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魔物に包囲された塔で半年間の籠城を命じられた狩人部隊、仲間たちは少しずつ壊れていき、救援隊が来た時には俺しか残っていなかった  作者: りつりん
第四章

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7話 隊長は己の命と引き換えに最後の仲間を守る

「ヴェルナー……カタリナ……お前たちの尊い犠牲を……絶対に無駄にはしない……! 必ず……生き延びる……!」


 塔内部の防衛を行っていた、ヴェルナーとカタリナの最後の勇姿を見届けると、イグナーツは抑えきれない涙を流す。切れ長の黒目がちな瞳が涙で潤み、濃藍の羽織が血に染まる。


「隊長! ヴェルナーとカタリナは! 二人はどうなったの!? 無事なの! 返事をして!」


 最上階で魔物の迎撃を続けていたエリザベートが、塔内部の二人の様子について問う。

 彼女の声は、まくしたてるように荒い口調であり、余裕がない感じだ。

 白金の髪が血に染まり、蒼い瞳が不安に揺れる。


「ヴェルナーとカタリナは……死んだ……。二人は……最後まで戦い抜いて……俺たちの為に……自爆して魔物の足止めをしてくれた……」


 階段を上がり最上階に戻るとイグナーツは、エリザベートに自分の目の前で起きた事実を述べた。

 それを聞いて、彼女は二人の死に大泣きする。


「嘘……! 嘘でしょ……! あと少しで本国に帰れたというのに……! なんで……! なんで……!」


 エリザベートの声は絶望に満ちており、涙が止まらない。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が涙で潤む。

 だがイグナーツと彼女は、仲間の死に思いを馳せる事も許されず、魔物たちの猛攻は続き、それの対応に追われた。


 魔物たちの勢いは留まる事を知らず、徐々に彼らは追い詰められていく。

 今や塔の防衛は二人のみであり、圧倒的な手数不足により、着実に首を絞められている状況。


 そしてヴェルナーとカタリナの犠牲により、塔内部の敵の侵入は一時的に足止めされているが、それでも魔物たちは着実に最上階を目指してきており、外では塔の外壁を登り攻めてきている。

 つまりイグナーツとエリザベートはハンバーガー状態だ。上下から魔物たちに挟まれ、逃げ場がない。


「くそ……! 完全に挟まれた……!」


 イグナーツが叫んだ。

 しかし二人が必死に魔物を迎撃していると、突如として立ち眩みがイグナーツを襲う。


「ぐっ……!」


 途端に彼の視界が歪み、身体がふらつく。切れ長の黒目がちな瞳が虚ろに揺れる。

 その隙をつかれて、魔物の鉤爪がイグナーツの腹部を裂いた。


「ぐあああああああああっ……!」


 彼は悲鳴を上げた。腹部から血が噴き出し、内臓が露出する。

 そのままイグナーツは床に倒れ込んだ。

 しかし、彼に重傷を負わせた魔物は、即座にエリザベートの攻撃を受ける。


 聖銀の槍の折れた柄で、彼女は魔物の頭部を殴り、魔物は倒れた。

 しかし、重傷を受けた事でイグナーツは、自身の体が確実に死に向かっている事を悟る。

 腹部からの出血は止まらず、意識が朦朧としていた。

 

 切れ長の黒目がちな瞳が虚ろに揺れ、濃藍の羽織が血に染まる。

 彼は最後の仲間、エリザベートだけは確実に生きて本国に帰らせる為に、一つの重たい決断を下した。


 その決断の内容は、イグナーツが大量の爆発物を抱えて、更には魔力暴走を起こして大自爆する事で、ここら一帯の魔物や建物など全てを一瞬にして無に帰す方法。

 だから、エリザベートには自分自身に最大限の防御魔法を掛けて、必死に爆破に耐えて貰う事になる。


「エリザベート……俺は……大量の爆発物を抱えて……魔力暴走を起こして大自爆する……。お前は……最大限の防御魔法を掛けて……爆破に耐えろ……」


 決死の覚悟で最後の作戦を、イグナーツはエリザベートに伝えた。

 だが時間が無いとして、彼女が返事をする前に、イグナーツは近くに置かれていた木箱へと近づいて、その箱の中から大量の爆発物を取り出して、自分の体に巻き付け始める。


「隊長……! やめて……! そんなこと……!」


 彼が身体に爆発物を巻き付けていると、エリザベートが涙を流しながら必死な様子で、その作戦に異を唱えた。その声は絶望に満ちており、涙が止まらない。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が涙で潤む。


