ロビンとの決着 20話
1Gp 500円くらいです
スクロールは魔法取得に使う物で、狸の様にインスタントで使う人間はほぼ存在しません。
60万を灰にするのは度胸が入りますね
ドゴォッ!!
と、常軌を逸した重低音が闘技場の床を震わせ、もうもうと砂煙が巻き上がる。
だが――手ごたえなど、端から存在しなかった。
ロビンの影は、まるで陽炎のように揺らいだかと思うと。
十メートル、いや二十メートルほど後方へと一瞬でその姿を消した。
『テレポート』の魔法。空間を歪め、絶対的な距離を取るという卑怯なまでの安全策。
保険を幾重にも重ねるロビンの戦闘スタイル。
彼も同じく慎重に、狸という存在を警戒して作戦を練っている証明であった。
「ちっ……さっさと花火になってもいいんだぜ? ロビンお坊ちゃんよー」
「褒め言葉と受け取っておこう。――さて、今度は僕のターンだ」
俺は地面を蹴り、ふたたびロビンめがけてハンマーを構えて疾走する。
戦闘は永遠に俺のターンだ。喧嘩の強い奴は距離の詰めかたが早い。
いかなる壁が現れようとも、そんなものはパルスと事前に頭に叩き込んだ知識の数々で完全に計算づくだ。
進路を阻む障害などすべて粉砕し、小賢しい時間稼ぎの猶予すら与えない。
ロビンが再び詠唱の構えに入るのを確認し、俺は走りながら懐から小型単発クロスボウを抜き放つ。
詠唱妨害用の牽制の矢を撃ち出した。
壁魔法の対策は単純明快。
そもそも発動の瞬間すら与えず、詠唱の喉を潰せばいいだけの話だ。
矢は一直線にロビンの眉間へと突き進む。
「あいにく、飛び道具が来るのは読んでいたよ」
だが、ロビンの口唇が紡いだのはまたしても『テレポート』の呪文だった。
放たれた矢は、残像だけを残した虚空を虚しく貫いて飛んでいく。
空間移動に次ぐ空間移動。その圧倒的な手数は、まさに魔法使いの真骨頂というべきか。
「逃げるのだけは、一丁前に板についてやがるな。人生逃げてきたのか? お坊ちゃんよぉ!!」
こちらとしては少しでも距離を詰めたいところだが。
この広大なPitの中では、小回りの利く短い詠唱のテレポートだけで軽々と翻弄されてしまう。
とはいえ、敵とて無限に空間跳躍ができるわけではない。
マナを消費し続け、肝心の精霊召喚に回すMPが枯渇すれば、あいつの負けだ。
どこかのタイミングで必ず攻撃の手に転じてくる――。
その瞬間こそが、俺に与えられた最大の勝機。
「――『ウォール・オブ・ストーン』!」
いくら詠唱速度が早かろうと、ただの土砂の壁など俺の足をとめる時間稼ぎにもなりはしない。
時間稼ぎにしても見くびられたものだ。
俺は速度を緩めず、そのまま壁へと突撃する。
土砂の壁は一撃で粉々になり、土煙が上がる。
ロビンのいる場所に突撃する。
だが、甘かったのは俺のほうだった。
「――『ウォール・オブ・ストーン』!」
俺の足元の地面が突然隆起し、そそり立った岩盤がビルのように天に伸びる。
回避するも衝突し、俺の巨体を真上へと力任せに打ち上げた。
壁魔法を攻撃に使うとは、完全に油断していた。
まるで、見えない巨大な石柱で真下から強烈なアッパーを叩き込まれたような不意打ち。
実戦であれば、この一撃だけで脳を揺らされ意識の半分は持って行かれていただろう。
ロビンは石壁の詠唱後、即次の魔法を詠唱。
「――『テレポート』」
