2話 夜狼王《ナイトウルフ・ロード》
「俺は無駄を省いてるだけだ。お前みたいに遊んでるわけじゃない」
冷たくヴェルナーが返した。
「おいおい、遊んでるわけじゃねぇよ。効率的に殺してるだけさ」
煙草をくわえたまま笑い、ガロットは再び鎖剣を振るう。
荷台の後方、カタリナ・ヴァルデンシュタインが魔術刻印杖を構えていた。
身長百五十八センチ、淡い薔薇金の髪を肩甲骨まで伸ばし、先端は自然な内巻き。
前髪はふんわり重めに揃え、頬の横には長めの後れ毛が二筋流れている。
大きなライラック色の瞳が無邪気に輝き、丸みを帯びた童顔気味のフェイスラインに、柔らかな微笑が浮かんでいた。
ミスリル糸と黒絹を組み合わせた膝丈の魔術装束を纏い、スカートはプリーツ状でふんわり広がり、豊満な胸が揺れるたび視線を惹きつける。
彼女は杖を振るい、氷結魔術を発動した。
「……ちょっと、凍っててね」
カタリナの声は柔らかいが、その魔術は容赦ない。
氷の槍が夜獣の群れを貫き、凍結させる。
獣たちが動きを止め、次々と倒れていく。
「カタリナ、魔力は温存しろ。まだ先は長い」
エリザベートが指示を出した。
「はぁい、了解です」
カタリナは微笑んだまま答えたが、その目は冷たく敵を見据えている。
荷台の中央、ユリウス・シュヴァルツが静かに、レイピアを構えていた。
身長百七十五センチ、銀灰色の髪を後頭部で軽くまとめたポニーテール。
前髪は右目を隠すほどに長く、片目だけを覗かせている。
白磁のような肌に整った中性的な顔立ち、伏せがちな蒼灰色の瞳が静かな吸引力を放つ。
黒を基調としたロングジャケットに銀糸の刺繍が施され、胸元には細い革紐の編み込みがある。
彼は無言のまま、迫る夜獣の急所を正確に突き刺していく。
一撃、また一撃。無駄のない動きで、獣たちを次々と仕留めていく。
「ユリウス、右側が手薄だ」
エリザベートが指示を出すと、ユリウスは無言で頷き、右側へと移動した。
荷台の端、リュネット・ノワールが双刀を構える。
身長百六十七センチ、漆黒に近い深藍色の髪を肩よりやや下まで伸ばしたストレート。
前髪は斜めに切り揃え、片目を隠すように流している。
細めの淡い銀青の瞳が冷たく光り、無表情の奥に燃える激情を秘めていた。
ダークグレーと漆黒の高機動戦闘衣を纏い、腿までのロングコート型の上衣は両脇が裂けており、背中と腰には双刀の鞘が固定されている。
彼女は無言のまま、迫る夜獣を斬り裂いていく。
霧刃が霊気を纏い、黒炎が爆熱を放つ。
獣たちが次々と倒れていく。
「……うるさい」
リュネットが小さく呟いた。
夜獣たちの咆哮が耳障りだったのだろう。
彼女は再び刃を振るい、獣の喉を切り裂いた。
荷台の最後尾、セシリア・フィオーレが、杖剣を構える。
身長百五十八センチ、淡いミルクティーブラウンのゆるふわウェーブが肩甲骨あたりまで伸び、無造作にまとめたツインお団子からふわりと毛先がほどけていた。
まんまるな目に、ほんのりピンクがかった頬。
タレ目気味の金色の瞳がいつもゆったりとした光を湛え、口元には柔らかな微笑が絶えない。
生成色のロングコートワンピースを纏い、胸元と裾には淡い藤色の刺繍があしらわれている。
豊満な胸が揺れるたび、視線を惹きつけた。
彼女は杖剣を振るい、回復魔法と攻撃魔法を交互に発動する。
「みんな、怪我してない? もし痛いところがあったら言ってねぇ」
セシリアの声は優しく柔らかいが、その手は迷いなく敵を貫いていた。
「セシリア、後で頼む! 今は攻撃に集中しろ!」
