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ロビンとタイマン 19話

因縁の決戦の朝。トリンの民を熱狂の渦に巻き込む魔法闘技場「PIT」にて、ついに最強の将軍ロビンと「鬼狸」の激突が幕を開ける。

周到に練り上げた戦略と、幾夜も頭に叩き込んだ魔法知識を武器に、狸親分が初手から一気に仕掛ける――!


 軍内で小規模なエキシビジョンマッチを想像してたが。

想像と現実は違い、1ヶ月後のトリンで解放祭という祭りがあるらしく。

トリン軍やスポンサーを呼ぶ大きな大会になるそうだ。

ロビン曰く、この戦いはトリン軍や義勇軍募集の宣伝になるそうだ。

抜け目のないやつだが、注目が集まるのはありがたい。



決戦の日。

トリンには魔法の闘技場があり、昔偉大な魔法使いが作ったとか。

死ぬ事も、怪我も後遺症も痛みもない闘争のできる場所。

皆にここをPITピットと呼んでいるようだ。

 簡単に言うと、魔法で出来た人間に換装して戦うので痛覚はなくなる。

切られると欠損部が光り輝き、血のかわりに光の粉がでる。

血の代わりなので、光の粉が出過ぎれば勝手に換装が解け敗者となる。

足を落とされればもちろん動けなくなる。

当時、軍のシュミレーションで似たような装置を体験したことがある。


 前線にごねるドエムルを残し、パルスを連れて闘技場に向かう。

闘技場の周りには試合前だというのに人だかりが出来ていて、出店が立ち並ぶ。

名物のイカ焼きをパルスと食べながら祭りの空気を肌に感じる。

噛むと歯を押し返す弾力と、ぶりっと歯切れのいい肉厚なイカ。

少し焦げた香ばしい甘辛いタレと、イカの歯応えが名物となるのを納得させる。


「おいしーね狸」


「確かにうめーな、親父もう2こくれや」


「狸、僕も僕も! おじさん全部で3つください」


ドヤ顔のイカ焼きの屋台の中年は大ぶりなイカを選んで渡してくれる。

してやられたようで悔しいが、この世界の飯は美味い。

逃亡中は、固形エネルギーのレーション。

バッカニアーズにいた時は、囚人をまとめていたとはいえ。

宇宙軟体動物やモンスターばかりで不味くはない、が決してうまくはない食事ばかりだった。

幾千と食べた宇宙軟体動物の思い出に浸り、それを凌駕するイカの旨さ。

思い出がフラッシュバックする。

イカでセンチメンタルな気分になるとは、俺らしくもない。



「狸あれ見て、酷いよ。狸が悪者みたいじゃん!」




パルスの指差す方向には

ロビンのフィギュアに、俺を悪魔の様に描写したポスター。

街ゆく人間も俺を遠目に観察している。

俺の評判から野次こそ飛ばないが、どう考えてもロビンを応援しているだろう。

そんな表情の野次馬達だ。

あとはパルスを勘違いして見てる、無意識なゲイ達くらいか。



「なーに、これで俺が勝つのがエンタメって奴や。楽しみじゃねーか」



「エンタメって何? っはふ あついー」



イカ焼きで火傷しているパルスを横目に、目的地に向かう。

人だかりと、喧騒が強くなってきた。

コロッセオの様な大きな闘技場に人が入りきらず、騒々しくわめきたてている。

興行が祭りになり賭け事として、町が熱を帯びている。



「無敵のロビン将軍とスカライトの鬼の戦闘だ! おっずは8対2だよー!」



 8対2とは、下馬評に随分差がついたもんだ。

俺はニヤッと笑う、負け戦で勝つ事ほど楽しい事はない。

武者震いってやつか、興奮すら覚える。