宙に放り出され、無防備に晒された俺の背後に、気配もなくロビンが跳躍してきた。
そして、その手が俺の頭を鷲掴みにする。
「――『テレポート』」
本来なら二十メートルほどの空間移動を自由に行えるはずの魔法。
だが、対象の肉体に接触している場合。
その者をも強制的に巻き込んで移動させることが可能となる。
ロビンが俺を瞬間移動で連れて向かった先は、横方向ではない。
他ならぬ、足元に何もない――地上二十メートルの虚空の上だった。
突如として目の前に広がる青空と、眼下に小さく見える闘技場の観客席。
何が起きたのかを脳が理解するよりも早く、重力に従って俺の体は真っ逆様に落下を始める。
耳を劈くような風切り音が、鼓膜を激しく揺ぶった。
内臓がひっくり返るGで普通なら何も出来ないだろう。
だが俺は、元々宇宙海賊だ。
強化ナノテクノロジーが体を駆け巡る。
「――邪魔だッ!」
落下しながらも、俺は髪を掴むロビンの腕めがけて渾身の肘打ちを叩き込んだ。
空中という姿勢の定まらない状況ゆえに本来の殺傷力は発揮できないが、それでもガタイの差にものを言わせた一撃は、ロビンの体をたまらず弾き飛ばした。
「っく……! 『パラライズ』!」
直後、容赦なく浴びせられた麻痺の呪文により、俺の肉体が硬直する。
これでは受身すら取れない。落下の速さに対策する時間もなく。
無防備な背中から、重力のままに闘技場の硬い床面へと激突した。
「っぐはぁっ……!」
頭部を強打した衝撃で視界が真っ白に染まる。
Pitのシステムで痛みこそ偽りに変換されているはずだが、脳の深い部分が錯覚を起こし。
世界がグニャグニャと歪んで見えた。
だが、ここで這いつくばるわけにはいかない。
俺はハンマーを杖の代わりに引きずりながら、血を吐くような気力だけでふたたびロビンめがけて走り出す。
前方で、ロビンもどうにか着地を果たしていたが。
その肩は激しく上下し、荒い息を吐き出していた。
痛みはないとはいえ、肉体の酷使による疲労やダメージは確実に「換装された肉体」に蓄積されている。
先ほどの俺の肘打ちは、あいつが想像していた以上に深く効いていたらしい。
「――『パラライズ』!」
ふたたび放たれた麻痺の呪文により、俺の全身の動作がスローモーションのように鈍化する。
だが、これへの対策はすでにとり終えていた。
パラライズの呪詛は、自分の肉体以外の部分から微小な物理的ショックを受ければ瞬時に解除される性質がある。
舌を噛んでも自分の肉体なので無駄だ。
俺はあらかじめ口の中に仕込んでおいた鋭い金属を、自らの口内で思い切り突き刺した。
口から迸る光の粒子と共に、麻痺の呪縛が霧散していく。
「おらぁぁぁぁぁっ!」
ロビンが何か新たな呪文の詠唱を始めていた。
それが短めのテレポートであればまだ回避される。
だが、もしこの隙に精霊を降ろそうとしているのだとしたら――。
その脳天にこのハンマーを叩き込んでやるまでだ。
たとえ今から詠唱をキャンセルしたところで、もう奴に逃げ切るだけの余地はない!
「――『アイスフィールド』!」
俺とロビンの間に、高さ3メートル、長さ15メートルにも及ぶ絶対的な氷の壁がそそり立つ。
『ウォール・オブ・ストーン』のさらに上位にあたる、分厚い氷の障壁。
俺は迷うことなく、ハンマーをその氷の塊へとフルスイングで叩きつけた。
ゴキィンッ!