イグナーツが叫んだ。
「はぁい、わかりましたぁ」
セシリアは微笑んだまま、杖剣の先端から刃を展開し、迫る夜獣を斬り裂く。
馬車は激しく揺れ、車輪が軋む音が絶え間なく響く。
四頭の馬は必死に駆け、泡を吹きながらも速度を落とさない。
だが、夜獣たちの追撃もまた、止まらなかった。
「クソ……まだ追ってくるのかよ!」
ルーカスが苛立ちを露わにした。
「当然だ。奴らは血肉に飢えている。諦めるわけがない」
冷静にガロットが答えた。
「ガロット、お前は冷静すぎるんだよ」
「冷静じゃなきゃ死ぬだろうが」
二人のやり取りを聞きながら、イグナーツは前方を睨む。
視界の先に、僅かに地形が開けた場所が見える。
あそこを抜ければ、渓谷だ。
「全員、掴まれ! これから急カーブだ!」
イグナーツが叫んだ瞬間、馬車が激しく右に傾く。
荷台の全員が体勢を崩し、必死に手すりに掴まる。
ヴィオラの鞭が宙を舞い、カタリナの杖が揺れた。
リュネットの双刀が鞘に収まり、セシリアの杖剣が地面を突く。
「ちょ、ちょっと! もうちょっと優しく曲がってよ!」
カタリナが叫んだが、イグナーツは無視して手綱を引いた。
馬車が再び直進し、速度を上げる。
後方から、夜獣たちの咆哮が響く。
まだ追ってくる。まだ、諦めない。
「くそ……しつこい……!」
イグナーツは歯を食いしばり、手綱を強く握った。
左手の数珠が揺れ、死んだ隊員たちの名が脳裏をよぎる。
(――ここで死ぬわけにはいかない。まだ、やるべきことがある)
彼の瞳が鋭く光り、獣の血が体内で滾る。
だが、まだ使うわけにはいかない。
まだ、その時ではない。
「全員、耐えろ! あと少しだ!」
イグナーツの声が、闇夜に響く。
そして馬車が前方の開けた場所へと突入した瞬間、車輪が泥濘にはまった。
鉄製の車輪が深く沈み込み、四頭の馬が悲鳴を上げる。
速度が急激に落ち、馬車全体が激しく揺れた。
荷台の全員が体勢を崩し、手すりに必死に掴まる。
「クソ……泥か!」
イグナーツが舌打ちした。
手綱を強く引き、馬に鞭を入れる。
だが、泥濘は深く、車輪は容易に抜け出せない。
馬たちは必死に脚を動かすが、泥が足を取り、前進は遅々として進まない。
その瞬間、後方から何かが飛来した。
緑色に発光する液体――腐食液である。
それは弧を描き、馬車の後輪に着弾した。
鉄板が激しく音を立て、煙が上がる。
腐食液は鉄を溶かし、車輪の表面を焼いていく。
金属が溶ける臭いが鼻を突く。
「腐食液だと!?」
驚愕の声をエリザベートが上げた。彼女の蒼い瞳が鋭く後方を睨む。
白金の髪が風に煽られ、深紅のロングコートの裾が激しく揺れる。
豊かな胸が呼吸と共に上下し、コルセット型の革鎧が食い込む。
「まずい……あれは……」
ガロットが呟いた。
金茶色の瞳が細められ、傷だらけの頬に薄い笑みが浮かぶ。
だが、その笑みには警戒の色が滲んでいた。
彼は深墨色のロングコートの裾を翻し、黒蛇の鎖剣を構え直す。
夜獣の群れの中に、一際大きな影が見えた。
身の丈三メートルはあろうかという巨体。
二足歩行型の狼だが、その体躯は他の夜狼とは明らかに異なる。
全身を覆う黒灰色の体毛は逆立ち、赤く爛れた瞳が知性の光を宿していた。
両腕の鉤爪は刃のように研ぎ澄まされ、口からは緑色の腐食液が滴り落ちている。
額には角のような突起が生え、背中には棘が並ぶ。
指揮官種――|である。
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