2話 最後の晩餐
「……今日が最後の日ですからぁ。皆で贅沢しましょうねぇ」
微笑みながら彼女が呟く。食事が配られると、イグナーツや仲間たちは、無言のまま料理を食べ始めた。だが、どこか温かな空気が、その場には流れている。
イグナーツは赤ワインを口に含み、ミートスープを食べた。
ヴェルナーは硬質パンを齧り、干し肉を食べる。
エリザベートはチーズを食べ、果物の缶詰を食べた。
カタリナも一緒に食事を取る。全員が無言のまま食事を続けた。
「絶対に生きて帰るぞ」
食事を終えたイグナーツは、仲間たちに短く宣言する。
その声は力強く、切れ長の黒目がちな瞳が決意に燃えた。
「ああ……! 絶対に生きて帰る!」
力強くヴェルナーが答える。長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が決意に燃える。
「絶対に……!」
力強くエリザベートが答えた。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が決意に燃える。
「絶対に生きて帰りますぅ……!」
微笑みながらカタリナが答えた。淡い薔薇金の髪が揺れ、大きなライラック色の瞳が決意に燃える。
そして、時刻は午後五時頃。
太陽が西の空に傾き始め、空が赤く染まる。気温は徐々に下がり始めていた。
最後の確認を行うべく、カタリナとヴェルナーが塔の周辺に設置した防衛用のトラップを確認したり、再設置したりして、正常に設置されている事をイグナーツに報告する。
「隊長、トラップの確認が完了しました! 全て正常に設置されています!」
「よし、ご苦労だった!」
ヴェルナーの報告に対し、イグナーツが親指を立たせながら答えた。彼は最後の戦いという事で、武器庫を開放し、ありったけの弾薬や火炎瓶など、様々な武器をエリザベートたちと協力して最上階へと持ち運び、分配する。
弾薬箱、火炎瓶、短銃、剣、槍、弓矢などが最上階に運ばれた。
イグナーツは弾薬箱を開け、弾丸を数える。
「弾丸は十分にある! 火炎瓶も十分だ!」
興奮したように声を弾ませて彼が呟いた。そして最後の戦いに対して完璧な備えを整えると、身嗜みすらも完璧に済ませたイグナーツと仲間たちは、最後の戦いが行われる夜をただ只管に待つ。
それぞれが戦闘前の張り詰めた空気感を楽しむように、チェスをしたり、武器を弄ったり、イメージトレーニングをしたりして時を過ごす。そして時刻は午後七時頃。
太陽が西の空に沈み、空が暗くなり始めている。星が輝き始め、満点の星空が広がっていた。
気温は零度近くまで下がっている。
「隊長、定時報告ですぅ! 今現在、漆黒の森に動きは無しですぅ! 魔物の気配もありませんぅ! とても穏やかですぅ……!」
最上階へと上がり、漆黒の森の様子を偵察していたカタリナが、定時報告を行った。
「把握した。引き続き警戒を続けろ」
頷きながらイグナーツは応える。そして塔の中で待機している彼に、ヴェルナーが徐に近づいてきた。
「隊長、チェスでもやらないか?」
人差し指で頬を掻きながら彼が尋ねる。長めの金髪が揺れ、切れ長の蒼い瞳が真剣に光った。
「……まあ、暇だしな。いいぞ」
僅かに考えた末にイグナーツは答える。彼はヴェルナーとチェス盤を囲み、ゲームを始めた。
彼が白の駒を、イグナーツが黒の駒を持つ。ヴェルナーがポーンをe4に動かした。
イグナーツがポーンをe5に動かす。
「ここでの暮らしも……長かったな……」
「ああ……長かった……。半年間……よく耐えた……」
静かにヴェルナーが呟き、イグナーツは胸の内に重たい物が込み上げる。
ヴェルナーがナイトをf3に動かした。イグナーツがナイトをc6に動かす。
「ガロットが……最初に死んだな……。あいつは……最後まで笑っていた……」
「ああ……。ガロットは……仲間思いだった……」
