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蒼い髪と瞳のパルス 3話

第3 話です。

お読みいただきありがとうございます。

今回は狸の容赦ない暴力性と、パルスの持つ歪な背景と心理描写を少し厚めに加筆しました。

ダークで容赦のない異世界ファンタジー、今回もよろしくお願いします。


酔っ払い相手に無駄に見栄を張り。

あろうことか一泊五十ゴールドの高級宿に身を投じてしまった。

まあ、昼間までいちゃついていたんだ。

その程度の出費、死ぬ寸前から天国に来た俺からすれば

お釣りが来るようなものだが。残り200ちょいか……。


一般に、女性の評価において清潔感は最大のファクターであり。

特にこの命がけの情事においてはなおさらだ。

寝室の環境はもちろんのこと、爪の先まで入念に手入れをしておくことこそが、夜の戦いにおける最低限の礼儀というものだ。


さておいて、潮風の心地よい港町の朝である。

足取りは軽く、朝の新鮮な空気が貪欲な肺腑へと流れ込んでいく。

鳥のさえずりと、ほどよく肌を刺す太陽の光そして熱が俺の肉体を心地よく包み込んでいた。

別れ際、宿の扉の前で名残惜しそうにキスをねだってきたバルキリは、すでに職場へと向かっているはずだ。



「あんたに会えてよかったよ! また絶対よってくれよな」



気丈な振る舞いの中に覗く、あの媚びた愛嬌も悪くはない。

男女の仲を最短距離で深めるためには、結局のところ肉体を交わし合うのが一番の近道だ。

世の男どもは往々にして、目の前の女を「大切に扱いすぎる」という美徳の名の自己満足に浸り。

肝心な一線を越えることを躊躇する。


結果はどうだ。

男の側は情愛のつもりでいても、女の側はいつの間にか「ただの便利な男友達」へと格下げしている。

一年も経過すれば、勇気が出せなかった代償として、ただ一緒に飯を食うだけのピエロに成り下がる。

よくある滑稽な敗北劇だ。


思い出に浸るのは、この美しい景色のせいか。

ガキの時の感傷に浸る時間は終わった。


ここには、かつて俺の背中を執拗に追い回していた鬱陶しい軍隊も警察もいない。

謳歌すべき、実に素晴らしいセカンドライフの幕開けである。

宿の木扉を押し開け、燦々と降り注ぐ日差しと塩気を含んだ風を感じながら。

俺は再び中央の銀行へと歩みを進めた。



「おーお天道様はよく働くねぇ。さて、俺の当座の食い扶持をどう稼ぐか……」



この世界における資金調達の手段は、冷静に分析すればいくつかの選択肢に絞られる。

第一に、完全に労働を放棄し、バルキリのヒモとして寄生する道。

昨日仕掛けたような美人局の真似事を繰り返せば、それだけで当面の酒代くらいは捻出できるだろう。

だが、そんなものはすぐに都市の裏社会で悪評として定着する。女一人の寵愛に依存した瞬間から、俺の自由は消え失せるのだ。小物のやることだな、パスだ。


残された選択肢は「労働」「略奪」「転売」、あるいは「他人を働かせること」のいずれか。

そういえば、昨日の道すがら、北方の丘陵地帯に野生の馬の群れが生息していたはずだ。

あれを捕らえて売り払えば、一頭あたり400ゴールドの価値には化けるだろう。



「ブヒヒヒヒン!」



3時間後


見渡す限りの草原で、牧草のクズと泥まみれになりながら大の字で転がっている男が一人。

それは俺だった。


どうやらこの世界の生態系において、馬という生き物は「テイム(調教)」という概念を経由しなければ、騎乗することも売却することも許されないらしい。

他者がすでに調教を終えた個体であれば話は別だが、野生の獣はそう都合よく人間の言うことなど聞かないのだ。



「そういや、あのバーテンが言っていたな。なんでも、特定の行動を執拗に繰り返すことで『スキル』を獲得できるとか……。少し、実地で試してみるか」



それから3時間後



容赦なく照りつける太陽の下、俺は返り血の凝固した悪臭を放つ衣服のまま。

