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第7話 蹂躙

 首都の目抜き通りは、異様な熱気と、それとは裏腹の冷たい殺気に包まれていた。


 道を行き交う住民たちは足を止め、沿道に集まり中心部を凝視している。


 その中心にいるのは、抜剣し殺意を剥き出しにした百人の重装騎士団。


 そして、彼らに完全に包囲された、たった二人の幼い少女たちだった。


 誰もがその光景に目を疑い、腹の底から湧き上がる憤りを感じていた。しかし、誰もが止める勇気を持つ事ができないでいた。


 煌びやかな鎧を纏い、国の盾となるべき騎士たちが、あろうことか八歳の子供に武器を向け、『殺人未遂』などという筋の通らぬ言論で力ずくの連行を試みている。


 騎士団の横暴は、先ほどまでのエリスたちの堂々たる振る舞いによって、既に衆目に晒されていた。

 

「あんな小さな子たちに、なんてことを……」


「共和国の面汚しめ! 恥を知れ!」

 

 住民たちの目に宿るのは、少女たちへの同情と、国家の守護者に対する激しい侮蔑。


 しかし、そんな周囲の心配をよそに、エリスは静かに、けれど決定的な合図を口にした。


「お掃除、始めましょうか」


──フッ。


 次の瞬間、観衆の視界から二人の姿がかき消えた。


 それは単なる移動ではない。空間を飛び越えたかのような神速の歩法「瞬歩」。


 アレクレス団長が、自身の目の前にエリスの黄金の瞳を認めたときには、既にすべてが終わっていた。


「まずは、貴方からよ」


 鈴を転がすような、あまりに場違いで愛らしい声。


 直後、都心の空気を震わせるほどの轟音が爆発した。


──ドゥォオオンン!


 エリスの小さな足が、団長の厚い胸甲を真っ向から蹴り上げる。鋼鉄の鎧が紙細工のようにひしゃげ、火花が散った。


「なっ……!?」


 アレクレスは叫ぶ間もなかった。


 百キロを優に超える巨躯が、まるで羽毛のように天高く蹴り上げられる。


 エリスは重力を無視したような跳躍でそのさらに上を取り、無防備な顎へ膝蹴りを叩き込み、最後は螺旋を描くような回し蹴りで、彼を後方の部下たちがいる中心へと叩き落とした。


──ドゥォォォン!!


 団長という『巨大な石弾』を撃ち込まれたかのように、密集していた騎士たちがドミノ倒しに崩れ落ち、陣形は無残に瓦解した。


「だ、団長が一瞬で!? この化け物め、おのれぇ!」


 一方、ジュリアスもまた、その可憐な容姿からは想像もつかない蹂躙劇を開始していた。


「逃がしませんわよ? 私たちの舞には、お客様が必要ですもの」


 彼女が指先を踊らせると、騎士たちの足元から不自然に伸びた不可視の鎖が、蛇のように馬の脚を絡め取った。


 パニックになる馬たちを優しく宥めるように魔力で鎮めつつ、背上の騎士たちだけを、ゴミを掃くような軽やかな回し蹴りで次々と宙へ放り出していく。


 我に返った騎士たちが、怒号と共に剣を振り下ろす。


 だが、エリスはそれらを舞踏のステップのように、わずか数ミリの差で躱し続けた。


「三方向から? 定石通りですけれど、遅すぎますわ」


 振り下ろされた三振りの剣。


 エリスはスカートの裾を翻し、コマのように回転。その勢いのまま、騎士たちの手首を正確に蹴り上げた。


「「ぎゃあああ!」」


 あらぬ方向に曲がった腕から、騎士の誇りであるはずの長剣がこぼれ落ちる。


 エリスはそれを空中で鮮やかにキャッチすると、着地と同時に満面の笑みでウインクを決め、住民たちへ向かって剣を掲げた。


「キャーッ! 素敵なお嬢様!」

「まるで戦乙女の降臨だ!」


 悲鳴は歓声へと変わり、都心はさながら大劇場の様相を呈し始めた。


 エリスとジュリアスは、背中合わせに立ち、互いの背に温もりを感じ、存在を確かめ合うように、目を合わせ『ニコリ』と微笑み合った。


 その一糸乱れぬ旋律を奏でる二人は、神が書いた譜面を、肉体でなぞっているかのように神秘的で、人知を超えた、完璧な合奏アンサンブルだった。


 それは戦いというより、神に捧げる奉納舞に近い。


 二人は奪った剣を手に、華麗な二刀流から二闘流へと移行した。

 そこからは、まさに『魅せる』蹂躙だった。


 エリスが鋭い一閃で甲冑の隙間を突き、騎士を無力化すれば、ジュリアスが不可視の魔力糸で踊るように彼らを絡め取り、陣形を崩していく。緩急自在な瞬歩の連撃。峰打ちによる衝撃波。