「酷いよ、狸はすっごい強いのに……でも相手も強そうだね。……狸大丈夫?」



 赤と黒のボンテージ女王様は目立つので、薄茶色のローブを上からはおったパルス。

水色の髪と瞳はローブを羽織っても目立つ。

毎度の事とはいえ、俺とパルスの思考が一致しない。

村娘にしか見えない小柄なパルスが、心配そうに俺の皮鎧の裾を引っ張る。

なんで俺より緊張してるんだ。



「パルス」


「何!!? 何か手伝う事ある? なんでも言ってよ狸」


「有り金全部俺に賭けとけ」


「うん!!」



 パルスは大きな蒼い目を一杯に広げて、満面の笑みで俺を見上げた。

ややドキッとしてしまったので、誤魔化すようにっぺと唾を吐き捨てる。

男のくせに、面だけはいい女だからな。

ずっと前線基地だ。バルキリーに会いたくなってきた。



「そーいや、あと魔法瓶におまえの唾を……。」


「え? 何? 何? 何でも言ってよ狸!」


「あー終わってから言うわ、大人しく待っとけ」


「う、うん! 頑張ってね」



 ドエムルの約束は果たさねばならないが。

実際頼むのは敷居が高かった。

何事も、やってみないと分からないものだ。


それはそうと、この1ヶ月ロビンの戦闘記録をPITの記録室で調べつくした。

ロビンの魔法の適正は高く、最高位の魔法で8THサークルまである内の最高位まで完璧に使える。

正直科学力で宇宙を飛び回る時代だ。

魔法なんて、電子書籍のフィクションだけの力というイメージしかない。

だが無知の固定概念は、無能の代名詞だ。

プライドや常識なんて、足を引っ張る糞でしかない。


それで俺は調べた、この1ヶ月パルスと魔法について。

2人の目が死んだ魚の目になり、魔法書の夢を見るレベルになった俺らに抜かりはない。

人には決まったキャパシティって物がある。

どんな優れた人間でも、全てを習得すれば何かを忘れる。


楽器が弾けても10年間触らず、他の技術を習得していれば一気に演奏レベルは落ちる。 

ロビンは魔法成功率修練に特化しているため、攻撃魔法の威力はスクロール並に低い。

魔法自体は絶対失敗しないが、効果や威力は最低レベルと言う事だ。

昔馬を殺してた3馬鹿の一人に、魔法を使う女がいた。

あの女は3THサークルの魔法しか使えなかった一般人だ。

あの雑魚女ですら8THサークルまで使えるロビンより、3THサークルまでの魔法なら攻撃力が断然高い。

俺は魔法について考え、無意識にぶつぶつl呟いていた。



「狸、どうしたの? 遠い目してるよ? また魔法の事考えてるんでしょ! 2人共一回リセットして普段の思考に戻そうって……狸ぃ僕心配だよ。勉強や暗記のし過ぎで体壊したら元も子もないんだよ。本当に気を付けてよ」



 パルスが上目遣いで、俺の方を見ている。

頼りない程蒼く透明感のある目は、いつ見ても慣れない。

目も髪もターコイズや青空を思わせる薄いライトブルー。

 にしてもあの暗記修羅場の日々を忘れる事が出来るのか。


余裕を持って、俺を心配するとは。

男の癖に女みたいな顔しやがって何故か腹が立つ、試すか……



「パルスあのよー」


「何? 狸どうしたの?」


「いや、ちょっと……あれ。1TH(1サークル)に一個だけ攻撃魔法あったよな」


「うん。マジックアロー通称魔法の矢、対象に向かって無属性の矢を飛ばす。エネルギー(ジュール)=初速×初速×矢重量÷2000。初速時速100キロ。これは術者の魔術熟練度・才能には関係なく一律の速度である事が王都国立魔法局ブリテン暦62年証明され、当時の……」



