chapter25 決闘騒ぎ!②
洞窟の天井に開いた穴から見える夜空を、いく筋もの光が流れていく。
真っ暗な洞窟を照らすのは星光ではなく、穴の真下で佇む騎士の襟巻と鎧だ。太陽を思わせる金色と、それに照らされる緋色の鎧が黄昏を思わせる幻想的な光景を作り出している。
まるでおとぎ話に出てくるような騎士は、しかし、目の前の岩の上で笑い声をあげる赤子を見下ろし、苦悩の声を上げている。
その様子が、幼い日に見た父の姿と重なって見えた。
吹き飛ばされ、地面に倒れていた私は、痛みを忘れて立ち上がり、思わず声をかけていた。
「……貴方が、その子を育ててみてはどうだろうか」
騎士が振り返る。
美しい鎧兜が消え去り、彫のない、子どもにも見える、年若い男の泣きそうな顔が現れる。
そのような顔を見たのは、この時限りだったな。
そう思ったところで、これが夢だとわかり――――……。
MMMMM
ミスロが目を覚ますと、日がかなり傾いた時間帯だった。
訓練中の騎士たちの声や、激しくぶつかる木剣の音、訓練場を駆け回る靴音などが遠くから聞こえてくる。
夜勤明けとはいえ、これは少々酷いな、と頭を振る。
眠り過ぎたせいか、少し痛む額を指で揉みながらベッドから出て、身支度を整える。寝汗もぬぐい、髪もとかしたところで、向いのベッドで眠りこけている親友の姿を見つけた。
見習い時代から苦楽を共にしてきた親友は、あどけない寝顔で気持ちよさそうに寝息を立てている。
まるで、夜中の出来事を忘れたかのように。
ミスロは音を立てないように部屋を出た。
さて、夕食までにはまだ時間があるし、何をしたのものか……軽く運動して、武具の手入れだな。
考えを纏め、訓練場へ足を運ぶと、騎士たちが次々と訓練場へ向かっていくのが見えた。
召集があったのか、と思ったが、それにしては歩みの遅い者もいるし、どこか雰囲気も楽しそうだった。
「何なんだ?」
「あ、ミスロ、起きたのね!」
振り返ると、同僚のエールが駆け寄ってきた。その顔には焦りが見える。
「何があったんだ?」
「実は……」
「ミスロぉ、大変、大変なの!!」
今度は、向こう側からベルがものすごい形相で走ってきた。あまりの様相に、男性騎士ですら大きく道を開けるほどだった。
「どうしたんだベル。副隊長の補佐はどうした?」
「その副隊長が問題なのよ!」
「何?! 副隊長の身に何があったんだ!?」
「違う違う! そうじゃないのよ! 決闘、決闘よ!」
「はぁ……? 決闘じゃなくて試合の間違いじゃないのか?」
まさか、副隊長に試合を申し込むバカが出てきたのか。
ミスロは額を押さえた。
副隊長は一見可憐な乙女に見えるため、新人の中には彼女に力試しを挑む輩がいる。そして、試合開始直後に得物を弾き飛ばされ、返り討ちにあうのが通例となっている。
なお、許可のない決闘は禁止されているため、例え本人たちにその意思があったとしても、騎士団内では試合という形で戦うのが通例となっている。
「今年は……随分と遅めの挑戦者がいたものだな」
なるほど、どこか楽しそうな雰囲気があるのはそのためか。人騒がせな。
「違うの、挑んだのは、エウィ副隊長よ!」
「は?」
「そうなのよミスロ、試合じゃなくて決闘って――」
「ってエール! アンタ、もしかしてフィナさんに鍛錬の事をしゃべったんじゃないでしょうね?!」
突然ベルがエールに詰め寄ったが、ミスロが首根っこを掴んで抑えた。
「待て、今、フィナと言ったか?」
「そうよ! フィナさんが副隊長にあの事をしゃべっちゃったのよ!」
「まさか……」
状況を理解し始めたミスロに、ベルは頷いた。
「この決闘は、副隊長がゼットさんに申し込んだものよ!」
「な――――!」
決闘騒ぎ!
ミスロはいても経ってもいられず、走り出した。
まずい、もう手遅れ……かもしれないが、これ以上の騒ぎになる前にどうにかしないと、色々と収拾のつかないことになる!
しかし、彼女の願いも虚しく、訓練場の前にはすでに人だかりができていた。
「通してくれ、第一小隊の者だ!」
人をかき分け、訓練場へ飛び込んだ。
その中心では、軽装姿の副隊長とゼットがシナイを持って対峙していた。
少し離れた場所では、アルファやリリアンにアンジュ、騎士見習いたちと、何故かミルシャとマルタが二人の様子を見守っている。
その中に、フィナの姿を見かけ、ミスロは天を仰がずにはいられなかった。
ダメだ、これは完全に手遅れな奴だ。
エールさんはchapter7で、ミスロに名前を呼ばれています。(宣伝)




