8話 救援隊到着っ!
「う”っ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”っ”!?」
壮絶な痛みを感じて彼は悶える。だが、それでも冷静に地上で死んでいる特殊個体の魔物の上に落下して、それを緩衝材として扱う事で安全に着地した。
イグナーツは右腕の痛みに悶えながらも、塔の壁に背中を預けて場に座り込むと、空中を優雅に飛んでいる大型の飛行船へと視線を向ける。
飛行船は全長が約百メートル程あり、銀色の船体が月光に照らされて輝く。
船体には複数の重火器が備え付けられていた。
船体には赤と白を基調とした旗が掲げられており、黒燭の牙の紋章が刻まれている。
飛行船からは次々と救援隊の狩人たちが降下して、地上に蔓延る魔物たちを殺していく。
救援隊の狩人たちは若い男女が多く、狩人の装束は薄着で赤と白を基調としている。
彼らが使う武器は、短銃や剣や長銃や鎚矛や長杖など様々だ。
飛行船本体は空中から魔法攻撃を放ったり、備え付けの重火器を使い魔物を倒していき、地上を援護している。光の矢が連続して放たれ、魔物たちを貫く。重火器が轟音を立て、弾丸が魔物たちを粉砕する。
「もっと早く……来ていれば……」
圧倒的な火力を目の前にイグナーツは助かったと思うと同時に、もっと早く救援隊が来ていれば、ヴェルナーとカタリナは助かっていたかも知れないと考えて、どこかやりきれない思いを抱いた。
切れ長の黒目がちな瞳が虚ろに揺れ、濃藍の羽織が血に染まる。右腕は消失し、血が止まらない。
そして次々と目の前で魔物が殺されていく光景を、ただ呆然と彼が眺めていると、塔の最上階に居たエリザベートが器用に崩れた塔の瓦礫を使い降りて来た。
「隊長……!」
エリザベートがイグナーツに駆け寄る。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が心配の色を浮かべた。
「隊長……! 腕が……っ!」
彼の元に近づくと彼女は、右腕の状態を見て悲鳴を上げる。
だが、それでもイグナーツが生きている事にエリザベートは安堵すると、手持ちの道具を使い応急処置を始めた。彼女は防御魔法を使用したせいで、魔力切れを起こしており、簡単な回復魔法すら使えない。
「隊長……大丈夫ですか……?」
包帯を取り出すとエリザベートは、イグナーツの右肩の傷口に巻き付けた。
血が滲むが、何とか出血を抑える。
「ああ……何とか……生きている……」
荒い呼吸を交えながら彼は答える。やがて朝日が完全に上ると同時に、周囲に居た魔物たちは救援隊の猛攻により全て駆逐されて、辺りには魔物の血と腐敗の臭いが立ち込めた。
しかし、それでも特殊個体の魔物に関しては救援隊も苦戦を強いられたようであり、救援隊も何人か負傷している。
救援隊の隊長が腰に装備されていたレイピアを抜刀すると、地面に倒れて呻いている瀕死の魔物たちにレイピアを突き刺して止めを刺しながら、イグナーツの元に駆け寄った。
救援隊の隊長は、凛々しい女性の狩人である。
身の丈約百七十センチ、黒髪がポニーテールで揺れ、鋭い赤い瞳が冷たく光った。
豊満な胸が赤と白を基調とした狩人の装束に収まり、全体的に何処か冷たい雰囲気を醸し出している。
まさに女帝のような威圧感が滲み出ているようだ。
「貴様らが救援要請をした黒燭の牙、第七部隊の者たちか? おい、他の者はどうした? 報告では十人と聞いたが……」
彼女の声は威圧的であり、レイピアの血を払い納刀する。
「生き残りは……俺と彼女だけだ……。まあ、お前たちがもっと早く来てくれていたら……少なくともあと二人は生きていたがな……」