再び草原の地べたに這いつくばっていた。

すぐ傍らには、一本の首を不自然な角度に曲げた野生馬の死体が転がっている。


――あまりにも言うことを聞かないので、業を煮やして素手で殴り殺してやった。


最初は懐柔しようと餌を買い言葉をかけ、首筋を撫でてやった。

だというのに、その分際でこの獣めいた四つ足は、気まぐれに耳を絞り。

鋭い蹄で俺の肩を蹴り飛ばしやがったのだ。

それから新しい餌を買いに街へ、持って草原へ。

繰り返し繰り返し、蹴られ続け。

理不尽な反発に、俺の中で冷たい沸点がスパークした。


他人に従うことを拒絶し、己の力だけを信じて生き抜いてきたこの俺が。

たかが獣如きに舐められる謂れなど微塵もない。

狂ったように暴れる馬の頭部に、俺は強化された肉体の全出力を乗せた拳を叩き込み続けた。

グシャリ、という生々しい骨の砕ける音が草原に響く。


鼻腔を突くのは、鮮血の鉄臭さと、恐怖に歪んだ獣の糞尿の悪臭だ。

馬の頭部が完全に陥没し、痙攣からやがてピクリとも動かなくなるまで。

俺は何十発も、気が済むまでその肉塊を殴り続けた。

怒りに任せて無駄な体力を消耗した結果がこれだ。


もっとも、致命傷に至る前に暴れ回ったため、体内の血抜きしても食肉としては下。

これでも肉屋に持ち込めば幾らかの足しにはなるだろう。

だが、野生の馬の肉などお世辞にも美味とは言えない。

しかも、激しい殴り合いの末に恐怖と興奮で血の巡った肉など、せいぜい家畜の飼料か革細工の素材の関の山だ。価値を見積もっても、よくて10ゴールドといったところか。


泥と血にまみれて二時間。牧場へ足を踏み入れてから合計6時間の労力の成果が、たったの10ゴールド。

10ゴールドといえば、昨夜の酒場であれば、一時間も経たずに喉の奥へと消えていく微々たる端金にすぎない。

一日中身を粉にして働いたところで、50ゴールドの壁すら突破できないという現実。

まるで「お前の生命の価値は50ゴールド以下だ」とこの世界に突きつけられているようで。

腹の底から不愉快な苛立ちがこみ上げてきて、俺は血まみれの拳を地面に叩きつけた。



ふと、その思考の海から引き戻されるように、視界の端で何かが動いた。

1頭の馬を撫でている、やせた小柄な少年だった。

目立つのは、異質なほどに鮮烈な青色の髪の毛。

この世界の住民に典型的な、綿や羊毛を粗末に紡いだチュニックとズボンに身を包み。

そこには微塵の男らしさも感じられない、頼りなげな童顔が張り付いていた。


彼の名はパルス。

この世界の底辺に生きる、典型的な「捨て駒」の弱者だった。

親の顔も知らず、物心ついた頃から馬屋の泥だらけの床で寝起きし。

その奇妙な青い髪と目の色を理由に、親戚の人間からは「呪われた血筋」「気味の悪い化け物」と蔑まれて育ってきた。

殴られ、罵られ、嘲笑われるのが日常だった彼は、いつしか他人の目をまともに見ることすらできなくなり、自分の存在そのものを消すようにして生きる術を身につけていた。

友達も話す相手もいないパルスは、動物と会話して毎日を過ごす。

そんな間にテイムのスキルが目覚めたのだ。そのスキルも利用された。

親戚はパルスから二束三文で馬を買い転売している。

心を折って利用するって事はよくある事だ。

彼にとっての世界は、理不尽に搾取され、痛みに耐え続けるだけの冷酷な檻に他ならなかったのだ。



「こっちへおいで……君のような、可愛い相棒が欲しかったんだ。ずっと一緒にいてあげるからさ……」



聞いてるこちらが気恥ずかしさで全身の産毛が逆立つような、甘ったるい台詞を馬に向けて呟いている。

遠目に見るまでもなく、うだつの上がらない一介の農民崩れか。

あるいはその手の底辺層に属するガキだ。

馬を言葉で口説き落として従わせられるなら、世の中の人間全員が調教師様さまだろうに。



ブルルルルルゥ……



奇妙なことに、その青年の後を、さきほどまで荒々しくい鳴いていた馬が大人しく従うように追従していく。

――一体、どういう現象だ?



