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魔物に包囲された塔で半年間の籠城を命じられた狩人部隊、仲間たちは少しずつ壊れていき、救援隊が来た時には俺しか残っていなかった  作者: りつりん
第四章

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9話 そして、彼一人が生き残った

「隊長……? 何が……起きたんですか……? 何も……見えません……。何も……聞こえません……。どうして……?」


 まだ辛うじて自分が生きているのかを、確認するようにエリザベートは尋ねた。

 彼女の声は混乱に満ちており、既に致命傷のようで聴力と視力を失い、夥しい量の血が首から流れている。白金の髪が血に染まり、蒼い瞳が虚ろに揺れる。


「隊長……? 隊長……! 返事して……! お願い……!」


 耳が聞こえない事と目が見えない事に、エリザベートは恐怖し酷く動揺して混乱した様子を晒した。


「イグナーツ……! どこですか……! 返事して……お願い……」


 助けを求めるような声を掛けて彼女は、イグナーツを探すように周囲に手や視線を動かす。

 エリザベートの手が空を掴み、虚ろな蒼い瞳が何も見えていない。

 白金の髪が血に染まり、首からは夥しい量の血が流れている。


「隊長……私……隊長と一緒に……最後まで戦う事が出来て……光栄でした……。黒燭の牙の狩人として……誇りに思います……。ありがとう……ございました……」


 自分の死が確定している事を察したのか、彼女は最後にイグナーツに別れの言葉を告げ、力の入らない腕を無理やり動かして敬礼を行う。

 その声は弱々しく、だが誇り高い狩人の言葉である。


 そして、エリザベートは息絶えた。白金の髪が風に揺れ、蒼い瞳が光を失う。

 豊かな胸が静かになり、呼吸が止まる。イグナーツは目の前で最後の仲間を失い、深い絶望と後悔とやりきれない思いを一瞬にして全て抱いた。


「ああああああああああああああっ! エリザベート! エリザベート!」


 発狂するように泣き叫び、彼は叫び散らかす。

 やり場のない気持ちを発散させるかのようにイグナーツは、エリザベートの首に噛みついたまま死んでいる魔物を左手だけで殴り始め、無理やり首から引き剥がした。


 引きはがした魔物の首を、彼は素手で力任せに只管に殴り続けて、原形が無くなるほどに拳を叩き込む。そこには魔物の頭であったものの残骸が転がる。

 それは、ぐちゃぐちゃの肉塊となり、肉団子のような形だ。


「ガロット……セシリア……ユリウス……リュネット……ヴィオラ……ルーカス……ヴェルナー……カタリナ……エリザベート……。すまない……俺は……お前たちを守れなかった……。許してくれ……。自分だけが生き残ってしまって……申し訳ない……」


 最後の生き残りとなるとイグナーツは、改めて死んでいった仲間たちへ謝罪の言葉を述べる。

 その声は絶望に満ちており、涙が止まらない。


 そして中々、飛行船に来ないイグナーツたちの事を不思議に思い、救援隊の隊長は苛つきながらも飛行船を降りて二人を探す。


 彼女はイグナーツを見つけて傍に近づくと、彼の異常性とここで何が起きたのかを、エリザベートの死体を見て理解した。

 何も言わずに救援隊の隊長は、イグナーツを強引に抱えて飛行船へと戻る。


 飛行船に精神崩壊を起こした彼を乗せて、部下たちを全員収容した事を確認してから、彼女は離陸の命令を出した。


「全員収容完了! 速やかに離陸せよ!」


 救援隊の隊長の声が船内に響く。


「ガロット……セシリア……みんな……待ってくれ……。俺も……すぐに行く……」


 エリザベートが死んで精神が崩壊したイグナーツは、言動がおかしくなり、虚ろな声で意味不明な事を口にする。そして飛行船は、その場から飛び立つ。


 イグナーツは誰一人仲間を守れなかった事で深い悲しみと絶望を受けて精神崩壊を起こすと、死亡した仲間たちの思念が自身の背中に伸し掛かるように妙な重みを感じつつ、本国へと帰るのであった。


 飛行船は空高く昇り、塔の残骸が遠ざかっていく。朝日が空を照らし、新しい一日が始まる。

 だが、イグナーツの心には、永遠の闇が残った。九人の仲間が死んだ。

 残ったのは、彼ただ一人。黒燭の牙、第七部隊は、壊滅した。


 だが、イグナーツは生き延びた。仲間たちの魂を背負いながら、彼は本国へと帰る。

 これが、黒燭の塔で繰り広げられた、半年間の籠城戦の終わりである。

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