 質問した事により、突如パルスの蒼い瞳から光沢が消えて。

焦点も合わずにただ見開いている無表情のパルスの頭を、俺はにこやかな顔ではたく。



「っあ! 狸、僕いつのまにか気絶しちゃったみたい」


「俺より重症じゃねーか、もはやそれ後遺症だぞ」


「え? 僕またしちゃったのかな?」



 俺はため息をついて、10GPをパルスに渡し沢山出ている屋台を指さす。

屋台の店前には焼けた鳥がいくつもぶら下がっており。

鳥から出た油が、下の溝に落ちる。

溝には蒸したじゃがいもが敷き詰められうまそうだ。

タレの焼ける香ばしい匂いと鳥の油の匂いが混じって食欲をさそう。



「もういいわ。とりあえず、飯買ってこい」


「そうだよね! 腹が減っては戦はできぬだもんね! お腹減ったぁ行ってきます! あ、狸あれおいしそうだよ!」


「なんでもいいから、はよ買ってこい」


「分かった! 僕に任せといて! ねぇ狸あの手羽先激辛あるよ! トリン1の辛さだって! ねぇねぇ、マスタードヨーグルトってどんな味かな? 両方買っちゃおうかな?」


「……はぁ」



呑気なパルスを放置して、会場入り口の喧騒に目を向ける。

仰々しい文言が書かれた大きな看板。


【 Pit(ピット)の成り立ちと構造 】

それは、かつてこの星の理(ことわり)の綻びすら遊び道具に変えた。

途方もなき大魔法使いの気まぐれが生んだ神の偉業。

あるいは、戦に飢えた血塗られた者どもの終着地。

自らの生業として、ここで金を賭け生活する楽園。

生と死の境界がほんのりと曖昧に溶け合うその空間――

人はそれを、親愛と嘲笑を込めて『Pit(ピット)』と呼ぶ。

このpit闘技場は、肉体の損壊がただの演出に堕ちる場所。

どれほど鋭利な刃が皮膚を断とうとも、骨が砕け散ろうとも、本物の内臓が零れ落ちることは決してない。

代わりに溢れ出るのは、爛々と眩い輝きを放つ純白の光の粉――命の残滓を模した偽りの血潮のみ。

痛覚という生々しい呪縛を取り払われた虚構の闘技場。

それがここPITだ。覚悟はいいか?



