アローとブユウの子 ユウキ 16話
オーク側でも人間側でも無い。
狸は常に自分側ですね。
「やめろ」
「え? 兄さんなんて? あぁお先どうぞ当然の権利ですよね」
気のきかせたような、下種な笑い顔に揺れるしゃくれたケツアゴ。
俺はふぅーっと息を吐き、辺りを見回す。
正規兵らしき存在はいない。
傭兵は6人と俺。オークは満身創痍のアローと子供のユウキ。
オーク弓隊の本隊は俺と逆の方面に逃げた。
それを追ってるのか、仲裁役の正規兵はいない。
俺は例の満面の笑みで、頭で作った設定トークをしていく。
アローはユウキを抱き寄せ震えながら俺を見上げている。
出来るだけ同じ軍内で揉めて報告されたく無い。
エラッソの顔に泥を塗るってのは、引き受けた俺のメンツの問題だ。
俺を雇っっ良かったと絶対思わせる。
それで次の仕事が来るって奴だ。
「あー兄さんたち済まないね、領主に頼まれてその親子を生け捕りにしろって言われてんだ」
「成程、まぁ味見してからでもいいじゃん?」
「いやいや、人語しゃべれるから変に話されても問題になるんだわ」
「ふーん、あんた見た目の割に真面目だね。モンスターのいう事信じないでしょ、モンスターは人じゃないから人権なんてないんだよ? 安心しなよお兄さん」
シレネの後ろにいる傭兵が、剣に手を伸ばす。
さりげなく俺を囲む陣形をとっている。
俺の後ろにも2名回り込んだ。
そこまでして、オークとやりたいのかこいつらは。
軍として問題になる事はしたく無いが。
そもそも、何故こんな小物達に気を遣っているんだ俺は。
金にもならないのに、演技するのも疲れる。
思考の渦から、俺にデメリットがない解決策を探す。
母であるアローを庇おうと重なるユウキと目が合う。
俺は閃いた。
考えるのが馬鹿らしくなるほど、簡単な解決策だ。
俺は営業スマイルを解いて、シレネを見る。
どうしてもこいつを見ると顎を見てしまう。
何故長い上に、こんな綺麗に割れているんだ。
「あーもしかしてむかついちゃった?」
「いや、全く。とりあえずこのアゴ……じゃねえ。オークの権利は俺の物だから」
アローとユウキを連れて行こうと近づく。
傭兵のロングソードが俺の顔横を掠める。
ニヤニヤしたシレネの側近だ。
俺は手を振りながら、憤怒を後に誓い営業トークを続ける。
ここはトラメル、人を殺せば自動的にファルッカ行きだ。
「おぃおぃ、物騒だなシレネさん。お連れの方、なんの冗談だいファルッカ送りになるよ」
「このオークを賭けて決闘しようじゃないか、そもそも黒弓のアローだ。手柄奪う気なのわからないかな? 馬鹿なのかな?」
「決闘で、死んでもファルッカ送りにならねーのか?」
シレネは懐から赤い手袋を出して俺に投げた。
そして右手に赤い手袋の片方を装着して、しゃくれた顎をさすって脅す。
「左手につけるか、逃げるか選びな。こっちは精鋭のフル装備6人戦っても死なない程度に半殺しだよ」
シレネは鋭い眼光で俺を睨む。
手下の傭兵達も、笑いながら野次を飛ばしてきる。
相当このシレネという男、腕に自信があるのだろう。
「これを付けたら相手が死んでもファルッカ送りにならないのか?」
「あんた図体でかくてドンくさいとは思ってたが、馬鹿な上に無知とは哀れだね。これは決闘アイテムで相手を殺してもカウントされない。何より無知なのは俺を100殺のシレネとしらない事さ!」
俺は赤い手袋を受け取るふりをして、シレネに向かい走り出す。
シレネは剣を構え、連打突きをするつもりか浅い突きの構えだ。
俺の獲物がハンマーだから、振りが遅く。
実戦では指でも足でも怪我をさせれば、ほぼ勝ち。
重装備同士でもなければ、剣の突きが有利だろう。
俺が普通の人間で、このハンマーも普通なら良い戦法だ。
「串刺しさぁ!」
「あー茶番は終わりだな」
シレネが俺の間合いに入る。
ジョウシュヤ特性1.5倍スピードハンマーに俺の腕力が乗る。
下段から上にフルスイングする、残像すら見える速さだ。
シレネの突きが出る前に俺のハンマーが目標を捉える。
「な!?」
大振りのハンマーが、下からシレネの顎を一瞬で破壊する。
歯が飛び、口元から血飛沫が舞い散る。
下顎が血液でぐちゃぐちゃになり、叫びは動物の様な声だ。
逃げられても迷惑だし。
膝を逆向きに蹴ると地面に倒れて芋虫の様に這いつくばる。
「しゃくれた顎治してやったぜ、花火にしちゃ汚ねぇな」
そして地を蹴り、唖然とするシレネの手下の兵士の真ん中へ飛び込む。
しゃがみながらハンマーを円を描くように振り回す。
傭兵3名の足があらぬ方向に折れまがり、地に激突する様に倒れた。
残りの現実が理解できず、剣を俺に向け動かない傭兵。
腰を抜かしながら逃げ出す傭兵。
逃げる相手ほど弱い相手はいない。
加減しながら尻にハンマーをスイング。
こちらも派手に地面に倒れた。
「んじゃお前が最後だな」
剣を斜めに向け、防御の姿勢を取る傭兵。
鍔迫り合いでもするつもりだろうか?