「おい、そこの」



草むらの泥と血まみれの中からむくりと這い上がった俺の姿を認めた瞬間。

少年は文字通り腰を抜かし、派手に尻餅をついた。

それに反応するように、従順だったはずの馬が突然敵意を剥き出しに。

少年と俺の間に割って入るように身構える。



「な、なんでしょうか……っ!」


「いや、ちょっと聞きたい事があってな。……お前、その馬の機嫌をどうやって取ったんだ?」



俺を睨みつける馬の鼻先に軽く手を振って牽制しつつ。

俺はその少年の目の前へと歩み寄り、どかりと腰を下ろした。

間近で見ると、鮮やかな青髪の奥にある瞳もまた、深い蒼を湛えた大きな双眸だった。

容姿の造作自体は悪くない。

中性的な顔立ちに、嗜虐心をそそる雰囲気。

むしろ、身なりを整えて大貴族の小姓としてでも売り飛ばせば、それなりの高値がつく原石ではあった。


ボロを纏っていながら、一瞬その瞳の奥に吸い込まれそうになるほどの妙な引力がある。

俺の殺気を含んだ異様な容貌に気圧されたのか、少年は俺に怯えつつ足元の馬をなだめてどかした。



「あ、あの……どうかされましたでしょうか? もし、僕のやり方が気に障ったなら謝ります……!」



その反応を見た瞬間、俺の脳裏で冷徹な計算が走る。

裏社会の人間と対峙した際、最も犯してはならない致命的な行動。

それは「意味のない謝罪」を口走ることだ。

そんな真似をすれば、一巻の終わり。

相手にしゃぶり尽くされるか、下劣な標的として舐め切られる未来しか残されていない。



「そう怒るなよ。ただ、俺が気持ちよく昼寝をしていたところを盛大に起こしてくれたもんでね」



パルスの顔から急速に血の気が引いていくのが見て取れた。

両足が小刻みに震えている。

確かに、今の俺はさきほど殴り殺した馬の返り血が服についており。

日差しが血液を凝固させ赤黒い血痕だらけ。

そしてどう見ても紛うことなき悪党の面構えをしていた。


それにしても怯えすぎだ。

その異常なまでの恐怖心の裏側には、これまで周囲の人間から理不尽な暴力を振るわれ、虐げられ続けてきたトラウマが深く刻み込まれていることが嫌でも察せられた。

痛みに怯え、強者に迎合することでしか身を守る術を知らない、哀れな小動物の目だ。



「ご、ごめんなさい……っ! もし、この馬が気に入ったなら……差し上げますから!」



――馬を、くれるだと?