「要するにお遊戯戦闘見せ物小屋ってわけか」



俺の声を聞いて、周りの目は怒りを灯す。

そんな奴らは決まって片手にチケットを握りしめている。

雑魚どもは、ロビンに賭けて破産すればいい。


人々は肉片が飛び散る光景をまるで上等な見世物のように消費し、熱狂の濁流に身を委ねていく。

血を流さぬ殺し合いに酔いしれる狂騒の穴、それがピットの正体だった。




 簡単に魔法を説明する。

一ヶ月必死にパルスと勉強した。

自分の人生に必要な知識は得るべきだ。

本当に地獄だった。話したいから話させてくれ。



この世界の魔法とは……。

金属鎧との相性が悪く、金属や武器を持っていると詠唱が高確率で失敗する。

集中が乱されれば詠唱も失敗する。

例えるなら数秒から数十分のミニリズムゲーム。

通常時クリアできるステージを、殺し合いの喧嘩しながらできるか。

答えは無理だ。


魔法は成功率を選ぶか

魔法攻撃適正を選ぶか

一般人はここで道が分かれる。

召喚・ヒールやバフは効果が変わらないので、上位サークル成功率特化。

攻撃魔法は魔法攻撃適正が全て、同じ魔法で威力が一気に変わる。

この二つを両立するには、若い時から血の滲む努力か才能が必要なのだ。

俺にも魔力はあるらしい、マジックアローが出た時は感動すら覚えた。

だがそこらの石を投げた方が全然良い。

ロビンは魔法成功率特化タイプだ。



高位の魔法になればなるほど、詠唱に時間がかかる。

1THサークル 生活魔法

生活に役に立つ魔法だ、夜目が見えるようになったり足を速くするなど。

攻撃魔法はマジックアローがあるが、威力はウサギも殺せない。

俺みたいに魔法攻撃適正が無い場合、小学生低学年のパンチ以下だ。

バフやデバフは魔法攻撃適正関係なく、成功するかしないかだ。


2~4THサークル 魔法使い

解毒や回復、ここらへんから魔法使っている実感がある魔法になる。

自分を強化したり、相手を弱体化する魔法もある。

これまた攻撃適正で威力が変わる、つまりロビンはヒールバフが使える。

特に要注意は、攻撃適正の関係ない壁召喚系の魔法だ。


5~6THサークル 魔法に人生捧げたの魔法使い

魔法の花形といってもいい攻撃魔法がそろっている。

様々な属性の攻撃魔法があり、良くコンボに使われる。

例えば6サークルのエクスプロージョン→数秒後に遅延し体のどこかが爆発する魔法。

その後に6THサークルのエナジーボルト→ 魔法に熟練したキャラクターの主砲


発動から爆破までのタイムラグを利用する、タイムラグの間に他の攻撃魔法を連続詠唱。

タイミングを合わせて大ダメージを狙うことも可能だ。

ファルッカでも使われるそうだが、6Th使えて魔法攻撃適正ある時点で化け物だ。

平和な街に殺人が趣味のこのレベルの魔法使いがいたら。

化け物以外の呼び方が正しいだろう。

ロビンだと成功するが、ダメージは軽いやけどとアザになる打撲程度だ。


7THサークル 大魔術師


そして、問題はこの7THサークル。

ロビンの主力魔法大多数を占める召喚術がある。

元素精霊召喚だ。

召喚は攻撃魔法適正がMAXでも0でも成功すれば同じ強さの精霊が出る。

壁と精霊を召喚士ながら戦うと見て間違いない。

精霊はペットと同じでMAX5のスロットを4使うので、馬を一匹しか持てない事になる。


8THサークル 戦術魔術


範囲魔法、地震や隕石なんかの英雄並の魔法がひしめき合っている。

普通に勝てるはずないが、詠唱に時間もかかる。

もちろんロビンが地震をうっても震度4くらいだ、死にはしない。

ただデーモン召喚とか、怖い文字もあるが。

ロビンは今回は時間的に召喚できないだろう。



「狸ぃ~! 狸ぃ~!」



 頭の中でおさらいをしていたら、パルスが帰ってきた。

あの遠くからでも分かる量は、小さいとはいえ鳥の丸焼き4羽は持ってるぞ。

しかも異様にカラフルな色まである、あれ焼き鳥だよな。

白 オレンジ 黒 …‥緑?


「これが激辛でー! 普通の塩・タレ1個づつと 見て! 見て! 名物の黒焼きこれは乞食焼きっていって、土の中で蒸し焼きにするんだって! おじさんが僕を女の子と勘違いして試食させてくれたんだけど、僕の一番のお勧めはこのあhfsかあsk焼きのタレはあhfsかあskが隠し味に使われているんだって! 狸どれ食べる?」


「塩だけでいい」


 俺は一番端の、塩味の鳥の丸焼きを得体のしれないバリエーションの中から無造作にとり頬張る。

タレにも何か変なのが入っていては危険だ……うまい。

鳥の濃厚な肉汁が、唾液と混ざり白くプリッとした弾力のある身が縦に裂ける。

無我夢中でがっついてしまう、骨を地面に捨てながら視線を肉から動かせない。

これなら、禍々しいカラフルなあhfsかあsk焼き以外なら期待できる。



「パルス、それはタレか」


「むひょ? もひょひょ? たぬひょ」


 口いっぱいに鳥が詰まってるパルス。

地面にはダンジョンの如く、骨が落っこちてる。

あhfsかあsk焼きは骨までカラフルなのか……気色悪い。

あれ4羽あったよな丸焼き、俺が1羽食べて。

通行人拍手してるし、ギャラリー増えてるし骨の量から考えて全部食べたのかこいつ。



「えへへへ、美味しかったね狸」


「お、おう」



 自分の喰った鳥の骨と俺の喰った骨を拾って、掃除しながら満面の笑みのパルス。

小さいとは言え、この細い体のどこに鳥の丸焼き3羽分にイカ2匹入ったのだろう?

もしかして魔法か……いかん、常に魔法について考えてしまう。

勉強もし過ぎると病気だな。


 飯を食った後パルスと別れ、闘技場の地下道、VIP用通路から控室へと移動する。

ロビンは有名人だけあって、下調べは完璧だ。

戦いに使ってくるであろう魔法も、すべてメモってある。

ロビンの初手は殆ど石壁を放ち、精霊を召喚している。

テレポート 部分麻痺 毒 不可視

石壁 火壁 麻痺壁 毒壁 氷壁 

精霊召喚 火 水 風 土  使えないだろうが 血 デーモン


 壁や麻痺で足止めをして、召喚時間を稼ぐつもりだろう。

麻痺は少しでもダメージを受ければ解除される。毒は解毒ポーション。

インビジ(不可視)はリヴィール(発見)のスクロールを用意した。

 ハンマーはマジックアイテムだから、精霊にもダメージを当てれる。

とにかく精霊召喚の隙を作らせない事だ。

念の為にハンマー以外に、奥の手も用意した。



「レディースアーンドジェントルメーン! 会場の皆さん! ついにこの日がやってきました!」



ワアァァァァァァァ!