「隊長……! お願い……! 作戦を中止して……! 私……! 私は隊長まで失いたくない……!」


 魔物を迎撃しながら彼女は、イグナーツに作戦の中止を懇願した。

 しかし、彼は部隊の隊長として仲間を生かす責務がある事から、エリザベートの気持ちを理解しつつも、作戦の中止はしない。


「すまない……エリザベート……。だが……俺は隊長だ……。お前を生かすのが……俺の責務だ……」


 イグナーツの声は決意に満ちている。


「エリザベート……絶対に生きて本国に帰ってくれ! それが俺たち黒燭の牙、第七部隊の願いだ! ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス、ヴェルナー、カタリナ……! みんなの願いだ! 必ず……生きろ!」


 自身の体に爆薬を巻き付け終えると、彼はエリザベートに最後の言葉を掛けた。

 切れ長の黒目がちな瞳が決意に燃え、涙が頬を伝う。

 そしてイグナーツは塔から飛び降りる準備を始めた。


 彼が塔から身を乗り出して下を見ると、塔の外壁を登り迫り来る魔物や、地上を覆い尽くすほどの、大量の魔物たちを視界に収める。


「はははは……! 来い……! 全員まとめて……吹き飛ばしてやる……!」


 盛大に笑いながらイグナーツは、両手に魔法陣を展開させて、意図的に魔力暴走を引き起こそうとした。魔力が両手に収束し始め、魔法陣が暴走し始める。淡い光が眩く輝き、空気が震えた。


「貴様らは……俺の仲間を殺した……! ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス、ヴェルナー、カタリナ! 全員の仇を……! お前たちを絶対に全て殺す! 地獄に落ちろ!」


 最後に魔物たちを見ながら、酷く低音の効いた声で怨念を込めたような言葉を、イグナーツは恨みのように吐き捨てる。


 そして、ついに彼は両脚に力を込めて塔から飛び降り、両手に発動した魔法陣を合体させて自爆しようとした。魔法陣が合体し始め、魔力暴走が更に強まる。淡い光が眩く輝き、空気が震えた。


「全ての守護よ、我が身を包め!最大の防壁を展開せよ!絶対防御、聖域の盾(グランド・シールド)……!」


 塔に残されたエリザベートは、イグナーツに言われた通りに残りの魔力を全て使い、最強の防御魔法を自分に発動する。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が魔力で光った。

 魔法陣が展開され、彼女の身体が淡い光に包まれる。


「隊長! 死なないで! お願い……イグナーツ……!」


 喉が裂けるほど泣き叫び、絶対に届かないと知っていても、彼女は塔から身を乗り出して手を伸ばそうとした。


 イグナーツは自爆する最後の瞬間、仲間たちとの楽しい日々や思い出や、これまでの自分の人生などを走馬灯のように思い出して振り返る。


 幼い頃、貧しい家に生まれた。父は早くに亡くなり、母は病で床に伏せていた。

 彼は幼い頃から働き、母を支えた。だが、母も早くに亡くなった。

 孤児となったイグナーツは、黒燭の牙に拾われ、狩人として育てられた。


 そして、第七部隊に配属され、仲間たちと出会った。ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス、ヴェルナー、カタリナ、エリザベート。


 みんなと過ごした日々は、イグナーツにとって最高の宝物だった。それ故に仲間たちを殺した、この魔物たちだけは絶対に許さないと決意を新たに、彼は自爆を行おうとする。


 だが、そこへ突如として光の矢の魔法が雨のように降り注ぎ始めて、次々に周囲にいた魔物たちを一掃していく。


「グアアアアアアアアッ……!」


 魔物たちは悲鳴を上げ、光の矢に貫かれて倒れた。

 つまり、間一髪の所で本部から派遣された救援隊が到着した訳である。


「き、来た……! 救援隊が……!」


 魔物たちが射抜かれていく光景を目の当たりにして、イグナーツは安堵感に全身を包まれた。

 そして即座に魔力暴走を解除しようとしたが、その反動として彼の右腕は大きな代償を受ける。


 イグナーツの右腕は、内側から爆発するようにして消し飛び、跡形もなく消えた。

 血が噴き出し、骨が露出し、肉が飛び散る。右肩から先が完全に消失し、血が止まらない。

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