物理的にも剣でハンマーを防げるわけがない。
足にハンマーを振るうと、間に剣を挟み防御したが無意味。
衝撃でしっかり片足折れた様だ。
「ぎゃあああああああああああああ!」
「ぐおぁぁあぁ!」
俺は傭兵の武器を蹴っ飛ばしていく。
飛び道具はなさそうだ。
ちゃんと加減して動けない様にしておいた。
人間側に密告されても困るから、動けなくしたが。
こんな奴ら殺して、ファルッカに数年送られるのは困る。
決闘だが何だか知らないが、敵の言葉を信じる馬鹿はいない。
物事には準備が必要だ。
「鎧着てるのに、随分もろいな……俺が強いだけか」
「た、助けてくれなんでもする!」
「痛い! 痛い!」
「がぁ、あああぁ」
血の海の中傭兵達は、全員足を折れたりなかったりで。
這い蹲って命乞いしている。
命乞いは芸がない、皆初めての命乞いは同じセリフを言う。
もっと相手を、仲間にしたいと思わせるほど楽しませないと。
大体殺されるって知らない様だ。
逃すデメリットを打ち消す魅力、それがプロの命乞いだ。
死人に口無しである。
俺は怯えたアローに近寄っていく。
アローの体がビクッと震え、斧を拾ってきたユウキが斧を構える。
母を守る子、子を守る母。羨ましいものだ。
どちらにしろ、ユウキにはやってもらう仕事がある。
「こんな時に獲物離さないとは、やるじゃねーか! つっても人間の言葉わかんねーな」
ユウキは斧を持って、震えながら……自分の母と俺の間に立っている。
俺は満足したような顔で、バックパックからグレーターヒールの魔法を取り出す。
詠唱に少し時間を待たねばならないが、自動でスクロールが光ってくれる。
アローの右手が逆再生を見るように、治っていく。
死を覚悟したオークの母親アローは、混乱して俺を見上げる。
「エ、ア……ナゼ」
「気合の入ったいい息子に免じて見逃してやるよ」
斧を震える手で、力一杯握ったユウキの手を包む様に力強く握る。
ユウキは身動きが一切できない、込められた俺の力で感じるはずだ。
しかし凛と俺を見据えたユウキの眼差しは、オークの子供とはいえ綺麗に見えた。
俺は地に這いつくばる傭兵を指さす。
「あいつら殺せ」
意味は分からなくとも、身振り手振りで言いたいことは伝わった様だ。
一歩ずつ傭兵に向かっていくユウキ。
母親の横に立つ俺に警戒はしても、逆らう気はない様だ。
俺は腕を組み考える。
シレネと話してる時に思いついたのだが。
オークに瀕死の人間殺させれば。
トラメル世界でも、問題ないんじゃないか?
