chapter24 決闘騒ぎ!①
令和になってからの投稿第二弾は機巧のギルフェンセィアです。
「あらあら、どうしたの皆さん? 騎士様たちまで……」
頬に手を当て、おっとりと首を傾げるフィナの雰囲気に不穏だった空気が霧散する。
フィナに視線を向けられ、我に返った副隊長はゼットとアルファを一瞥し、踵を返した。
「明日、駐屯地に来なさい。アルファさん、スクーテ様、オージュ様、セイバー様、そして他の騎士見習いもです」
静かに言い放つと、副隊長は今一度振り返り、ゼットを睨んだ。
「貴方もです。ゆっくりとお話ししましょう」
「わかりました」
「……ベルさん、行きましょう。スクーテ様とオージュ様も。お送りいたします」
ベルが内心で息を吐いたが、この後に待ち受けている副隊長の行動を考えると安心はできない。帰ったらすぐにミスロたちに知らせないといけない。そうでないと大変な事になる。
「あら、アルファちゃん、どうして泣いているの?」
「っ……ぐすっ、泣いてないよ! 目に埃が入っただけだから!」
「そうなの? そうよね、アルファちゃんは強い子だものね」
フィナがアルファへ近づき、その頭を優しく撫でる。
アルファの心はそれだけで、不思議と安らいでいった。
「でもリリアンちゃんは泣いて……あら、あらあら、やっぱり、皆、何かあったの?」
「何もありません。失礼いたします」
ミルシャは毅然と言い放ち、玄関外で待っている副隊長の下へと向かった。他の騎士見習いたちも同様に顔を上げ、その後へ続こうとする。
「そうなの? ……あ、そうだ、次に来た時は、私も皆の稽古の様子を見学させてもらってもいいかしら? 皆、どれくらい強くなったのかなぁ?」
「稽古は、今日で終わりです」
ゼットが穏やかな表情でそう告げると、アルファたちが顔を俯ける。
それを見たフィナは眉を悲しそうに下げた。
「そうなの? 皆、後少ししたら、昔のユーフィッド様たちが受けたような稽古に入ったのに……」
「ラ、ちょっ、フィナさん?!」
頬に手を当て、心底残念そうなフィナの発言に、ゼットは先ほどとはまた違ったベクトルの慌て方をしていた。
フィナのその言葉に、その場にいた全ての者たちが反応した。
「それは、どういう意味ですか?」
もちろん、副隊長も振り返った。
斜陽を受けて影のできた顔は無表情で、微かに見開かれた目が爛々と輝いていた。
ベルも息を呑むほどの副隊長の気迫に気付いていないのか、フィナは柔らかい雰囲気のままだ。両手を打って、待っていましたとばかりに喋り出した。
「十年前、まだ騎士見習いだったユーフィッド様たちがゼットさんから教わったんです」
副隊長の眼力と威圧感が更に強くなったので、ベルは今すぐにでもフィナの口を塞ぎたい衝動に駆られた。
ゼットに、話をしたのか、と視線を向けると、話していないと首を振られた。
という事は、ライカかエールの奴ね……。
帰ったら報告ついでに、口を滑らした疑いのある奴を片っ端からとっちめようと心に決めたベルだった。
ベルが八つ当たり気味の決意をしている間にも、副隊長の威圧感はいよいよ最高潮に達しようとしていた。
すでに騎士見習いの中にも失神寸前の者が出ていた。アンジュが肩を支えてやることで気を取り直したが、半泣き状態だ。
アンジュも、副隊長の怒気に気圧されていた。
自分とさほど変わらない年頃の娘でありながら、天と地ほど離れた実力を嫌でも感じさせられる。
「ミスロさんたちが教わった……? まさか、ベルさんも?」
「はい……」
ベルは内心で頭を抱えた。もうこれは手遅れだ。彼女の脳内で、副隊長の怒りが爆発するまでのカウントダウンが始まった。
「剣だけではありません。私たち民にも公開されたトーナメントで、第一小隊が毎年優勝されていますが、かの団体戦でユーフィッド様たちが使用した翼のような陣形がありましたよね。あれは『鶴翼の陣』と申しまして、ゼットさんが教えられた作戦なんです!」
「……。…………方法は教えましたが、俺が作った兵法じゃないですよ?」
フィナの言葉に抵抗を見せていたゼットだったが、諦めたらしい。どうにでもなれと口調が語っている。
その途端、何かが副隊長の頭の中で切れた音を、その場にいた全員が幻聴した。
副隊長は不気味なほど滑らかに振り返ると、ゼットに向けて、いつの間にか抜いた愛剣の切っ先を突き付けた。
「ゼット・ワンダー、貴方に決闘を申し込みます」
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