血を吐いて咽ながらもイグナーツは、救援隊の隊長に皮肉を混ぜて答えた。
「はっ、無駄口が叩けるのなら大丈夫そうだな。よし、さっさと飛行船に乗れ。我々も暇ではない。次の任務が控えているからな」
イグナーツの言葉や態度に舌打ちを放つと、彼女は睨みつけながらも指示を飛ばす。
そして救援隊の隊長は、続け様に緑色のフレア弾を空に撃ち上げた。
緑色の光が空高く昇り、花火のように弾ける。
「救助対象を発見した! 全員、撤退せよ! 速やかに飛行船へ戻れ!」
彼女が叫び、周囲に展開する部下たちに命令を下した。部下たちは次々と飛行船へと戻り始める。
飛行船は既に開けた場所に着陸していた。救援隊の隊長も飛行船へと戻るべく足を進める。
「手ぐらい貸しなさいよ! くそが……!」
彼女が飛行船へと戻っていくと、それを見ていたエリザベートは怒声を吐き捨てた。
白金の髪が揺れ、蒼い瞳が怒りに燃える。
エリザベートは救援隊の隊長が重傷のイグナーツを、一緒に運んでくれない事に怒り心頭の様子。
だが彼女は重傷の彼に肩を貸して立ち上がった。エリザベートは文句と怒声を救援隊の隊長に向けて吐き捨てながらも、ようやくこの地獄から脱して本国に帰れる事に気分が高揚としている。
「隊長、ようやく帰れますね! 本国に帰ったら……私、黒燭の牙を辞めて狩人を引退して……花屋でも始めようかと思ってます! ここでの生活で花ばかり育てていたので……腕はそれなりにあると思ってます!」
イグナーツを抱えて歩きながらも、彼女は明るい声を出しながら満面の笑みを見せた。
その声は活気に満ちており、白金の髪が揺れ、蒼い瞳が輝く。
エリザベートはかなり浮かれているようで、生き地獄から脱して本国に帰れることに、心から喜んでいる。
肩を貸してイグナーツを抱えて救援隊の飛行船へと歩みを進めていくと、飛行船に近づくにつれて、彼女の雰囲気や声が活気に満ちて明るいものへと変化していく。
周囲には救援隊が倒した魔物や特殊個体の魔物の死体が山のように転がる。
「お前なら……きっと良い花を咲かせる事が出来る……。お前の……花屋……楽しみにしている……」
血を流し過ぎた影響で意識が朦朧としながらも、イグナーツはエリザベートの言葉に答えた。
「はいっ……!」
彼の言葉を聞いて、元気はつらつな感じで彼女は返す。だが、次の瞬間――突如としてエリザベートの体から鮮血が溢れ出して、イグナーツを抱えたまま地面に倒れた。
「え……?」
彼女の声が震える。
「何があった……!? エリザベート……! 大丈夫か……!」
突然の出来事に、イグナーツは叫んだ。
彼は立ち上がろうとしたが、視界がぼやけたり物が二重に見えたりする。
だが、必死に視界を凝らして、エリザベートの姿を捉えようとした。
そしてイグナーツは、地面に倒れて血を流している彼女を視界に捉える。
「あぁぁぁっ……ああああああぁぁぁぁぁ――ッ!」
その光景を見た瞬間に、彼は喉と肺が潰れる程の断末魔を上げて、目の前の現実を呪った。
イグナーツの断末魔が響き渡る。
彼の目の前には、救援隊の手により倒された筈の魔物が、最後の抵抗と言わんばかりに自らの首を引きちぎり、首だけ動かして、エリザベートの首に噛みつき頸動脈を噛みちぎり息絶えていたのだ。
死して尚も、その魔物は彼女の首から離れることなく、深く噛みついたまま微動だにしない。
魔物の形相は酷く醜く、呪いの権化のような表情をしている。
赤く爛れた瞳が憎悪に燃え、口からは血が溢れている。
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