chapter15
翌朝、アルファは登校前にサァフと話をしていた。
「夕飯も朝飯も、滅茶苦茶美味かったけど、作ったのはお前、あの助手か?」
「うぅん、パパだよ」
「ぇ、あいつ料理できるのかよ。医者じゃなくて料理人になった方がいいんじゃないか?」
頬を引くつかせるサァフだったが、すぐに真顔になった。
「……なぁアルファ……ありがとうよ。お前たちのおかげで、思ってたよりもずっと早くに家に戻ることができそうだ」
「その方がいいよ」
アルファはサァフの手を握った。
「きっと、お家の人が心配してるし、サァフお姉ちゃんのお母さんもそうだと思う」
「あぁ、そうだな……お前のおかげで、素直に帰れそうだ」
と、鐘の音が聞こえてきたため、アルファはサァフから離れて、足下に置いていた鞄をとった。
「もう行かなくちゃ。朝からごめんね」
「気にしてねぇよ。あ、そうだ。昨日、庭で素振りをしていた奴がいたんだが、誰か知ってるか?」
「それ私だよ」
アルファの答えにサァフは少しだけ驚いたように目を見開くが、すぐに微笑を浮かべた。
「そうか。お前、将来いい騎士になれるかもな」
「ありがとう。でも、私は」
「おぉいアルファー遅刻すっぞー」
階下から聞こえ来たゼットの声に、アルファは慌ててドアへと向かい、ふと振り返った。
「サァフお姉ちゃんも、騎士だよね? だって、ミスロお姉ちゃんたちと同じ感じがするもん」
「え?」
「サァフお姉ちゃんも、お家に帰ったら、騎士のお仕事がんばってね! ばいばい!」
「あぁ、じゃあな」
慌ただしく出て行ったアルファを茫然と見送り、サァフは上半身をベッドへと倒れさせた。
「……騎士……じゃないんだよなぁ、ちくしょう」
苦笑が漏れるし、悔しいとは思っているが、サァフは妙な清々しさを覚えていた。
その時、ノックがあり、ゼットがいつもの騎士二人を連れて入ってきた。
「すまんな、娘が迷惑をかけたみたいだ」
「別に迷惑だなんて思っちゃいねぇよ。ちょっと、押し付けがましいところはあるが、いい子じゃねぇか。どこかの誰かさんと違って、素直な奴だ」
サァフの仕返しと言わんばかりの言葉に、ゼットは褒め言葉だと肩を竦めた。
「……んで、私の情報は役に立ったのか?」
「あぁ。それと、隠れていた残党どもも一掃できたとウェーレ王国から連絡があった」
「そいつはよかった。これで、私もお役御免って奴だな」
サァフはベッドから起き上がると、両手を差し出した。
「ゼット先生、世話になったな。助手の奴にもよろしく伝えておいてくれよ。さぁ、連れて行ってくれ。逃げも抵抗もしない」
「……わかった」
騎士は頷くと、サァフの手を取った。
ααααα
学校からの帰り道、アルファはサーカスを覗いてみたが、ピエロの姿はどこにもなかった。
「今日もいなかったなぁ」
「最終日なのに、風邪でも引いたのかしら?」
リリアンも首を傾げるが、答える者は誰もいない。
「アルファさんは本当にあの道化師の事が気に入ってますのね」
「なんか、気になっちゃって」
アルファの答えに、ミルシャがやれやれと首を振る。数時間前、剣術の授業でアルファに返り討ちにあってできた心の傷は、もう塞がっているようだった。
「ところで、どうしてミルシャたちは着いてきたの? 帰り道、あっちだよね?」
「私もサーカスに少し興味があっただけですわ。別に貴女方に着いてきた訳ではありませんの」
「そっか」
アルファは素直にミルシャの言葉を受け取ったようだが、リリアンと取り巻きの少女はため息をついていた。
その後、リリアンたちと別れ、家に帰るとアンジュが出迎えてくれた。
「あのサァフって子、もう行ったわよ」
「うん……」
「元気がないわね。そんなに気に入ってたの?」
「折角、友達ができたのになぁって思って」
アルファが素直な気持ちを伝えると、アンジュは肩を竦め、頭を撫でてきた。
「友達が退院できたんだから、喜んであげなさいよ。ミスロ様とライカ様が付き添ってくれていたから大丈夫よ」
「うん、そうだよね」
「そうそう。それに、今日の主役が落ち込んでいたらダメでしょ?」
アンジュの言葉に、アルファは首を傾げるも、すぐに笑顔になって頷いた。