すさまじい激音とともに、氷の表面にクモの巣状の亀裂が走る。
だが、一撃では砕けない。
疾風の如き連撃を叩き込み、3発目の強打でその防壁を粉々に粉砕した。
だが、崩れ落ちる氷片の向こう側にいるはずのロビンの姿は、すでに跡形もなく消え失せていた。
どうやら6THサークルの魔法、『インビジ(不可視)』に身を隠したらしい。
姿を消している間は魔法の詠唱ができないとはいえ、もたもたしていれば奴のMPは回復してしまう。
このままテレポの鬼ごっこに引きずり込まれれば、じわじわと削られる事になるだろう。
俺は毒消しポーションを飲む。
「はっはっはっは……! 魔法使い崩れを相手にする俺が、不可視の対策をしてねぇとでも思ったかよ!」
不可視の敵を炙り出すには、同じ6THサークルの『リヴィール(広範囲発見)』を用いるのが定石だ。
スカライトで殺した3馬鹿が持っていなかった魔法。
もちろん、俺はこの日のためにそのスクロールを数種類しっかりと懐に忍ばせていた。
同じサークルのスクロールは外見の色がすべて同じ。
詠唱の手間を省き、魔法が使えない一般人であっても発動できるという利点がある反面。
発動までに通常の倍近い時間がかかり、一度起動すればダメージを受けるまでキャンセルは不可能。
そして何より、威力が最低値に固定されるという致命的なデメリットを抱えている。
相手がその隙に攻撃魔法を叩き込んできれば致命傷になり得るが、ロビンは攻撃魔法の適正は0。
インビジで隠れたままMPを回復されるよりはよほどマシだ。
氷の壁を詠唱しインビジブルを唱えたとして移動する時間はない。
つまり俺のハンマーの間合いである周囲2メートル以内だ。
俺は腹をくくり、6THサークルのスクロールへと魔力を流し込んだ。
魔力も多い方じゃないあとスクロール数度使えば終わり。
ならば賭けてみるか。
「――それを待っていたよ」
だが、俺がスクロールを起動したそのコンマ数秒の隙を、ロビンは見逃さなかった。
奴は俺の目の前に姿を現すやいなや、さらに上位の呪文――7THサークル『精霊召喚』の詠唱を開始したのだ。
6THサークルのスクロール延長発動時間と、7THサークルの詠唱。
タイミングは、まさに五分五分。
「――降臨せよ! 紅蓮の支配者、ファイヤーエレメンタルッ!」
戦場の空気が一瞬で沸騰した。
視界の端が眩いばかりの真紅に染まり、尋常ではない熱風が容赦なく顔の皮膚を焼き付ける。
召喚されたのは、顔のパーツすらない、真っ黒なマネキンのような人型の異形。
その全身からは熱風のオーラと猛烈な業火が噴き出し、周囲の空気を陽炎が歪ませている。
その右腕が、無慈悲に俺のほうへと向けられた。
本能が、死を告げる。
俺は思考するよりも早く、泥臭く地面を蹴って真横へと跳び退いた。
轟ッ――!!
火炎放射器のごとき高熱のブレスが、俺のついさっきまでいた直線の空間を一瞬で焼き尽くし、灰に変える。
詠唱後の紙一重の回避だった。
地面が焦げ、黒い道ができている。
「ドレイクのブレスどころじゃねぇぞ、この火力が……っ!」
これがロビンの勝ちパターンだ。
7サークルの元素エレメンタルを盾にして身を隠し、背後からMPを回復する。
ロビンが火エレと共に、次々と壁や麻痺を重ねて俺をいたぶる未来がありありと目に浮かぶ。
観客席の誰もが、勝利パターンに入ったロビンの圧倒的な勝利を確信していた。
だが――「ピンチは最大のチャンス」とは、こういう時のためにある言葉だ。
ロビンのMPはもう底をついている。そして、俺の手の内にはまだ最後のカードが残されていた。
先ほど懐から取り出した6THのスクロール。
あれは、初めから『リヴィール』などではない。
いくら魔法を勉強しても、実戦じゃ相手の引き出しに勝てるはずが無い。
魔法の戦いは読み合いだ。