予想の斜め上をいく提案に内心で驚愕しつつも、タダでもらえる好意を拒絶するほど俺は野暮ではない。

なにせ、必死に一日中働いても買えないほどの高級品である。

それが、ただ昼寝から起きてゴネただけで転がり込んできたのだ。

俺の持っている運命の女神はまだ見放してはいないらしい。

これを売却すれば四百ゴールド。当面の酒代は確保できたも同然だ。



「ほう……そいつはありがたい。だが、お前、一体さっきまで何をやっていたんだ?」



「て、テイムの練習を……していました」



「テイムって言うと、例の……動物と意志を通わせるスキルってやつか?」



俺はここぞとばかりに、使い古した営業用の満面の笑みを貼り付けてみせる。

交渉の主導権を完全に握った今。

相手に対する心理的な優位を維持したまま、次なる情報を引き出すのが定石だ。



「は、はい……まだ、その、ほんの少ししか使えませんけど……」



「すげぇじゃねえか。悪かったな、さっきは少しキツい言い方をして。……これじゃ俺の格好がつかないな、馬を返すかい?」



「い、いえ! 全然こちらが悪いですし、本当にそれは差し上げますから……!」



まあ、そう答える以外の選択肢が奴に残されているはずもない。

「返す」と言われたところで、実際にはもう一度脅して奪い取るだけの話だが。

今の気弱な態度を見る限りその必要すらなさそうだ。


やや視線を宙に泳がせ、目を合わせようともしないその仕草。

典型的な自己肯定感の低い人間の特徴だった。

その奇妙な髪と目の色ゆえに、過去の集落や環境で何らかのいじめや疎外のトラウマを抱えていると見るのが妥当だろう。



「俺の名前は狸だ。馬を譲ってくれた礼に、せめてもの詫びとして飯でも奢らせてくれよ。このままじゃ男がすたる」



「そ、そんな……僕は、あ、名前はパルスっていいます。近所の馬屋で、雑用見習いをしてます……」



初対面の相手に対し、自分の所属するヤサまで自ら差し出すとは。

これほどの救い難い世間知らずが生息していようとは。

バカで素直な人間ほど、都合よく染め上げるための「最高の素材」にほかならない。

一度掴んだその手を、俺が生きて手放す道理はどこにもなかった。

確実な四百ゴールドを生み出し続ける、極めて御しやすい生体機械の誕生だ。


俺はパルスの肩を強引に引き寄せると。

当然のような顔をして、そのまま例の酒場『イエローキャブ』の敷居を跨いだ。



「僕、酒場に入るのなんて、初めてです……」



「で、普段の仕事が終わった後は何をして過ごしてんだ?」



「馬を叔父さんに預けて……その、10ゴールドで買い取ってもらって、ご飯を食べて、本を読んで……寝ます」



致命的に会話のテンポが悪く、要点がまとまらない典型的なコミュ障の特徴だ。

孤独の中で育ち、誰ともまともに会話を交わしたことがない彼の人生の輪郭。

その貧相な口調のなかにくっきりと浮かび上がっていた。

俺の中でのパルスの人間としての評価は地の底まで落ちていったが。

それに反比例して、奴を「手駒」として利用する際の経済的・実用的な価値は急上昇していた。

無知で真面目な人間ほど、最初の刷り込み次第でどれほどでも都合のいい忠犬に仕立て上げられる。



「おいバル、エールを二つと、適当なつまみを見繕ってくれ」



カウンターの向こうから、あのバルキリが姿を現した。

結い上げた艶やかな茶色の髪、引き締まった腰回り、そして男心を挑発するような妖しい目つき。

昨夜の濃厚な記憶が脳裏をよぎり、思わず下腹部に熱が走るのを自覚する。



「あら、早いお帰りで。……で、その可愛いお供は誰だい? なかなか綺麗な色の髪をしてるじゃないか」



「あぁ、こいつはパルスだ。将来の『天才テイマー様』でな、今日からの大事なダチだ。変なちょっかい出すなよ?」



俺は豪快に笑い声を上げながら、パルスの水色の頭をこれでもかと乱暴に撫で回し、バルキリに紹介する。

バルキリは面白がるような目を細め、パルスに優しい笑みを向けた。



「この人、見た目はこんなだけど、根は悪い人じゃないから安心していいよ。……ねえ、天才さん?」



パルスは耳の先端まで真っ赤に染め上げ、恥ずかしそうに視線を足元へと落とした。

生まれてこの方、まともに女性から優しくされた経験すらない彼にとって、酒場の場数を踏んだいい女のあしらいなど、劇薬以外の何物でもないらしい。

その赤面ぶりを見て、俺は心の底から愉快な気分に浸っていた。



「まったく、かわいいねえ。ほんと、不思議な組み合わせのコンビだこと。はいよ、冷えたエールと子羊の香草焼きね」



「おっ、相変わらず仕事が早いな。それじゃ、パルスとの出会いに乾杯だ!」



パルスは差し出された重い木製のグラスを両手で握り締め、おそるおそる、蚊の鳴くような声で呟いた。



