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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第一章 ワンダー診療所へようこそ!
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chapter16 ワンダー診療所へようこそ!

 いつもは夕飯の時間だが、その日の食卓には普段の野菜料理やスープとは別に、旬の果物がふんだんに乗せられた焼き菓子が並べられていた。

 ゼット手製のフルーツタルトで、特別な日のスペシャルメニューだ。

 つまり、今日と言う日は――


 アルファ、十歳の誕生日だ。


「アルファちゃん、十歳の誕生日おめでとう」

『アルファ、おめでとう!』

「ありがとう、皆」


 リリアンやアンジュ、ミスロ、ライカ、ゼットから祝われ、アルファが頬を赤くしてはにかんだ。

 毎年のことだが、こうして大好きな人たちからお祝いされることは楽しく、幸せだ。


「今日は来ることができなかったが、コーシェからも『誕生日おめでとう、アルファちゃん』との伝言を預かっているぞ。同封してあった乾燥ハーブはクッキーに混ぜてある」


 ゼットが手紙を読み上げると、アンジュが肩を竦めた。


「コーシェの奴、妹分の誕生日くらい顔を出しなさいっての!」

「街道の封鎖や規制があったんだ。仕方ないだろう」


 そう言うミスロの隣で、ライカが明後日の方向へ視線を逸らしている。

 二人の様子に小さく首を傾げたアルファだが、それよりも手紙の送り主が元気そうなことに喜んだ。


「じゃあ、もうすぐ帰ってくるんだね!」

「そうだな、また騒がしくなる。っと、そろそろケーキを切ろうかと思うが、その前に。アルファ、今日はお前の誕生日を祝ってくれるゲストが来ているんだ」


 ゼットが言い終わると、家の奥からマントを被った怪人が出てきた。

 全員の視線が集まる中で、怪人がおもむろにマントを脱ぎ捨てると、サーカスにいたピエロが姿を現した。


「あ!」

「まぁ!」


 アルファとリリアンが驚きの声を上げる中、ピエロは両手を素早く交差させる。すると、その指の間に球が出現した。それを一つずつ天上へと投げ、落下してきたものを一つ残らず受け止め空中へ投げ返していく。


「さぁさ、今日は麗しのレディのおめでたい日と聞いて、私、お祝いに参りました!」


 華麗なジャグリングを披露し終えて腕を交差させると、玉が一瞬にして消えてしまった。

 全員が拍手を送る中で一礼したピエロは、アルファの元へゆっくりと近づき、まるで、騎士が淑女へ愛を捧げるかのように片膝をついた。


「お誕生日、おめでとうございます。麗しき私のレディ」


 手首を一回点させて、空中から取り出した花を差し出すピエロに、アルファが満面の笑みを向ける。


「ありがとうっ、ピエロさん!!」

「おぉ、喜んでいただけたようで、私の方も大喜び」

「でも、どうして私の誕生日に来てくれたの? サーカスは?」

「はい、実は私サーカスの仕事をやめまして、今は新しい仕事に着いたのであります」

「えぇっ、サーカスやめちゃったの?!」

「そこにはもう致し方ない理由がありまして、それはもう、はい、騎士の皆さま方が上を下への大騒ぎになるほどの」


 そこでミスロとライカが何とも言えない表情になってピエロに視線を送るが、当の本人はそれを全て無視していた。


「私、新天地で頑張りますよ、ははは」

「そうなんだ……じゃあ、もうピエロさんの玉投げは見られないんだね」

「いえいえ、そんなことはありませんよ」


 気を落とした様子のアルファに、ピエロはそっと顔を近づけた。


「これからは、好きな時にみせてやるよ」

「え?」


 唐突に声音と口調の変わったピエロだが、しかしそれ以上にアルファを驚かせたのは、


「サァフ、お姉ちゃん?」


 サァフが不敵な笑みで頷くと、アルファは目を見開いたかと思うと、感極まったように抱き着いた。

 押し倒すような勢いだったが、サァフは少しだけ面食らいながらも、倒れることなくアルファを受け止めて見せた。


「誕生日おめでとう、アルファ」

「ありがと、サァフお姉ちゃんっ!」


 目尻に涙を浮かべるアルファの笑顔に、サァフは頬を緩ませた。アルファが花を受けると、アンジュが差し出した手拭いで顔を拭いた。


「でもでも、お姉ちゃん、お家に帰らなくていいの?」

「あぁ、それがな、ちょっと色々あって、今帰られなくなっちまってさ」


 サァフに視線を向けられたミスロとライカが首肯した。


「彼女の話は本当だ。詳しくは話せないが、しばらくアスカスにとどまることになった」

「でも、お家の人は?」

「それなら手紙を出してある。数日のうちに彼女のご家族に届くだろう」

「ならいいけど……」

「大丈夫だ、気にするなって。時間は少しかかりそうだが、ちゃんと会えるからよ」


 心配そうなアルファの頭に、サァフの手が置かれる。


「だからその間、よろしく頼むぜ」

「え?」

「言っただろう、新天地で頑張るって」


 そう言ってサァフが見やった先には、苦笑するゼットがいる。

 しばらく呆然としていたアルファだったが、状況が飲み込めたようで、サァフにもしかしてと期待の眼差しを向けた。


「今日から、この診療所で住み込みで働くことになった、サァフだ。これから、またよろしくな、アルファ」

「うんっ! よろしくね!」


 再び抱き着いたアルファを今度はサァフも最初から抱きしめ返す。


「サァフお姉ちゃん、ワンダー診療所へようこそ!」


 アルファ・ワンダー、十歳の誕生日。

 彼女に、新しい友達ができた。



お読みいただき、ありがとうございます。


これにて第一章本編終了です。

次回、第一章エピローグになります。

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