↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/21

オーク戦争前哨戦 13話

荒くれ者の猛者たちを従え、パルスの圧倒的な女王様オーラで結成された「ドエムル傭兵団」。

だが、その実態は全員ドMという変態集団であった。

パルスの鞭と冷たい一瞥に歓喜の涙を流す奇妙な部隊を率いる。

狸はドエムル傭兵団内が増えた事は喜ばしいが。

ポジションが取れず、居心地が悪かった




どうもパルスの奇策が功を奏した。

参戦人数2人の狸軍は、総勢52名。

世話役の非戦闘員まで含めると83名の部隊になった。

山賊崩れの様な連中だが、戦場ではそれなりに名の知れた傭兵団らしい。

「ドエムル傭兵団」ドエムル率いる精鋭五十人が、我が軍の戦力として組み込まれた。

50名全員が冒険者の資格を持っているため、あの魔法強化された牡羊よりは確実に強い。

連中の乗る馬車が俺たちの前を進み、そのさらに後ろにはサソリを五匹引き連れた馬車が続いていた。

見た目は完全山賊団だ。



「あー……あのサソリはどうしたんだ?」


「あ、あれ? ダンジョンで捕まえてきたんだよ!」



さらっと言うが、スカライトの辺りでそんなエスコートをこなせる強い人間などいない。

もしいるなら、今頃ここにいるはずだ。



「ダンジョンって、お前一人じゃ無理だろ」


「うん。ゲラスさんと馬具を買いに王都に行った時、ナンパされてさ」


「ナンパって、誰が?」


「あ、僕が」


「あー……まぁいい。で、そいつはどうなったんだ?」


「なんか、歩いてる時もずっとお尻を触ろうとするし、宿屋にしつこく誘うから逃げちゃった」


「そうか……」


「ゲラスさん達が必死に怒ってくれて、感謝だよぉ」



パルスを女と勘違いした男か。

今話している口調もすっかり女のようになっているし、新しい世界に目覚めないことを祈るばかりだ。

ゲラス、出会いはクズなデブだったが。

やる時はやる男だな。まぁ、言葉通り必死にもなるか。


 一瞬、パルスを相手に妄想をしてしまったが、やはり男は無理だ。

頼めばやらせてくれそうな気もするが……何を考えているんだ俺は。

そのあたりの性別の線引きはしっかりと守らなくてはならない。


世間一般的に、俺が昔いた場所ではロリコンは白い目で見られる。

男色はなぜかスルーされがちだった。

刑務所の中の常識が、知らず知らずのうちにマインドコントロールされているのだろうか。

馬の嘶きとともに、馬車がピタリと止まる。

窓を少し開けて外を見ると、どうやら砦に到着したらしい。


「砦の防衛戦」と聞いていたが、中にいる兵士たちは拍子抜けするほどリラックスして談笑している。

戦闘があったのはずいぶん昔のことのようにも見える。

馬車を降りると、眩しいほどの太陽の光が容赦なく照りつける。まだ昼過ぎくらいか。

ドエムルが役人との話をうまくつけてきたらしく、トコトコとパルスのもとへ走っていく。

そして、水滴のついた冷たそうな黒いブドウを恭しく差し出した。



「パルス様、どうぞ!」



パルスは興味なげにブドウを受け取ると。

一粒摘み、皮ごとゆっくりと口に含んだ。

その仕草を、ドエムルや傭兵たちが息を呑んで凝視している。

パルスの蒼く透き通った冷たい目が、あたりをふわりと一瞥した。

傭兵が差し出した筒に、パルスは口から指を入れて出したばかりのブドウの皮をぺっと入れた。



「パルス様! 一生ついていきます!」


「ずっとそんなこと考えていたの? 君、変態だね」


「お前だけずりーぞ! パルス様! このエムオン命をかけて戦います」



――絶対パルス、お前これ楽しんでやってるだろ。

どちらにせよ、俺は側から見るとパルス令嬢の護衛1だ。

ここで俺の立ち位置を最初にはっきりさせておかなければならない。


そう考えながらパルスを眺めていると、なぜかドエムルが俺に鋭い睨みをきかせてきた。

もちろん、俺も目をそらさない。

ドエムルの身長は175センチほどだが、俺は190センチある。

ドエムルもこの世界ではかなりの高身長で、体格もしっかりしている。

傭兵団頭目の実績もあり、それなりにイキがっているのだろう。

俺はそのままドエムルへと歩み寄った。

ドエムルは眉間にしわを寄せ、全身で威圧感を放ってくる。



「あぁ? てめぇ、誰を睨んで……」



言葉の途中で、俺の右ストレートが奴の顔面に深くめり込んだ。

ドエムルは派手な音を立てて地面に吹っ飛ぶ。

すかさず追いかけ、倒れたドエムルの顔面を容赦なく何度も踏みつける。

泥まみれの地面が鮮やかな鼻血で染まっていく。

ドエムルの手下たちが怒号をあげ慌てて止めに入ってきたが。

俺の殺気に気圧されてか、服や腕に掴みかかり引き離そうとするのが精一杯だ。

