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魔物に包囲された塔で半年間の籠城を命じられた狩人部隊、仲間たちは少しずつ壊れていき、救援隊が来た時には俺しか残っていなかった  作者: りつりん
第三章

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7話 揺らぐ狩人たちの心境

「セシリア……ガロット……すまない……」


 彼は呟き続けた。それから暫くの時が経過して、仮眠を取っていた者たちが起き始めて身支度を済ませると、次々に朝食を取り始める。


 イグナーツも朝食を食べようとしたが仲間の一人、ルーカスが一向に朝食を取りにこない事に気がついた。


「ルーカスは……どこだ……?」


 ルーカスの様子を確認するべく、彼は席を立ち部屋を出る。

 すると部屋を出て直ぐ、壁にもたれ掛かり放心状態の彼を発見した。


 だが今のルーカスには生気がなく、眼は虚ろである。

 やつれた顔に乾燥した肌、見るからに不健康という感じだ。


「ルーカス……大丈夫か……?」


 心配しながらイグナーツは声を掛けたが、彼からの返事は帰ってこない。


「あははははははは……!」


 その時、唐突に彼の後ろからユリウスが現れて、突然狂ったように大声で笑い出した。

 銀灰色の髪が乱れ、一切の光が宿らず瞳孔が完全に開いた状態で、蒼灰色の瞳を晒している。


「結局、全部無駄だったんだよ。俺たちはきっとここで死ぬ。もう誰も助からない」


 イグナーツに向けて、彼は壊れたように呟いた。


「まだ終わっていない! 必ず救援隊は来る! 俺たちは必ず生きて本国に帰る! 諦めるな!」


 ユリウスの肩を掴むと、彼は気合を込めた様子で言い放つ。

 イグナーツの声は力強い。切れ長の黒目がちな瞳が決意に燃える。


 だが、彼の熱い言葉を聞いても、ユリウスの目はどこか空虚で、何一つ期待していないような雰囲気が滲む。


「……無駄だ」


 吐き捨てるように、ユリウスが呟いた。それを聞いてイグナーツは更に言葉を掛けようとしたが、今の状態では何を口にしても無意味である事を察すると、その場を後にする。

 そして朝食を食べてから全員を招集して、明るいうちにやらなければならない作業を始めた。


 だが、仲間たちの動きは鈍く、注意力散漫なようで、防衛トラップの構築の失敗や事故など不祥事が相次いで起こる。


 カタリナが魔法陣を描き間違え、爆発事故が発生。

 ヴィオラが罠を設置中に転倒し、怪我を負う。

 エリザベートが落とし穴を掘っている最中に穴に落ちる。


 そして、なんとか防衛トラップの構築を終えると、イグナーツは自分に仲間の一人、ヴィオラをつけると、一緒に武器庫の確認を行う。


 武器庫では、剣、槍、弓、短銃、弾薬、ナイフ、盾、鎧などが保管されている。

 イグナーツとヴィオラは、木箱の中身を確認し、数を計算してゆく。


「はっ……次にやられるのはアタシたちかもな」


 武器庫で作業をしながら、ヴィオラは独り言のように呟いた。

 その声は虚ろで、深い漆黒に紫を滲ませた長髪が揺れる。紅い瞳が虚ろに揺れた。


 それを聞いて、イグナーツは何も言い返すことはなく、ただ黙々と作業を続ける。

 そして明るいうちに行うべき作業を終えると、全員が塔へと戻り、各々が何かをしながら時間を潰した。


 カタリナとユリウスは無言でチェスを行う。エリザベートは黙々と食事を摂り続けた。

 ヴィオラは毛布を被り仮眠を取る。リュネットは淡々と武具の手入れをしていた。

 ヴェルナーは無心で洗濯を行う。ルーカスは何もせずただ天井を見つめて座り込んでいた。


 やがて完全なる夜が訪れると、イグナーツは仲間たちの顔を一瞥したが、全員の眼の下には濃い隈がある。外から魔物たちの声と足音が聞えると、イグナーツは即座に命令を出した。