俺は自分を褒める、もしかしたら俺は学があるのかも知れない。
「やめろやめろおおお!」
無慈悲にユウキは足が動けない傭兵の命を、斧で摘み取っていく。
横から一人一人殺されていく傭兵達は、いつ自分が殺される番か正確にわかる。
逃げようと地を這う者、俺に命乞いする者。
最後張って逃げた者の真上に斧をふりかぶったユウキが到着する。
「グシャ」
俺はそれを腕を組んで、見届ける。
最後の傭兵を殺し、血だらけの斧と体で俺に向かって来る。
俺に勝てないのが分かってるのか、斧を捨てた。
「アロ、ガ、ゲグ、アロ、タスケテ」
「あれ? 何で、おめー人語喋れるんだ?」
次の瞬間ユウキの体が光を放ち、七色の光の線がユウキを包み大きくなっていく。
俺の膝くらいの小さな体は、170センチを超えるほどに。
筋肉が隆起して、持っていた片刃の手斧も両刃の大きなダブルアックスに。
そして頭は俺の殺したブユウのように羊の頭骸骨に覆われていた。
アローが涙を流しながら、我が子ユウキを見ている。
「……進化ってやつか」
ユウキは頭蓋骨の兜を脱ぎ、俺の前で座った。
座り方はあぐらだが、俺に敬意を払っているのは所作で分かる。
「オマエ、チチコロシタ。シカシシンノキョウシャ。チチシアワセ、ハハスクッタカンシャササゲル」
ユウキは頭を下げると、その状態で静止した。
座ってうなじを俺に見せた状態だ。
「コノイノチホシイナラヤル」
アローは口を開けた後に、つぐむ。
それを繰り返し、泣いていた。
オークの掟か、進化種族が偉くなるのか疑問が沸くが。
ユウキが命をかけて仁義を通した。
こいつの首は手柄になる。
さっきの傭兵の命乞いと、比べものにならない程俺には響いた。
俺の器量が返答で問われるってもんだ。
「俺は強いか?」
「ツヨイ」
「強さってのはな、自分の考えを通す力って事だ。大切な物を守ることも、欲しい物を得る事もすべて力しだいだ。男なら恋人と母親生涯この2人の女は守れるだけ強くなれ」
「セイレイガ、チチブユウノコエヲツゲタ。アリガトウ、ワタシモオナジキモチダ」
「いきなり人語うまくなりやがって、笑わせるぜ……ガラでもねーな。じゃあな」
俺は何故か、こういうのに慣れてないのか走り出していた。
ユウキの親父ブユウは、敵の大将だ……。死体回収してくればよかった。
いや、それはかっこがつかない。しかし……。
勿体無い事をした気もする。
そんなこんなで、気がついたら駐屯地に戻っていた。
ドエムルとパルスがジャイアントスコーピオンに生肉を上げている。
遠巻きに人だかりが……そりゃできるだろ。
俺に気付くとドエムルがまた向かってきた。
パルスが止める前に俺の前に走ってきたドエムル。
こいつまだやる気か、と俺はドエムルににらみを利かす。
「あ?」
「この前のパンチもう一回お願いします!」
「あ? え? 何言ってんだおまえ」
「狸の親方! いや親父とよばせてください!」
なんかドエムルの顔が赤く染まって、鼻息が荒い。
すねに傷を持つような傭兵団の頭とは思えない、何と言うか変態のような顔だ。
百戦錬磨の俺が、後ずさりしている。
「おねがいします! あんな凄いのオーガいやもっと、たまらないですハァハァ」
いきなり上半身の皮鎧を脱ぎ始めた。
筋肉は締まっていて、歴戦の古傷が刻まれた戦士の肉体だ。
俺はどうしていいのか唖然として、口をあけたままドエムルを見てしまった。
「バシーン!」
パルスの鞭がしなり、ドエムルの足に命中する。
跪くように倒れるドエムル。
「パ、パルス様!」
「人様の前に出るにはその卑しい餌豚の性格を、再教育してあげないとね」
「パルス様! 私は卑しい豚です是非罰を! 是非!」
パルスのハイヒールで尻を踏まれたドエムル。
気がつけばドエムルの傭兵団、全員が調教済みのようだ。
皆涎をたらしてパルスを見ている。
そいつ男だぞと、突っ込みを入れたくなる。
「あ、た……狸。この子達の調教終わったら馬車戻るね。今日は何してたのかな?」
「あ、あぁ……なんか疲れたから寝るわ。今日はなんか全部調子狂うわ」
「そ、そなんだ。ゆ、ゆっくり休んでね」
ドエムルがヒールで踏まれながらパルスを見上げる。
息が荒く、後ろから団長いいなぁとぼやきも聞こえる。
こいつら全員同じ性癖なのか。
「パルス様は狸様の前だと、別人になられるんですね」
ドエムルの背中に鞭がバシーンと振ルわれる。
そしてドエムルの背に馬乗りになる、赤と黒の革ボンテージ女王様コスチュームのパルス。
「グッフ! ハァハァ パ、パルス様」
「お披露目も出来ない恥ずかしい豚だよお前は、豚が人の言葉しゃべってるんじゃないよ」
パルスは太ももでドエムルの背中を締め上げる。
ドエムルの手下は羨ましそうにそのやり取りを見ている。
もはや駐屯地の名物になったといっても過言ではない。
「ブ、ブヒ! ブヒヒ!! ブヒーーーーーー!」
その声を馬車で聞き、耳をふさぎながら頭を抱えて寝る俺がいた。
傭兵団に良い立場で認められた。
先陣で圧倒的な武勇も現地の兵に見せた。
ブユウという強者のオークと戦い、威力偵察は果たせた。
朝の悩みが全て解決したはずだ。
「ガキのオークの方がマシって俺の手下どうなってんだ……」
将 狸
副将 パルス ドエムル
兵 ドエムル傭兵団総勢50名
軍師が必要です。