俺がロビンなら、隙ができた時に勝負を賭ける。
ならば俺がそれを予想して、賭けに出るしか無い。
俺が起動していたのは、同じ色のスクロール6THサークル魔法――『ディスペル(消去)』。
召喚されたあらゆる使い魔、エレメンタル、そして悪霊の類を強制的に無にかえすための魔法。
この魔法に限ってはスクロールの100%が詠唱時間を除き上位互換だ。
お値段は2000ゴールド。
空間を歪め、対象を消し去る。
ファイヤーエレメンタルの胸のあたりにぽっかりと不気味な黒い穴が開き、まるで便器の渦に飲み込まれるように、その禍々しい巨体がみるみるうちに吸い込まれて消えていく。
炎はただの陽炎に変わり、足元には情けない燃えカスだけが残された。
「なっ……『リヴィール』じゃなかったのか……!?」
「人の思い込みってのはな、驚くほど簡単に命取りになるもんのなのさ……ロビン!」
俺はMPを完全に枯渇させたロビンめがけて、まっすぐに走り出す。
そして、その脳天を狙ってハンマーをありったけの力で振りかぶった。
「……楽しかったぜ」
「悔しいけれど……本当に、頼もしい男だよ」
振り下ろされたハンマーがロビンの頭部を完璧にとらえ。
次の瞬間、その肉体は弾けるような光の結晶となって四散した。
【 勝者:スカライトの鬼狸 】
掲示板に大書されたその文字。
それを合図にしたかのように、地鳴りのような大歓声がPitの天井知らずの空へと突き抜けていく。
ロビンにかけていた無数の賭け札が、まるで紙吹雪のように空を舞い踊った。
正直、ロビンがここまでやるとは思って無かった。
小さい世界で、チャンピオン気取りの坊ちゃん。
ましてや、攻撃適正の無い魔法使いなんて召喚頼りだと……。
魔法の肉体とはいえ、精神がすり減るような。この星で出会った中で最も手強い死闘だった。
これであのイルマリとかいう手だれの護衛や、統率の取れたロビン軍がいたら。
オークのブユウ軍とは、軍のレベルが違う。
ロビンは約束通り、俺の配下の「軍師」として頭を下げることになる。
この星を我が物にせんとする野望の階段を、また一つ確実に上り詰めた。
その実感が、心地よい熱となって全身を駆け巡る。
俺は抑えきれない高揚感に突き動かされるまま、天に向かって獣のような咆哮を叩きつけた。
「うがあああああああぁぁぁぁぉ――っ!!」
その声に応えるように、観客席の熱狂はさらなる高みへと昇り詰めていく。
最初に浴びせられたブーイングなど跡形もなく消え去り、空を染める外れ券の嵐が俺の勝利を祝福していた。
エラッソは上半身を脱ぎ、VIP席で紫のマントを振っている。
身一つでこの星に転がり込み、今や権力と駒そして確固たる地盤を手に入れた。
かつて宇宙の闇を荒らし回り、欲しい物のすべてを略奪し尽くした「BOF」の名の下に――。
だが、それだけではまだ足りない。
家族 仲間 資産 領民 家 船 時間
全てを奪われ、全てを失ったあの絶望の底に比べれば、こんなものはまだ序章にすぎない。
悪い事もやった殺されるのは仕方ない。宇宙連邦軍の糞どもが。
仲間を冷凍保存され実験動物にされ、挙げ句の果ては果ての監獄星。
冷凍保存から出たら俺の家族や仲間がどう殺されたか、カプセルで見せやがった。
生まれた時から格差があるのは当然だ。
この宇宙では、身分が低い貧民は肉体をコードで繋がれる工場の肉になる。
そんな人生に立ち向かうのに暴力を選んだ。
冷凍保存され今も拷問を受けてる仲間の解放。
このブリテン星のすべてを利用し尽くす。
前よりもっと洗練されたもっと極上のやり方で、もう一度この手ですべてを奪い返してやる。
野心と欲望こそが、人間を――いや、俺を真に成長させる糧なのだから。
――ただ、この勝利の美酒に酔う夜くらいは、その栄光に身を委ねるのも悪くない。
ハッピーハロウィン! みなさん良い週末を




