3話 最終日にして異形の個体、現れる
「セシリア……あなたが残してくれたこれらが……今夜、私たちを救ってくれるかもしれない……。ありがとう……あなたの優しさを……私は忘れない……」
彼女が呟きながら、薬草と包帯を箱に纏める。
そして隣ではイグナーツとヴェルナーによるチェスが終わりを迎えつつあった。
「チェックメイト……!」
クイーンをh7に動かしイグナーツが叫ぶ。
「オーノー! まじかよ、完敗だ!」
盤面を見つめ、ヴェルナーは驚愕の声を上げた。
ヴェルナーが大袈裟な反応を見せる。長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が驚愕に揺れた。
そしてイグナーツは、徐に席を立つと、最上階へと上がる。
「はぁ……今夜で最後だ。明日の朝には救援隊が来る……。絶対に……生き延びる……」
彼は塔の最上階から夜の森を眺めて、深く溜息を吐いた。その声は決意に満ちている。
数分が経過すると、狩り装束に身を包んだ完全な状態で仲間たちが続々と最上階へと上がり、集合した。
ヴェルナー、エリザベート、カタリナが最上階に集まる。
そして最後の夜に向けて、全員が静かに祈りを捧げた。
「神よ……そして、天国にいる仲間たち……。ガロット、セシリア、ユリウス、リュネット、ヴィオラ、ルーカス……。どうか、私たちを見守っていてください……。私たちが……今夜を生き延びられるように……。そして、明日の朝には……救援隊が来ますように……」
空を仰ぐエリザベートの声は祈りに満ちている。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が涙で潤む。
「……神様……お願いしますぅ……。私たちを……守ってくださいぃ……」
両手を合わせてカタリナが祈る。淡い薔薇金の髪が揺れ、大きなライラック色の瞳が涙で潤む。
「神よ……俺たちを守ってくれ……」
右手で十字を切りながらヴェルナーが祈る。長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が真剣に光った。
「神よ……俺たちを……生かしてくれ……」
首飾りにキスをしながらイグナーツが祈る。切れ長の黒目がちな瞳が真剣に光った。
やがて太陽が完全に沈んで、周囲が一瞬にして漆黒に包まれると、イグナーツや仲間たちは周囲の松明に火を放ち、明かりを確保した。炎が松明から立ち上り、最上階を照らす。
「どういう事だ? 今日は森がやけに静かだ……。魔物の気配が全くしない。どうも、妙だな……」
疑問の声をヴェルナーが漏らすが、その声は不安に満ちている。
長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が不安に揺れた。
「全員、何時でも戦えるように戦闘態勢へと移行しろ! 油断するな……!」
右手を大きく振り、イグナーツは仲間たちに指示を出す。即座に仲間たちは武具の確認を互いに行い、問題が無い事を把握すると、武器を構えて、防衛の陣を構築するように配置に就いた。
次の瞬間、漆黒の森から恒例の如く、雄叫びや唸り声や魔物の咆哮が轟く。
「「「グオオオオオオオオッ!」」」
魔物たちの咆哮が森全体を震わせる。
騒々しい程の足音が一斉に聞こえ始めると、それは群れの規模で鳴り響いた。
地面が揺れ、森に潜んでいた鳥たちが一斉に鳴きながら飛び立ち、森から離れた。
塔も大きく揺れて、巨大な魔物の接近を全員が感じる。
「く、来る……!」
イグナーツが叫んだ。切れ長の黒目がちな瞳が鋭く光り、濃藍の羽織が風に揺れる。
仲間たちと彼が互いに汗を流しながらも、希望を滲ませた顔を合わせた。
「生き残るぞッ……!」
全身に力を込めて、イグナーツが叫ぶ。
「ああ……! 絶対に生き残る……!」
力強くヴェルナーが答えた。長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が決意に燃える。
「絶対に……! 明日の朝には救援隊が来る……! それまで……耐える……!」
覇気を込めてエリザベートが答えた。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が決意に燃える。
「……わたしたち、絶対に生き残りますぅ……!」
微笑みながらカタリナが答えた。淡い薔薇金の髪が揺れ、大きなライラック色の瞳が決意に燃える。
イグナーツは、短銃の弾倉を開け、弾丸を一発ずつ手に取った。
そして、過去の死者の名前を一人ずつ呼び、祈りを弾丸に込める。
「ガロット……お前の勇気を……この弾丸に……」
一発目の弾丸を弾倉に込めた。
「セシリア……お前の優しさを……この弾丸に……」
二発目の弾丸を弾倉に込めた。
「ユリウス……お前の魂を……この弾丸に……」
三発目の弾丸を弾倉に込めた。
「リュネット……お前の強さを……この弾丸に……」
四発目の弾丸を弾倉に込めた。
「ヴィオラ……お前の勇気を……この弾丸に……」
五発目の弾丸を弾倉に込めた。
「ルーカス……お前の力を……この弾丸に……」
六発目の弾丸を弾倉に込めた。
そして弾込めを終えるとイグナーツは短銃を構え、銃身を眉間に押し当て静かに目を閉じる。
「死にたくはないですけど……どうせ死ぬなら、イケメンの隣がいいですねぇ……」
徐にカタリナが口を開くと、冗談めいた口調で言い放つ。
「はははっ! それなら俺の隣に来いよ!」
両手を大きく広げて、ヴェルナーが笑いながら答える。
「いやいや、俺の隣だろ!」
笑いながら右手を差し出し、イグナーツが口を開く。
「私も……イケメンの隣がいいかも……!」
人差し指を自身の顎に当てながら、エリザベートも冗談に便乗して笑いながら言い放つ。
この場に居る全員が笑い、緊張した空気が僅かに和らいだ。
だが突如として、遠方の森から異様な光と音が発せられた。
森の奥から赤い光が立ち上り、轟音が響き渡る。
魔物の大群の咆哮が塔の最上階まで轟き、イグナーツや仲間たちの緊張が最高潮に達した。
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!」
咆哮が塔全体を震わせる。
「来るぞ……っ”!? か、数が……尋常じゃない! 何百……いや……何千……!」
塔から身を乗り出すと、エリザベートが下の様子を見て叫んだ。
その声は驚愕に満ちている。白金の髪が風に揺れ、蒼い瞳が恐怖に揺れた。
全員が一斉に武器を構え、表情を狩人のそれに変える。
イグナーツたちは塔を目指して突撃する魔物たちを視認して、即座に攻撃を開始しようとしたが、そこでかつてないほどの異変が起きた。
それは今日という日まで一度も起きていないものであり、イグナーツと仲間たちは驚愕し、唖然とする。漆黒の森から通常の魔物に混じり、明らかに異常と呼ばれる見た目をした、特殊個体の魔物も多く出て来て、塔に目掛けて一直線に近づいてきた。
「な……何だ……あれは……!?」
驚愕の声をヴェルナーが上げる。長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が恐怖に揺れた。
そして森から異形の魔物たちが突如として姿を現した。
それは今までの戦いで、一度も見た事がない魔物の個体であり、その禍々しい形状に全員が凍りつく。
一体の異形個体の巨体の魔物は、他の魔物を押し退けながら先頭に立つ。
その魔物の大きさは、塔の半分ぐらいの体型である。
身の丈約二十メートル、黒灰色の体毛が逆立ち、赤く爛れた瞳が憎悪に燃えていた。
四本の腕には鋭い鉤爪が生え、口からは涎と共に腐臭が漏れる。
背中には骨のような突起が無数に生えており、禍々しい魔力が全身から漏れ出ていた。
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