7話 隊長は己の命と引き換えに最後の仲間を守る
「ヴェルナー……カタリナ……お前たちの尊い犠牲を……絶対に無駄にはしない……! 必ず……生き延びる……!」
塔内部の防衛を行っていた、ヴェルナーとカタリナの最後の勇姿を見届けると、イグナーツは抑えきれない涙を流す。切れ長の黒目がちな瞳が涙で潤み、濃藍の羽織が血に染まる。
「隊長! ヴェルナーとカタリナは! 二人はどうなったの!? 無事なの! 返事をして!」
最上階で魔物の迎撃を続けていたエリザベートが、塔内部の二人の様子について問う。
彼女の声は、まくしたてるように荒い口調であり、余裕がない感じだ。
白金の髪が血に染まり、蒼い瞳が不安に揺れる。
「ヴェルナーとカタリナは……死んだ……。二人は……最後まで戦い抜いて……俺たちの為に……自爆して魔物の足止めをしてくれた……」
階段を上がり最上階に戻るとイグナーツは、エリザベートに自分の目の前で起きた事実を述べた。
それを聞いて、彼女は二人の死に大泣きする。
「嘘……! 嘘でしょ……! あと少しで本国に帰れたというのに……! なんで……! なんで……!」
エリザベートの声は絶望に満ちており、涙が止まらない。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が涙で潤む。
だがイグナーツと彼女は、仲間の死に思いを馳せる事も許されず、魔物たちの猛攻は続き、それの対応に追われた。
魔物たちの勢いは留まる事を知らず、徐々に彼らは追い詰められていく。
今や塔の防衛は二人のみであり、圧倒的な手数不足により、着実に首を絞められている状況。
そしてヴェルナーとカタリナの犠牲により、塔内部の敵の侵入は一時的に足止めされているが、それでも魔物たちは着実に最上階を目指してきており、外では塔の外壁を登り攻めてきている。
つまりイグナーツとエリザベートはハンバーガー状態だ。上下から魔物たちに挟まれ、逃げ場がない。
「くそ……! 完全に挟まれた……!」
イグナーツが叫んだ。
しかし二人が必死に魔物を迎撃していると、突如として立ち眩みがイグナーツを襲う。
「ぐっ……!」
途端に彼の視界が歪み、身体がふらつく。切れ長の黒目がちな瞳が虚ろに揺れる。
その隙をつかれて、魔物の鉤爪がイグナーツの腹部を裂いた。
「ぐあああああああああっ……!」
彼は悲鳴を上げた。腹部から血が噴き出し、内臓が露出する。
そのままイグナーツは床に倒れ込んだ。
しかし、彼に重傷を負わせた魔物は、即座にエリザベートの攻撃を受ける。
聖銀の槍の折れた柄で、彼女は魔物の頭部を殴り、魔物は倒れた。
しかし、重傷を受けた事でイグナーツは、自身の体が確実に死に向かっている事を悟る。
腹部からの出血は止まらず、意識が朦朧としていた。
切れ長の黒目がちな瞳が虚ろに揺れ、濃藍の羽織が血に染まる。
彼は最後の仲間、エリザベートだけは確実に生きて本国に帰らせる為に、一つの重たい決断を下した。
その決断の内容は、イグナーツが大量の爆発物を抱えて、更には魔力暴走を起こして大自爆する事で、ここら一帯の魔物や建物など全てを一瞬にして無に帰す方法。
だから、エリザベートには自分自身に最大限の防御魔法を掛けて、必死に爆破に耐えて貰う事になる。
「エリザベート……俺は……大量の爆発物を抱えて……魔力暴走を起こして大自爆する……。お前は……最大限の防御魔法を掛けて……爆破に耐えろ……」
決死の覚悟で最後の作戦を、イグナーツはエリザベートに伝えた。
だが時間が無いとして、彼女が返事をする前に、イグナーツは近くに置かれていた木箱へと近づいて、その箱の中から大量の爆発物を取り出して、自分の体に巻き付け始める。
「隊長……! やめて……! そんなこと……!」
彼が身体に爆発物を巻き付けていると、エリザベートが涙を流しながら必死な様子で、その作戦に異を唱えた。その声は絶望に満ちており、涙が止まらない。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が涙で潤む。
「隊長……! お願い……! 作戦を中止して……! 私……! 私は隊長まで失いたくない……!」