俺はその手下どもをも殴り飛ばし、吹っ飛ばす。

うずくまるドエムルのお返しとばかりに背中をもう一発思い切り蹴り飛ばした。

ドエムルはそのままピクリとも動かなくなり、土埃まみれのゴミのように転がった。

何人かが剣を抜いた。俺もハンマーを肩にかける。

俺のメンツの為なら数人脱落しても構わない。

ヒールもある世界だ、死ななければそれで良い。



「抜いたな、死んだぞお前」


「死ぬのが怖くてお頭みすてれねーんだよ! 糞があぁ!」


「狸! 待って! エムオンもさっきの言葉、今なの!?」


「え、いや。でも……」



パルスが慌てて間に入ってきた。

エムオンに平手打ちをすると、パルスは他のメンバーを睨み剣を納める。

思わずパルスをもぶん殴りそうになったが、女装した今のパルスはどう見てもか弱い美女にしか見えない。

地べたに這いつくばるドエムルを庇うように立ちふさがれると、さすがに勢いがそがれてしまう。



「っ……勝手に教育しとけ」



吐き捨てるように言い残し、俺は馬車の中へと戻った。

車内で硬い干し肉を力任せに噛みちぎり、ワインをラッパ飲みして乱暴に蓋をする。

何事も中途半端はよくない。中途半端に喧嘩をすれば無駄な遺恨が残る。

根性のある奴は痛めつけてもまた向かってくるが、「こいつと敵対したら確実に殺される」と思わせれば、単なる根性だけでは動けなくなるものだ。



「はぁー……なんか不完全燃焼だな。手っ取り早く暴れられるネタはねぇのか」



ふと外を見ると俺の乗っている馬車の横を、兵站部隊と思われる物資を積んだ一団が進んでいく。

周囲を馬に乗った護衛が警邏しているところを見ると、どうやら前線へ向かう補给部隊らしい。

頭では「これで自分の立場もはっきりしたし、上々だな」と思いつつ。

パルスに邪魔されて、暴れられなかった鬱屈したエネルギーがくすぶっている。

俺も戦場へ行く空気に昂りイライラしている。

いっそ馬を飛ばして、そのへんのオークとやらの実力を威力偵察でもしてくるか。


俺は腹ごしらえを済ませると、自分の馬に飛び乗り、物資部隊の馬車列の後をついて前線へと走り出した。

警邏しているのは全員同じ鎧を着こみ、馬具も揃っているところからして正規軍のようだ。

部隊の規模は、馬車の中の人間も含めて三百人程度といったところか。

身につけているのはチェインメイルに銀の兜。

武装は槍と、腰に下げたメイスやロングソードといった感じだ。

俺は馬を並べ、正規軍風の男に声をかけた。



「おーい、この食料の山は前線にいくんだろ?」


「そうだが、お前は……?」


「あぁ、失礼した。俺は義勇軍の兵なんだが、仲間とはぐれちまってな」


「なるほど、そういうことなら。この先は前線のトリン平原へ向かうから、一緒にくるといい」


「トリン平原ってのは、どんな様子なんだ?」


「平原のほうはもう残党狩りみたいなもんだ。そこまでの街道はしっかり確保されているから、ピクニック気分で歩けるさ」


「なるほどねー」



あまり激しい戦闘は期待できそうにないか。

まぁ一度くらい本物のオークというやつをこの目で見ておくのも悪くない。

俺はその中年の兵士と一時間ほど世間話を交わしながら、前線の情報を聞き出していく。

話しているうちに、自然と打ち解けていった。



「そうそう、これが俺の娘の絵でよ。こんな戦争はさっさと終わらせて、一刻も早く家に帰りたいぜ」


「おうおう、見せるけてくれるねー」



中年の兵士が、首から下げたロケットペンダントを開いて見せてくれた。

そこに描かれていたのは写真に限りなく近い精巧な絵で、奥さんも娘さんもなかなかの美人だ。娘のほうはまだ八歳くらいだろうか。

兵士の馬がペンダントを舐める。



「こら、ダン! やめろって! こいつダンって名前なんだが家族でね」


「良い馬に乗ってるじゃねーか、ダン! 情けないパパを守ってやれよ」


「俺がダンを守るに決まってるだろーでもダンも死なせない。だよな」



兵士は馬の首を撫で、馬は嬉しそうに首を振る。

テイムスキルの派生なのか、心がかやよった動物は。

ペットというより家族にだな。



「親父、油断してると嫌われるぞ。馬も娘も今が一番懐いてる時期なんだから、さっさと帰ってやれよ」


「いやいや、俺は将来『お父さんのお嫁さんにする』って言われるくらい可愛い子に育てて見せるのさ!」


「みんな口を揃えてそう言うんだよな! ガッハハハ!」


「あんた、見た目の割にいい奴だな……最初はめちゃくちゃ警戒したぜ」



直後――

ドサッ、という鈍い音が響き、中年兵士が馬から真っ逆様に転げ落ちた。

その背中には、黒々とした一本の矢が深く突き刺さっていた。


ヒュン! ヒュン! ヒュン!


