18話 トリン最高級ホテルでの話し合い
前線の英雄として名を轟かせた主人公「狸」
トリン軍の最高権力者である総司令官ロビンとの極秘会談に臨む。
華やかな最高級ホテルの最上階、リゾートの島で待ち受けていたのは、ただのボンボンではなく、戦術にすべてを捧げた一人の「強者」だった。
家族と会う決意のロビンと、BOFの解放を掲げる狸。
星を支配することがお互いの成功条件。
野望が交錯する中。
同じ道へ進む仲間となる為
二人はそれぞれの思惑を胸に、決闘という名の過酷な選択へと踏み出していく――。
功を奏して、場所を変える事になった。
トリン最高峰と呼ばれる宿屋、いやもはやホテルに俺は招待される。
俺はロビーの10メーター以上上にある天井を眺める。
内部の装飾もとても美しく、カラフルなステンドグラスが天井を覆っている。
ステンドグラスから差し込む光は、訪れる人々を癒しの世界に導いているようだ。
「す、すげぇ。なんだここは」
全てが大理石らしき石で出来た、壮麗で巨大な建築様式の宿屋。
現代の技術と真逆だが、現代の技術では出せない良さがある。
古い寺というか、威圧感があるが優しく落ち着くというべきか。
ただただ美しくそこにいるだけで、歴史上の英雄になったと錯覚させられる。
「狸様でしたね、ロビン様が最上階でお待ちですこちらの魔法陣にお乗りください。本日は最上階スイートは全て貸し切りとなっております」
ホテルマンらしき上品な礼をする従業員に促されるままに魔法陣にのる。
魔法陣の真ん中に数字が書いており、行き先を示唆している。
一番奥の俺の入る魔法陣の前には、赤いフルプレートの兵が50人程警邏に当たっていた。
ロビーの客の中にも明らかにロビンの手の者が沢山いる。
つまり間違いなく、ここにロビンがいるという裏付けだ。
会釈する赤備えの兵に俺も会釈し、魔法陣に乗る。
一瞬で景色が変わり、50メートルプールがすっぽり入るくらいの大きさの湖が現れる。
その真っ白な浜辺に俺はいた。
よく見ると、真ん中に南国リゾートのようなヤシと木でできた家が湖の上に立っている。
島から木でできた無人のカヌーが、自動で俺の前に向かってくる。
「ロビンは高位の魔法使いとかいってたな、このホテルも……魔法って奴はなんでもありか」
俺がぼやいていると、船の上に白い紙を見つける。
波は無く透き通った湖に白い砂、そこに漂流したようなカヌー。
不気味と風景の神秘感が交差する。
手紙の内容は至ってシンプルだ。
「乗ってくれ、お久しぶり。BYロビン」
読んだ指示通りに乗り、カヌーは自動で島に進んでいく。
湖は透き通って底にある綺麗なサンゴ礁やカラフルな小魚が見える。
底まで6メートル以上はある事から、ここはホテル内では無いはずだ。
動力はやっぱり魔法なのだろうか。
島に着くと、そこには整った口ひげと顎髭を生やした30代のダンディな男がいた。
間違いなく初日にあったカウボーイだ。しかしこれはアバター。
中身はそこらの親が金持ちのボンボンだ、アバターで魔法職選んだみたいだな。
「よくきたね、今はロビンって名前で将軍をやってる」
「おぅ、久々だな、俺は」
「BOFの狸だろ、宇宙連合一級特別指名手配犯の」
「!!」
しまった、嵌められた。丸腰のうえ退路は湖だ。
魔法使い相手に背を向けて泳ぐわけにもいかない、なら素手で制圧するしかない!