魔物を迎撃しながら彼女は、イグナーツに作戦の中止を懇願した。
しかし、彼は部隊の隊長として仲間を生かす責務がある事から、エリザベートの気持ちを理解しつつも、作戦の中止はしない。
「すまない……エリザベート……。だが……俺は隊長だ……。お前を生かすのが……俺の責務だ……」
イグナーツの声は決意に満ちている。
「エリザベート……絶対に生きて本国に帰ってくれ! それが俺たち黒燭の牙、第七部隊の願いだ! ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス、ヴェルナー、カタリナ……! みんなの願いだ! 必ず……生きろ!」
自身の体に爆薬を巻き付け終えると、彼はエリザベートに最後の言葉を掛けた。
切れ長の黒目がちな瞳が決意に燃え、涙が頬を伝う。
そしてイグナーツは塔から飛び降りる準備を始めた。
彼が塔から身を乗り出して下を見ると、塔の外壁を登り迫り来る魔物や、地上を覆い尽くすほどの、大量の魔物たちを視界に収める。
「はははは……! 来い……! 全員まとめて……吹き飛ばしてやる……!」
盛大に笑いながらイグナーツは、両手に魔法陣を展開させて、意図的に魔力暴走を引き起こそうとした。魔力が両手に収束し始め、魔法陣が暴走し始める。淡い光が眩く輝き、空気が震えた。
「貴様らは……俺の仲間を殺した……! ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス、ヴェルナー、カタリナ! 全員の仇を……! お前たちを絶対に全て殺す! 地獄に落ちろ!」
最後に魔物たちを見ながら、酷く低音の効いた声で怨念を込めたような言葉を、イグナーツは恨みのように吐き捨てる。
そして、ついに彼は両脚に力を込めて塔から飛び降り、両手に発動した魔法陣を合体させて自爆しようとした。魔法陣が合体し始め、魔力暴走が更に強まる。淡い光が眩く輝き、空気が震えた。
「全ての守護よ、我が身を包め!最大の防壁を展開せよ!絶対防御、聖域の盾……!」
塔に残されたエリザベートは、イグナーツに言われた通りに残りの魔力を全て使い、最強の防御魔法を自分に発動する。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が魔力で光った。
魔法陣が展開され、彼女の身体が淡い光に包まれる。
「隊長! 死なないで! お願い……イグナーツ……!」
喉が裂けるほど泣き叫び、絶対に届かないと知っていても、彼女は塔から身を乗り出して手を伸ばそうとした。
イグナーツは自爆する最後の瞬間、仲間たちとの楽しい日々や思い出や、これまでの自分の人生などを走馬灯のように思い出して振り返る。
幼い頃、貧しい家に生まれた。父は早くに亡くなり、母は病で床に伏せていた。
彼は幼い頃から働き、母を支えた。だが、母も早くに亡くなった。
孤児となったイグナーツは、黒燭の牙に拾われ、狩人として育てられた。
そして、第七部隊に配属され、仲間たちと出会った。ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス、ヴェルナー、カタリナ、エリザベート。
みんなと過ごした日々は、イグナーツにとって最高の宝物だった。それ故に仲間たちを殺した、この魔物たちだけは絶対に許さないと決意を新たに、彼は自爆を行おうとする。
だが、そこへ突如として光の矢の魔法が雨のように降り注ぎ始めて、次々に周囲にいた魔物たちを一掃していく。
「グアアアアアアアアッ……!」
魔物たちは悲鳴を上げ、光の矢に貫かれて倒れた。
つまり、間一髪の所で本部から派遣された救援隊が到着した訳である。
「き、来た……! 救援隊が……!」
魔物たちが射抜かれていく光景を目の当たりにして、イグナーツは安堵感に全身を包まれた。
そして即座に魔力暴走を解除しようとしたが、その反動として彼の右腕は大きな代償を受ける。
イグナーツの右腕は、内側から爆発するようにして消し飛び、跡形もなく消えた。
血が噴き出し、骨が露出し、肉が飛び散る。右肩から先が完全に消失し、血が止まらない。
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