「……か、乾杯……」



俺はいつものように、ジョッキの表面で冷気を放つエールを豪快に喉の奥へと流し込む。

昼間に馬を追い回して疲弊しきった身体の隅々にまで、炭酸の刺激と麦の苦味が心地よく染み渡っていく。

一方のパルスは、恐る恐る液体を舐めるように含んだ瞬間、あまりの苦さに顔を激しく歪めていた。



「パルス、いいか。酒はな、最初は誰もが『まずい』と感じるのが世の相場ってやつだ」



「そ、そうなんですか……?」



「一気に飲み干すんだよ。それを何度も繰り返しているうちに、今度はそれ無しでは生きられない身体に仕上がっていくのさ」



パルスは混乱した瞳で、俺とエールを行ったり来たりさせながら見つめていたが、やがて何かを決意したようにゴクゴクと喉を鳴らし、一気に飲み干した。

グラスを置いた彼の口元には、白い泡が無惨に付着している。



「うぇ……やっぱり苦いです……って、うわ、すみません、すみませんっ!」



「ハハハハ! まずいものはまずいと言えばいい、謝る必要なんかねぇよ。俺たちは友人だろ? まさか、そう思ってるのは俺だけじゃないよな?」



「そ、そんな……嬉しいです……」



俺はさらにパルスの肩に腕を回し、強引に密着させながらグラスを傾ける。

パルスは相変わらず照れくさそうに下を向いているが、その様相はまるで見習いの小動物のようだった。

だが、物事の本質とはそういうものだ。



「いいかパルス、世の中のどんなことでもな、嫌な事に正面から挑戦した奴だけが成長できるんだ」



「お前が飲むエールの美味さも、お前が目指すテイムの技術もな。すべて、楽をして手に入れたものに本当の価値なんかない」



動物のテイムという、彼がわずかに誇りを持っていた分野の言葉だったからか、パルスは深く納得したように真剣な表情で頷いていた。

調子に乗った彼は、勧められるがままにエールをお代わりし、次々と胃袋へと流し込んでいく。



「おぅ、その調子だ! もっと飲め、飲め!」



香ばしい子羊のロースト肉に噛り付きながら、酒をあおる。

熱を持った羊の脂が舌の上でとろけ、スパイスが効いた複雑な旨味が口腔いっぱいに広がる。

その濃厚な肉汁の余韻を、キンキンに冷えたエールが心地よく洗い流してくれるという最高のループ。


酒の回りに従って、パルスの緊張も次第にほぐれてきたらしい。

さきほどまでの縮こまった態度が嘘のように、身振り手振りが大きくなり、饒舌になり始めていた。



「い、いずれはねぇ……ぼ、僕も、ドラゴンをテイムしてみせるんです! そして王都に行って、何匹も……うへへ……」



「そいつはすげぇや! 大したもんだ、まぁ飲め飲め!」



気がつけば、店内の喧騒は夕暮れ時のそれに変わりつつあった。

テーブルに顔を埋め、完全に泥酔して意識を手放しているパルスの姿を確認しながら、俺は満足感を噛み締めて呟いた。



「これで……当面の『馬』に関する懸念事項は完全に消え失せたな」



ゲーム世界において、馬は資産であり、極めて高価な消耗品にすぎない。

その需要は毎日銀行前で売れる馬を見ればわかる。

その馬が、労せずして最安値の仕入れ値(実質ゼロ)で手に入ったのだ。

馬屋に持って行けば、ピンハネされ一頭100ゴールドだが。

行商人の真似をして街頭で直接売り捌けば、400ゴールドの相場でも飛ぶように売れる。

俺が240、こいつに160の配分でも1日遊ぶ金にはなる。


泥酔しながらも、夢うつつで俺の名前を口にして感謝の言葉を紡ぐパルス。

自分の知らない世界を知る高揚感に酔いしれているのだろう。

いかにも世間知らずの若造らしい、哀れで愛おしい傾向だ。



「た、狸さん……あ、ありがとう……むにゃむにゃ……」



「感謝したいのはこっちのセリフだぜ、パルスちゃん」



青く美しい髪を撫でると、心地よいサラサラとした質感が指先をくすぐる。

間違いなく、こいつは俺にとって最高に効率のいい「金の卵を産むガチョウ」だ。

明日の不安という名の重荷を綺麗に洗い流してくれた、実に都合のいい天使様だった。


ぐっすりと無防備な寝息を立てるパルスを横目に、俺はエールからより度数の高い強い酒へとグラスを持ち替えた。

夜の帳が下りるスカライトの街で、俺のセカンドライフは最高潮の滑り出しを見せていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

主人公の馬を殴り殺すシーンの狂気性と、パルスが抱える過酷な生い立ちやトラウマ。

狸のゲスさを強調してみました。

次回の展開もお楽しみに! よろしければブックマークや評価もよろしくお願いします!


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