chapter11
こちらもお待たせいたしました。
今回は本当に短めです。
サーカスの翌日の早朝。
ワンダー家の裏庭で、アルファは素振りを行っていた。
握っているのはボクトウという木剣の一種で、刃にあたる部分は片方にしかついていない。以前、ゼットが使用しているのを見て、自分も使いたいと言ってもらったものだ。
普通の木剣よりも重たく、ミスロ曰く実戦で十二分に威力を発揮する代物であるらしいため、外に持ち出すことは許されていない。
鋭く空気を切るボクトウ。それを振るうアルファの姿勢にはブレがない。
早朝の陽光を浴びた黒髪が艶やかに輝き、上気した頬を伝う汗も、一生懸命に素振りをする姿も、不思議と美しい。
と、その腕が止まった。
入口から、ミスロとライカが顔を出したのだ。
「お疲れ様っ、気合が入ってるわね!」
「えへへ」
ライカが差し出した布を受け取って汗を拭き終えると、アルファの視線が二階へと向かう。
「患者さんは起きたの?」
昨日、サーカスから帰ると、ゼットから入院患者が来たと知らされた。
お祭り騒ぎで怪我でもしたのかもしれないが、ワンダー診療所に入れば瞬く間に良くなる。
それでも、やはり気にはなるもので、ついつい聞いてしまったのだ。
「あぁ。少し疲れている様子だったがな」
「そうなんだ」
それなら入院生活をしていくうちにみるみる元気になっていくと、アルファは小さく胸を撫で下ろす。
すると、ライカが少し前かがみになってアルファへ目線を合わせ、
「いい、アルファ? ゼットさんから聞いているとは思うけれど、入院患者の部屋に近づいちゃだめよ?」
「うん。患者さんがゆっくり休めるようにするよ」
「アルファは優しいわねぇ」
ライカはニカッと笑ってアルファの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「相変わらずサラサラしているわよね」
「いつまでやってるつもりだ。アルファも困っているだろう」
ミスロに引きはがされたライカが「あぁ、癒しがぁぁ」と名残惜しそうな声を漏らす。
「邪魔をした」
「またねぇ!」
「うんっ」
アルファは照れくさそうに笑い、仕事へ戻る二人に小さく手を振ったが、ドアが閉まるとすぐに素振りを再開した。
それから、アンジュが呼びにくるまで、ずっとずっと、一心不乱に振り続けた。




