chapter22
ミスがあったので、前話の内容を変更しております。お手数ですが、そちらから先にお読みください。
ミルシャとマルタが帰った後、アルファは残っていたリリアンたちと共にゼット手製のクッキーを食べていた。
甘すぎず、堅すぎず、ふわりとした香りと舌触りに、子どもたちは稽古の疲れを忘れていた。
ミルシャたちにもお土産に持たせている。
受け取る際に、いつもの憎まれ口は叩かず、ゼットへ丁重な礼を述べる姿は、普段の振る舞いを知るリリアンたちを驚かせていた。アルファは特に気にした様子もなく、終始笑顔だった。
別れ際にミルシャが「明日は絶対に負けませんわ!」と言うと、アルファも阿吽の呼吸で「私も負けないよ!」と返す様子に、見送りに来ていたアンジュとサァフは懐かしいものを見るように笑みを浮かべていた。
アルファは明日のミルシャとの試合が楽しみだった。クッキーを齧りながら、こう攻めてきたら、どう返そうかと頭の中でシュミレートを繰り返している。
「アルファちゃん、楽しそう」
それを見守るリリアンの目は慈愛に満ちており、二人を見る他の子どもたちも優しい気持ちが内側から出ているようであった。
その時、呼び鈴が鳴り、アンジュの出迎える声が聞こえたかと思うと、彼女の驚いた声がアルファたちの耳朶を打った。
少し慌てた様子に、すぐさまアルファが、続けてリリアンや騎士見習いが立ち上がり、急ぎ足で様子を見に行く。
待合室では、ゼットとアンジュが、見慣れぬ女性の騎士と向き合っていた。
その後ろでは、ミスロの同僚のベルと、何故かミルシャとマルタがいて、騎士の様子をどこか不安そうに見守っていた。
騎士の年頃はアンジュと同じか、少し上くらいだろうか。凛々しくも綺麗な顔立ちと、強い意志を宿した目をしていた。
第一印象でアルファは、この騎士がミスロやライカと同等か、匹敵する力量の持ち主であることを感じ取った。同時に、近寄りがたい雰囲気はあるが、悪い人ではなさそうだ、とも思った。
ゼットも、特に警戒した様子はなく、落ち着いて騎士へと対応していた。
「貴方が、ワンダー先生ですか?」
「はい、私がゼット・ワンダーです。それで、副隊長はどうしてここに?」
そう答えたゼットを副隊長と呼ばれた騎士は見つめた。
「スクーテ様とオージュ様に聞きました。こちらで稽古をなされているとか」
副隊長の言葉に、ミルシャが気まずそうな表情を浮かべる。どうやら、帰宅途中で副隊長たちと会い、そこで話してしまったのだろう。
普段はあまり表情に変化のないマルタも、ばつが悪そうにしている。
ベルが二人を気の毒そうに見ていることから、自ら進んで話したのではないということは、何となくわかった。
アルファたちからは見えていないが、ゼットはミルシャたちを一瞥し、その際に気にしなくていいと言うように目元を和らげ、すぐに副隊長へ視線を戻した。
「はい。そうです」
「こちらは診療所と伺っていたのですが……」
副隊長がここでアルファたちへと顔を向けると、騎士見習いたちが息を呑みつつ、姿勢を正した。
「七大騎士のご子息とご息女に、王国騎士の見習い志望……ここは道場だったのですか?」
「副隊長、これは……」
ベルが口を開くも、副隊長が目線でそれを止めた。
「ベルさん、貴女はご存じだったのですね?」
「……はい」
「という事は、こちらへよく来ているミスロさんやライカさんはもちろん、私の隊の方々も……」




