アルファにやらせればよかった。ディザイダは俺が見ても素晴らしい腕をしていた。剣を通せば、二人とも心を通じ合わせ、もっと別の解決道が……」

「できないのは分かっているでしょう?」

「……妹様、ですね」


 そこで一度口を閉ざすと、二人は天井を見上げた。


「貴方が来て十年……そして、十年目にして、彼らはまた来てしまった」


 フィナはどこか空虚さのある笑みを浮かべる。


「私や兄妹たちが討ち漏らした一体が、ミスロたちを襲った。ただでさえあの子にとって許せない事だったのに、それを倒されてしまった」


 ゼットは何も語らない。


「もしかしたら、真っ先に変えなくちゃいけないのは、あの子かもしれないわね」

「恐ろしい事を仰られる」

「大丈夫、貴方への依頼は変わらない。だから、どうか――――」


 その時、ゼットとフィナが同時に動きを止めた。


「……噂をすれば影……すみません、ゼット」

「わかりました。あちらは俺が対処します……ラトゥス様は、妹様の方へ」

「ご武運を」


 フィナが言い終えるのと同時に、ゼットの姿が跡形もなく消えた。

 小さく息を吐くと、フィナはまた天井を見上げ、


「では、いつも通りお願いしますね、ヴァンドラ」


 つぶやいて消えた。

 応接間は、薄暗さと静けさを取り戻した。まるで、最初から誰もいなかったように。


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