「全員、最上階へ上がれ……」


 掠れた彼の声が響く。全員が無言のまま最上階へと登り、防衛の陣を作り配置に就いた。

 魔物たちが塔の外壁を登り、襲撃を始める。


「グルルルル……ガァアアアアアッ!」


 魔物たちの咆哮が響き渡った。

 イグナーツたちは、それを作業のように迎撃していく。


 彼らは何時も通りに、馬鹿正直に突っ込んでくる魔物を相手にしていた。

 だが、そこで唐突にイグナーツの後ろを見張っていた仲間のユリウスが前線に立ち、魔物を撃ち始める。


「……全部殺す」


 無表情のままユリウスが呟くと、高速で手を動かして二連式銃を連射した。

 だが彼が勝手に動いたせいで、裏手ががら空き状態になる。


 魔物たちは頭を使ったのか、その一瞬の隙を見逃すことなく、塔の裏側から攻めて来て、次々にその姿をイグナーツたちの目の前に威圧的に晒した。


「グルルルル……ガァアアアアアッ!」


 魔物たちの咆哮が響き渡る。

 裏手を見張っていたユリウスが持ち場を離れた事で、防御の陣が突破され掛けた。


 しかし、イグナーツと仲間たちは死に物狂いで攻撃を続ける。

 このままでは正面と裏から同時に攻められて板挟みとなるからだ。

 そして正面と裏手から同時に攻められると、イグナーツと仲間たちは、かつてないほどの危機的状況に陥る。


「くそっ! 数が多すぎる……!」


 ルーカスが叫んだ。焦げ茶の短髪が汗に濡れ、琥珀色の瞳が焦りに揺れる。


「全員、持ち場を死守しろ! エリザベート、裏手に魔法を! カタリナ、正面を援護しろ!」


 イグナーツが的確な指示を出した。切れ長の黒目がちな瞳が鋭く光り、濃藍の羽織が風に揺れる。


「夜の底に沈む魂に、終わりを告げる白銀を。これ以上誰も傷つかぬよう、ただ無慈悲な白で世界を穿て。――ホーリーランス!」


 聖銀の槍を構えエリザベートは、裏手に向けて詠唱を始めた。

 魔法陣が展開され、閃光が放たれる。

 閃光は裏手から登る夜狼たちを貫き、浄化しながら塔から落とす。


「天の嘆きよ、いま一度だけこの地に。何も残さぬ蒼白き閃光を以て、目の前の虚無ごと全てを灰燼へと変えろ。――サンダーボルト」


 魔術刻印杖を高く掲げ、カタリナは正面に向けて詠唱を始めた。

 魔法陣が展開され、雷撃が放たれる。


 雷撃は正面から登る夜狼たちを貫き、炭化させながら塔から落とす。

 そしてイグナーツの的確な指示により、辛うじてだが持ち堪えることに成功。


 魔物の勢いが一旦収まると、(イグナーツ)は勝手に持ち場を離れたユリウスに詰め寄り、胸倉を掴んで怒りながら責任を問うた。


「ユリウス! なぜ持ち場を離れた! お前のせいで防御の陣が崩れかけたんだぞ!」


 イグナーツの声は怒りに満ちており、切れ長の黒目がちな瞳が怒りに燃える。


「うるせぇ! 俺は悪くない! 俺は……俺は魔物を殺したかっただけだ……!」


 胸倉を掴まれて怒られると、すぐさまユリウスは激昂し身勝手な反論を繰り出した。

 その声は怒気に満ちており、銀灰色の髪が乱れ、伏せがちな蒼灰色の瞳が怒りに燃える。


「お前のせいで皆が危険に晒された……! お前は何を考えている……!」


 イグナーツが叫んだ。けれど彼とユリウスが口論している間も、他の仲間たちは魔物を確実に撃退していく。エリザベートは聖銀の槍を振るい、夜狼を貫く。白金の髪が揺れ、蒼い瞳が真剣に光る。


「そもそも、ガロットが魔物なんかに噛まれて変異しなければ誰も死ぬことは無かった……! こんなことにもなっちゃいない……!」


 激昂状態のユリウスは叫び、それは塔全体に響き渡った。

 銀灰色の髪が乱れ、伏せがちな蒼灰色の瞳が怒りに燃える。


「ガロットは仲間を助けるために戦った……! お前にその覚悟があるのか……!」


 彼の叫びを聞くと、イグナーツは反論を繰り出した。


「覚悟……? 俺に覚悟なんてない! 俺はただ生きたいだけだ!」


 ユリウスが叫んだ。イグナーツと彼は取っ組み合いながら、さらに過激な言い合いの嵐へと発展してゆく。イグナーツがユリウスの胸倉を掴み、ユリウスがイグナーツの腕を掴む。

 二人は互いに睨み合い、怒りを爆発させる。


「お前は狩人だろ……! 仲間を信じろ……!」


 イグナーツが叫んだ。


「仲間……? 仲間なんてもういない! ガロットもセシリアも死んだ! 次は誰だ! 次は俺か……!」


 金切り声を出しながらユリウスが叫ぶ。そんな状態でも、他の仲間たちは魔物を迎撃し続けた。

 銃声が連続して響き、魔法が派手に飛び交う。夜狼たちは次々と倒れ、塔から落ちていく。

 ――気がつけば、何時の間にか朝を迎えていた。


 周囲の空気感が最悪な状態のまま、その身に朝日を浴びるイグナーツ。

 彼とユリウスの言い争いは自然と終わりを迎えた。


 他の仲間たちは我関与せずという感じで無視を決め込み、淡々と最上階から降りて塔の中へと戻る。

 全員が無言のまま階段を降りるが、その顔には疲労の色しか窺えず、瞳は虚ろで濁りにまみれていた。


 イグナーツも塔の中に戻ると、食事も摂らずに無言のまま仮眠を取る。

 そして午前九時頃、イグナーツが起床を果たして周囲を見渡すと、他の仲間たちは食事をしていたり、武具の手入れをしていたが、ユリウスの姿は何処にもなかった。


「ユリウスは……どこだ……?」


 周囲を見渡しながら静かに彼が呟く。イグナーツは仲間の事が気になると、塔の中を見て回り探した。

 一階、二階、三階、四階……どこにも彼の姿はない。

 最上階へと上がると、ユリウスは石の手すりの上に立っていた。


 彼は今にも飛び降り自殺をしそうな雰囲気を醸し出している。

 銀灰色の髪が風に揺れ、伏せがちな蒼灰色の瞳が虚ろに澱む。

 黒を基調としたロングジャケットが風に揺れる。

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