俺がロビンに飛びかかろうとすると同時に、湖が荒れ、大波で湖の中に吹っ飛ばされる。
何か魔法を打たれたと感じる瞬間、空に浮かんだ感覚。
思考する間も無く、湖に落下していた。
水中に落ちる音と共に、俺の巨体は水飛沫を上げ湖に飛び込まされた。
水面から泳いで島に戻ると、ロビンは一切濡れていない。
「申し訳ないね、最初にかましとかないとやりにくいからさ。敵意はないよ」
「これは俺がお前を舐めてた罰だ、気にしねぇ。要件はなんだ」
少しの沈黙の後、ロビンがニヤッと笑う。
俺は湖の水で頭が冷静になり、ロビンの動向を座りながら見据える。
体はずぶ濡れで、水滴が衣服中から垂れている。
「話が早くて助かるね。話は単純だ、この星の支配をしたい。そして貴方を仲間に入れたい」
ロビンが投げたタオルを受け取り、顔を拭う。
俺の星を支配する野望も、全てチョンバレしてると思って間違いないな。
予想以上に切れる男だ。
「俺の事はもう大体知ってるみてーだな」
「君程の犯罪者はそうそういないけど、有名人が来ると初心者のふりして唾つけてるね」
「星に来た初日からバレてたわけか。軍服も全部知った上で交換したのか、まんまとやられたぜ。ようやるわ」
ロビンは温かい紅茶を、どこからだしたのか俺に差し出した。
俺は受け取ると、一気に飲み干す。
熱くて喉が焼けそうだが、やせ我慢だ。
「風邪ひかせたら悪いからね、紅茶を一気飲みする人初めて見たよ」
「体は丈夫だ。んで、どうやって星取る気だ」
「軍だね、自慢じゃないが火器や航空兵器が出る前の戦争戦術はここに全部入っている」
ロビンは右手を鉄砲の様にし、片目を瞑りながら人差し指で自分のこめかみを刺す。
ダンディな男がやるとなんでも様になる。
「全部って、これまでどんだけ戦線あると思ってんだ。流石にそりゃお前の勘違いだ」
「親が軍人でね、家庭は恵まれて愛を持って育ったんだ。外に出れない分、基地に住んでいたのもあって、ずっと戦争の勉強をしていたんだ」
「暇つぶしのボンボンがSFに嵌ってたって自己紹介か?」
馬鹿にしたように俺はロビンを見る。
どうも水中に投げ飛ばされ、情報を抜かれてるのは気分が悪い。
撤退するにも、この空間は転移なのか魔法でできてるのかすら分からない。
相手を舐め切って油断した馬鹿は俺だ。
ペースを戻さねば! 退路の確保は? ロビンを人質に?
脳内で加速する思考へ、焦るなと自分を戒める。
ロビンは俺の野次を気にせず、話していく。
「生まれつき体が弱くて、不老不死手術できる体力もなくてね。発作で去年死んだんだ」
「……は?」
「この未来を予測していたんだ。古い戦争本の校閲をする仕事を、体が壊れても辞めなかった。それで寿命が減った事もあるけど、このブリテン星のアバターを買うお金もできたしね」
予想外のロビンの言葉に、思考が塗り替わる。
こいつ、肉体改造やサイボークなんて目じゃない。
もう既に魂そのものだけで生きてる。
続けてロビンは語尾を強めて、俺に訴えかける。
「記憶をダウンロードしたこのアバターが今の僕の全てって事さ。だから必ずこの星を支配して、家族に会いに行く。その為に使える事は犯罪者だろうが何でも使う! この決意は揺るがない!」
命を賭けた気迫が伝わってくる。
そうか、こいつにも譲れない理由があるのか。
肉体が死ぬ事以上の誠意や証明などあるだろうか。
この星に移住したら物理的にこの世界の伝説、星の支配者。
それ以外出る事はできない。
ロビンは本気だ。
相手が本気の時、男同士で言葉数はいらない。
やるかやらないかだ。
「俺の目的はBOFの解放と復活だ。それでいいなら手を貸そう」
「交渉成立だね」
ロビンが笑顔で、右手を俺に差し出してきた。
握手らしいが、俺は手を出さない。そして重々しく告げる。
「いや、まだだ。まだ足りない」
「足りない? 何が足りないのかな?」
「俺とサシで戦え。喧嘩するか一緒に女抱かねぇと、兄弟の近道はねーよ。今回は実力をみせてもらう」
ロビンは目を広げたかと思うと、目を瞑り、下を向き静かに頷く。
そして目力を込め、俺の目を見ると言い放った。
「傀儡にするには君は大きい男だ。正々堂々戦い負けた方が下につく、これは男の約束だ」
俺はにやっと笑い、上機嫌で答える。
なんでもそうだ。なぁなぁで付き合うな。
一生の付き合いになるなら、最初はドラマティックな思い出は必要だ。
裏切られる時や揉めた時、その思い出がお互いを守ってくれる。
なんとなく流れで告白もせず付き合った男女の、別れ際ったらしょーもない。
「俺のBOF・ロビンの家族どちらも同じだ。男同士の会話はやっぱこうじゃねーとな。これから頼むぜ、これが本当の握手だ」
俺から右手を出し、ロビンは俺の手をがっちり握る。
そして笑いあいながら、お互いの話をした。
それは、明日の朝に迫った。
トリン全市民が注目する決闘……。
高位の精霊召喚魔術師、対オーク方面軍曹司令官 ロビン
前線の英雄ハンマーを振る鬼 スカライト市長鬼狸 俺
のエキシビジョンマッチが決定したのだ。
謀略渦巻く高級ホテル。 手強い男同士の腹の探り合いはついに「決闘」という名のガチンコ勝負へ。互いの野望と誇りをかけた一騎打ちの行方は――?