無慈悲な矢の雨が、どこからともなく天から降り注ぐ。

倒れた中年兵士の背中に、容赦なくさらなる矢が突き立てられていく。

馬も悲鳴を上げ、兵士の死体を馬車の方へひきづる。

周囲は一瞬にして地獄絵図へと変わった。

俺の乗っていた馬の脳天にも矢が刺さり、その場で崩れ落ちた。

馬から放り出された俺は、即座にハンマーを抜き。馬車の影に隠れる。

俺とした事が油断した。



「敵襲だ! 敵襲うぅぅ!! オークスカウトの奇襲だ!」



けたたましく鳴り響く警報の鐘の音。

兵士たちが慌ただしく武器を抜き、戦闘の幕が上がった。



「全員抜刀! 弓隊はすぐに打ち返せ! 右側の森だ! 物資馬車を盾にしろ!」



さすがは正規軍、三百人の物資輸送部隊の指揮官が即座に大声を張り上げ。

兵士たちを動かす。

兵士たちは訓練通りに馬車を盾にして弓で応戦を始めた。

奇襲にあって、撃ち返すという事は簡単そうで出来ない。

パニックは伝染する、それに打ち勝つには自信が必要。

自信は訓練や実践の経験から培われる。



「槍を持っているものは、接近戦に備えよ!! 敵の動きは早いぞ!」



矢の雨が止んだかと思うと。

今度は森の陰から身長140センチほどのオークの歩兵集団が雄叫びを上げて突撃してきた。

激しい乱戦の始まりだ。

俺は死んだ馬から鞍を外すと、それを盾代わりに引きずりながら先ほど倒れた中年兵士の死体へと歩み寄った。

冷たくなった兵士の胸元に一瞬だけ手を合わせ、そのペンダントをそっと剥ぎ取る。



「……名前、聞き損ねちまったな」


「ぎゃあああぁ、助けてくれ、やだやだぁ! ぐぁぁああっ!」



戦場という場所は、感傷に浸る暇すら与えてくれない。

すぐ隣で、兵士の一人が馬から引きずり下ろされ。

錆びた包丁のような粗末な刃物で首を裂かれて絶命した。

オークどもは下品な笑い声を上げながら、倒れた人間に何度も武器を突き立てている。


森から飛び出してきた軍勢は。

浅黒い肌に黄色い牙を剥き出しにし、不潔な布をまとったオークの歩兵たちだった。

鼻をつくのは、乞食の小便のような強烈な悪臭だ。

どうやら、次の獲物は俺らしい。



「むかついて最低の気分だ。この落とし前はお前らがまず払え」



オークたちは三匹一組で連携しているらしく。

一匹が正面から武器で受け止め、残りが脇から関節を狙いめった刺しにする戦法のようだ。

奇襲の優位も手伝って、矢傷を負った兵士や孤立した者が次々と標的にされている。



「ギギイイイイイ、ギキィッ!」



何を喚いているのか、言葉の意味などさっぱり分からない。

取り敢えず、思考よりもはやく俺は駆け出していた。

黄ばんだ犬歯を剝き出しにして威嚇してくるオークの顔めがけて、俺は思い切りハンマーをフルスイングした。

加速したハンマーの先端がオークの頭部を直撃し、割れたスイカのように地面を赤く染め上げる。

