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「違うの、あれは祝福なんかじゃない! 私を狙っている化け物なの!」
私が狂乱して叫ぶと、周囲の視線が一斉に私へ注がれた。だがそこにあるのは同情ではなく、冷ややかな困惑と、軽蔑だった。
「ドミティラ、なんて罰当たりなことを言うんだ」「聖なる光を化け物だなんて……頭がおかしくなったのか」「せっかくの恵みの日に、不吉な娘だ」
口々に囁かれる非難の言葉。プロクラまでもが、困惑と失望の混じった顔で私から一歩引いた。
「ドミティラ……あなた、本当にどうしてしまったの? そんな恐ろしい顔をして……」
誰も信じてくれない。
この街の誰も、私の恐怖を理解してはくれない。私が助けを求めれば求めるほど、私は「狂った可哀想な娘」として孤立していくのだ。彼という存在が持つ絶対的な善性という仮面の前では、私の悲鳴など、狂人の戯言に過ぎなかった。
◈
それからの毎日は、緩やかな拷問だった。
工房へ行けば、棚の隙間や天井の梁の上に、あの黄色い翼が折りたたまれているのが見えた。老店主のセルウィウスが「ドミティラ、最近手元が狂っているぞ。しっかりしなさい」と私を叱責している間も、天使はセルウィウスの真後ろに立ち、その完璧な顔で私を慈しみ深く見つめていた。私が怯えて製本刀を落とすと、天使は滑らかに手を伸ばし、それを拾い上げて私に差し出す。
『危ないですよ、ドミティラ。怪我でもしたらどうするのですか』
頭の中に直接響くその声に、私は悲鳴を上げて逃げ出した。工房を飛び出し、裏路地を駆け抜け、街の外へと続く森へと向かった。
だが、どれほど走っても、どれほど深い木々の影に隠れても、無駄だった。
大樹のうろに身を潜め、膝を折って息を殺していると、頭上からハラハラと黄色い羽根が落ちてくる。見上げれば、枝の上に彼が腰かけているのだ。
『どこへ隠れても無駄です。私の愛は、世界中のどんな闇よりも深く、どんな距離よりも疾い。君がどこにいても、私にはその心音の高鳴りが聞こえるのですから』
私は泣きながら泥を投げつけた。彼の白い衣に汚れた泥がこびりつく。だが彼は、眉一つ動かさず、泥のついた衣を魔法のように一瞬で浄化させると、静かに地上へ降り立った。
『悲しいことです。君はまだ、私の真意を理解していない。外の世界はあまりに毒に満ちている。君の繊細な魂は、街の醜い欲望や、卑小な人間たちの悪意によって汚されかけているのです』
『誰も私を汚してなんていない! 私を痛めつけているのは、あなただけよ!』
『いいえ、違います』
彼は確信に満ちた声で即座に否定した。
『君は自分を傷つけるものを見分ける目を持たない。だからこそ、私が君の目となり、君の盾とならねばならないのです。愛する者を危険から遠ざけること……それ以上の『善』が、この世にあるでしょうか?』
狂っている。この男の論理は、完璧に常軌逸していて外側からの介入を許さない。自分が正義であり、神の意志であり、私の幸福を誰よりも願っているという前提が、金剛石のように硬く固まっているのだ。
その日から、彼の干渉は一層露骨なものとなっていった。
最初に奪われたのは、私の仕事だった。
ある朝、工房へ向かうと、扉に鍵がかかっていた。貼り紙がしてあり、そこにはセルウィウスの震える文字で「体調不良のため、当面の間工房を閉鎖する」と書かれていた。
驚いてセルウィウスの家を訪ねたが、彼は青ざめた顔でドアを数センチだけ開け、私を見ると怯えたように目を泳がせた。
「ドミティラ……すまないが、もう工房には来ないでくれ。お前と一緒にいると、なんだか恐ろしい気配がするんだ。夢の中に、大きな黄色い目が現れて……『彼女を解放せよ』と囁くんだよ……」
「セルウィウスさん! お願いです、私を見捨てないで!」
「帰ってくれ! 頼むから、私や家族を巻き込まないでおくれ!」
ドアは容赦なく閉ざされた。天使は直接人間を殺したりはしない。ただ、彼の放つ絶対的な圧迫感と、夢や無意識への侵食によって、私の周りの人間を恐怖させ、私から遠ざけていくのだ。
次に奪われたのは、友人だった。
プロクラの家を訪ねても、「会いたくない」と母親に追い返された。プロクラは最近、夜毎にうなされ、「黄色い光が私を焼き尽くす」と叫んでいるらしい。
こうして、私を取り巻く世界は、一つ、また一つと削ぎ落とされていった。
私が誰かと話そうとすれば、その相手は原因不明の偏頭痛や悪夢に苛まれ、私から逃げ出していく。私がどこかへ行こうとすれば、足元に不可解な風が吹き荒れ、行く手を阻まれる。
私は、街という広大な檻の中に閉じ込められた。そしてその檻の範囲は、日々、狭まっていた。
◈
そして、今。
私の自室。もはや外へ出ることも許されなくなった、このわずか十歩四方の空間。
彼が黄色い翼を羽ばたかせ、私の前に膝をつく。その顔が私に近づき、彼の冷たい吐息が私の首筋を撫でた。
「可哀想なドミティラ。街の者たちは、皆君を見捨ててしまったようですね」
「……誰のせいだと思っているの」
掠れた声で呟くと、彼は悲しそうに目を細め、私の髪を慈しむように撫でた。
「彼らが愚かだからです。君の価値を理解せず、わずかな神性の兆しに怯えて逃げ出した。ですが、絶望することはありませんよ。私だけは、絶対に君を棄てない。世界中のすべてが君の敵になろうとも、私は君の味方であり続けます」
「お願いだから……消えて……私を一人にして……」
「それはできません」
天使の指先が、私の喉元へと滑り落ちる。締め上げるわけではない。ただ、いつでも私の命を摘み取れるかのように、優しく、繊細に脈拍を確かめているのだ。
「外の世界は危険すぎます。人間どもは醜く、不潔で、君を傷つける。……ああ、そうだ。良いことを思いつきました」
彼は完璧な微笑みを浮かべた。その笑顔は、私にとってどんな悪魔の容貌よりも恐ろしかった。
「この部屋も、少し広すぎますね。窓から差し込む風には、街の塵や他人の吐息が混ざっている。君の純潔な魂を保つためには、もっと安全で、私だけの光が届く場所へ移らなければなりません」
「何……を言っているの……?」
「大丈夫です、何も恐れることはありません」
彼が両腕を広げると、二つの黄色い翼が爆発的な光を放った。視界が眩まされ、全身の皮膚が灼熱と極寒に同時に苛まれるような錯覚に襲われる。部屋の壁が、家具が、床が、光の渦の中に溶けていくようだった。
「どこへも行かせません。誰にも見せません。君の呼吸も、君の涙も、君の絶望すらも……すべて私が大切に保管してあげます。それが、私から君への最高の愛なのですから」
耳元で囁かれる言葉は、もはや聖歌ではなく、正気を削り取る呪文だった。
翼が私を完全に包み込む。視界から、大好きなアレリアの街並みも、木々の緑も、群青色の空も、すべてが消え去った。残されたのは、世界を埋め尽くす不快な黄色と、逃れられない天使の体温だけ。
私は悲鳴を上げようとした。しかし、喉から出たのは言葉にならない掠れた吐息だけだった。
自由の死の音が、羽音に混ざって夜の底で静かに響いていた。
私の長い、長い地獄の一幕が、こうして幕を開けたのだ。