僅かに肩を震わせながらヴェルナーが呟き、イグナーツは仲間を殺した時の感覚を思い出す。
ヴェルナーがビショップをc4に動かした。イグナーツがビショップをc5に動かす。
「セシリアも……死んだ……。あいつは……いつも優しかった……」
「ああ……。セシリアは……俺たちを何度も救ってくれた……」
額に手を当てながらヴェルナーが呟き、イグナーツは彼女の顔を思い浮かべながら答える。
ヴェルナーがポーンをd4に動かした。イグナーツがポーンでd4のポーンを取る。
「ユリウスは……狂ってしまった……。俺は……あいつを止められなかった……」
「ユリウスは……精神が限界だったんだ……。誰も悪くない……」
声を震わせながらヴェルナーが呟き、イグナーツは静かに手を握り固めた。
ヴェルナーがナイトでd4のポーンを取る。イグナーツがポーンをd6に動かした。
「リュネットは……自殺した……。あいつは……絶望していた……」
「ああ……。リュネットは……俺が守れなかった……」
両手で頭を抱えて俯きながらヴェルナーが呟き、イグナーツは首つり自殺の現場の光景が脳裏に蘇る。
ヴェルナーがキャスリングをした。イグナーツもキャスリングをする。
「明日……明日には……帰れる……」
「ああ……。絶対に……生きて帰る……!」
力を込めた言葉をヴェルナーが呟き、イグナーツが決意を燃やす声で返した。
そしてイグナーツとヴェルナーがチェスをしている横では、エリザベートが死んだ仲間の遺品を磨いたり拭いたりして綺麗にしてから、一個ずつ丁寧に箱に詰めている。
彼女は、白いレースの下着姿のまま、遺品を手に取った。
白金の髪が揺れ、蒼い瞳が悲しみに揺れる。
エリザベートは、ガロットの黒蛇の鎖剣を手に取り、布で丁寧に拭いた。
「ガロット……あなたはいつも笑っていた……。その笑顔が……私たちを救ってくれた……。ありがとう……」
彼女は呟きながら、鎖剣を箱に収めた。次に、セシリアの杖剣を手に取り、布で丁寧に拭く。
「セシリア……あなたはいつも優しかった……。その優しさが……私たちを癒してくれた……。ありがとう……」
エリザベートは呟きながら、杖剣を箱に収めた。
次に、ユリウスのレイピアを手に取り、布で丁寧に拭く。
「ユリウス……あなたは……狂ってしまったけど……それまでは良い仲間だった……。安らかに眠って……」
彼女は呟きながら、レイピアを箱に収めた。次に、リュネットの双刀を手に取り、布で丁寧に拭く。
「リュネット……あなたは……辛い思いをした……。でも……あなたは強かった……。安らかに眠って……」
エリザベートは涙を流しながら呟き、双刀を箱に収めた。
次に、ヴィオラの刃付き鞭を手に取り、布で丁寧に拭く。
「ヴィオラ……あなたは……最後まで戦った……。その勇気を……私は忘れない……」
彼女は涙を流しながら呟き、鞭を箱に収めた。次に、ルーカスの戦鎚を手に取り、布で丁寧に拭く。
「ルーカス……あなたは……力強かった……。その力が……私たちを守ってくれた……。ありがとう……」
エリザベートは涙を流しながら呟き、戦鎚を箱に収めた。
そしてカタリナが偵察を辞めて最上階から降りて来ると、イグナーツたちの横で最終戦に備えて魔力を高めるべく、その場で座禅を組んで瞑想を始める。
彼女は、薄桜色の総レース仕様の下着姿のまま、床に座り両足を組んだ。
淡い薔薇金の髪が揺れ、大きなライラック色の瞳が閉じられる。
カタリナは深く呼吸をし、魔力制御を行う。
瞑想を始めると、彼女の周囲には魔力が漲り始める。
淡い光がカタリナの身体を包み込み、魔力が空気中に満ちていく。
遺品の整理を終えると次にエリザベートは、セシリアが生前の頃に残してくれていた、薬草や包帯を纏めて戦闘用に用意した。
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