 観客が地鳴りの様に音を立てて立ち上がり叫ぶ。

真っ青な空が望める天井の無いPit(ピット)の下、7千人程入れる観客席は超満員だ。

最上階の壁にはブリテンの国旗がPitを包み込むようにぐるりと掲げられ、風になびいている。



「さぁ、伝説を見る準備はできたか!?」



オオオオオオオオォォォォォォ!!

緊張するわけじゃないが、これだけの一般人が俺を見にきている。

犯罪者としてではなく、堂々とお茶の間に出るのはこそばゆい。

娯楽のない中世世界の娯楽がPITなんだな。



「では来賓のお客様をご紹介します!まず最初に、このPitの資金提供者であり……」



 VIPラウンジにいる貴族達が続々と紹介され、手を振っている。

この世界の権力者と金持ちが1ヶ月で良く集まるもんだ。

どの世界にもスポンサーは存在する。



「エラッソ家エラッソ・ウゼーン様から開催の挨拶です!」



 ん? なんか聞いた事ある名前が呼ばれたような。

煌びやかな紫の服をきた、エラッソ・ウゼーンが立ち上がり大声で叫ぶ。



「スカライトの鬼狸は我が良き友人であり、彼はただただ強い! 先のオークの戦争では前線で数千のオークを単騎でなぎ倒し、敵の首魁の首を上げた。今我々は勝敗に関係なく、伝説の戦いの生き証人となる事をエラッソの名に懸けて約束しよう!」



 大きな声援が上がり、会場の温度が沸点まで一気に上がる。

世界は狭いな……にしても数千て0一個多くないか? 

そんな家名を軽々しく言っていいものなのか、まぁ常に勝つのは俺だ。

顔を立ててやるか。



「では試合開始だ! 青門! 冷徹無慈悲スカライトの鬼狸!」



 とりあえず普通に出て会場の真ん中に行く。

会場が野球場並に広いので、真ん中に行くまでも一苦労だ。

ブーイングが多い声援が煩すぎて腹が立つが、エラッソの方にハンマーを上げて挨拶してやる。

こんだけの会場で、あいつが一番大切にしてる名前を会場の敵である俺にかけた。

選民思考のプライド高い糞野郎だが、その一番大事な物を俺に賭けたなら。

恩や義理を返してやりたい。

俺のハンマージェスチャーに、エラッソ少年みたいに喜びやがって可愛い奴だ。

この試合、プロレスでいう俺は悪役の様な立ち位置だ。



「赤門は言わずと知れた皆さんお待たせしました! 常勝無敗! 完全無欠の生きた英雄ロービーン!」



 俺の時の2倍以上の歓声の後、ロビン! ロビン! と音頭が客席から上がる。

おぃおぃ、客も審判あっちよりだな。完全にアウェーじゃねーか。

黄色い声まで上がっている。なんかムカついてきたぞ。



「では鐘の音が鳴ったら試合開始だ!」



 距離は10メートル程度か。

ロビンの装備は素手に皮鎧、俺と同じ防具だな。

初っ端は距離を詰めて殴りかかる、おそらく初手は壁召喚で一番レベルの低い石壁が来る。

対策は完璧だ。



「ゴォーン!ゴォーン!」


「さぁスタートだ! おっともう狸が走り出している! フライングかー!」



 会場からブーイングがなるが、元々アウェイだ気にすることはない。

ことは単純。全力で走り、ハンマーを一発当てれば俺の勝ちだ。



「ウォールオブストーン!」



 俺の前に高さ3メートル、長さ15メートルの土砂の壁が地面から生える。

ロビンの姿が完全に見えなくなったが、気にせず土砂の壁に向かって走る。

そしてハンマーを思い切りど真ん中に振ると、鈍い音と共に土砂の壁が崩れる。



「っは! 迂回するとおもったか? お坊ちゃんよぉ!」



 目の前で何かを詠唱しているロビンの頭に、ハンマーを振り下ろす。

精霊召喚は7THサークルだけあって詠唱に数分はかかる。



「あっけなかったなぁぁぁ! オラァ!」



 疾風の速度のハンマーは今詠唱をやめて避けても、確実にどこかに当たる。

ハンマーを当てたら、もう勝ちは確定だ。

フライングとロビンの初手70%を誇る石壁を読み、ハンマーを利用した最短距離奇襲。

戦闘は始まる前に終わるんだぜ。

ドゴォ! と鈍い音が会場に響き渡る。

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