残りの二匹が、砕けた仲間を見て吠える。

武器はこん棒とナイフのようだ。



「グガゴオオオオ!」


「びびってねぇで、さっさと来いよ!」



威嚇しているナイフ持ちのオークの目の前に飛び込む。

ナイフを構えたオークの足に向け、右斜め上から袈裟斬りの軌道でハンマーを叩き込む。

「ゴキン!」と嫌な音が響き、足の骨が見事に砕け体制を崩す。

そのまま勢いのまま、地面に這いつくばったオークの頭を上からハンマーで押し潰す。



「ギャアァァァァァ!」



オークからしたら倍の体格の巨人が、小枝の様にハンマー振り回し仲間2人を瞬殺。

死んだ仲間を交互に見て、俺を見る。

その凄惨な光景を見て恐怖したのか、こん棒を捨てて背中を向けて逃げ出そうとした。

俺は一足飛びに追いかけ、逃げる背後から頭部をハンマーで叩き割った。

少し離れたところで様子を伺っていた他のオークたちは、蜘蛛の子を散らすように森へと逃げ帰っていく。



「……叫び声のわりに、人間と大して変わらねぇじゃねぇかびびりが」



体格差のせいか、まるで作りの悪い子供を相手に喧嘩をしているような気分だ。

ドエムル傭兵団のポジション。仲良くなった兵士の死。

まだ俺の中の怒りが沸騰して収まらない。

警戒はしつつも、目についたオークを感情のまま追いかけ殺す。

オークからしたら、俺がモンスターだろう。

この辺りの敵は、俺の狂気じみた戦闘に周りの士気は上がり。

オークの士気は下がっていくのが分かる。



「ギイィィイィ!」



叫び声をあげながら飛び込んできた別のオークの頭部が、ザクロのようにグチャリと弾け飛ぶ。

数匹が群がってきたが、どれも一撃で終わる相手だ。

大人の人間と子供くらいの体格差があり、こちらはリーチの長いハンマーを使っているのだから当然か。

すばしっこいかと思えば動きはむしろ鈍く。

怪力という前評判も、正直この程度なら大したことはない。



「オークってのは、こんなもんなのか? にしても、これどうやって換金するんだ? 相手はモンスターだから小銭なんて持ってねぇだろうしな」



ついでにと、地面に転がる汚いオークの下半身の布を足先でめくってみたが、金目のものなど何も出てこない。

草団子みたいな非常食が出てきたが、臭いオークの所有物を食べる気がしない。

やれやれと肩をすくめながら、俺は指揮官のいる本陣の方へと歩き出した。



俺の前に立つオークは皆殺しだ。

ついに最初のファンタジー的な戦闘です。

力が欲しいか?的な展開はあまり無いのですが。

昔の集団戦闘を思い出しながら書いてます

辛辣な感想でも良いので、感想が欲しい 笑


パルスから作者が


「欲しがりの豚め!」


と怒られそうです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。