 宙を舞う騎士たちが、さながら風に散る木の葉や、糸の切れた操り人形のように重力に従い、次々と積み重なっていく。


 住民たちは、あまりの光景に目を白黒させ、手に汗を握りしめて釘付けになっていた。


 八歳の少女が、国の精鋭であるはずの騎士団を、笑顔でおもちゃのように扱っている。


 その姿には、恐怖を通り越した圧倒的な『美』があった。


 物語の中の勇者や聖女が、今まさに目の前で伝説を刻んでいる──そんな憧憬の念が、その場を支配していく。


「あら、ジュリアス。それで、この序幕シーンは終わりよ」


「ふふ、お姉様。脇役には退場していただきましょうかしら」


 最後に残された騎士は、試験会場で母テティアを蔑んだもう一人の試験官だった。


 二人を恐怖と戦慄の眼差しで、震えながら構えた剣を、エリスが指先一つで弾き飛ばす。


 ジュリアスが放った魔力糸が、逃げ惑う騎士の足を掬い、彼は不格好に地面へとダイブした。


「無様を晒す貴方はあの時の試験官ね、お母様を侮辱した罪は万死に値するわ。やっておしまいなさい、ジュリアス」


「はい、お姉様!」


 直後、再び都心の空気を震わせるほどの轟音が爆発した。


──ドゥォオオンン!


 ジュリアスの小さな足が、騎士の厚い胸甲を真っ向から垂直に蹴り上げる。


 刹那、ジュリアスは地面を蹴り爆ぜる様に上空の騎士を追い越し、その身を翻し、空歩で空間を砕く勢いで蹴り、驚愕する騎士を『ニコリ』と微笑み、無慈悲にも蹴り落とした。


──ドゥォオオンン!


 鋼鉄の鎧が紙細工のようにひしゃげ、火花が散った。白目を向いたまま地面に吸い込まれていった。


──ズドゥォオオオオンン!!


 石畳が衝撃で砕け散り、そこには虫の息の騎士が沈んでいた。


 優雅にスカートを抑え着地するジュリアスにエリスはまるで『百点満点よ』言わんばかりに満面の笑みで応えた。


 二人は再び、呼吸一つ乱さず並び立った。


「ふぅ……。「成敗!!」」


 二人が腰に手を当て、胸を張ってポーズを決めると、首都はかつてないほどの拍手喝采と賛辞に包まれた。地響きのような歓声が建物を震わせる。


 エリスは最高にスッキリした笑顔で、カレンが構える画像魔道具に向かってダブルピースを決め、ジュリアスは女優のような優雅な仕草でファンコールに応え、手を振る。


「お姉様、とっても素敵でしたわ!」


「ありがとう。ジュリアスも素敵でしたわよ。さあ、最後に一仕事。第一幕の開幕よ」


 その言葉に応じるかのように、王城の方角から重厚な蹄の音が響いてきた。


 現れたのは、先ほどの第二騎士団とは一線を画す、黒鉄の甲冑を纏った『本物』の重装騎兵たち。


 一糸乱れぬ動きで停止した彼らの前で、エリスはピースサインを解き、黄金の瞳を冷徹に輝かせた。


 部隊の列が割れ、一人の男が馬を進める。彼は惨状を見渡し、猜疑心と畏怖が混ざり合った目で二人を見据えた。


「お前たちが、サリウス伯爵家の双子か……」


──ブワッ!!


 二人は返答の代わりに、抑えていた覇気を一気に解放した。


 空気が密度を増し、地面が微かに震える。

 観客となった住民たちは新たな展開に息を呑み、登場した騎士たちは戦慄する。


 正規の歴史の脚本は既に書き換えられた。


 新たな、ミレニアム共和国の歴史を塗り替える「第一幕」、ここに堂々の開幕である。

 エリスよ!いよいよ第1幕が開幕しようとしています!ここからは、怒涛の戦記ものになって行きますわ!

 もう暫くは、第1幕が続きますので、終幕まで、楽しんでくれたら嬉しいわ(*^^*)/

 いつも応援してくれる方達ありがとね!凄く心ポカポカで私達も生き生き頑張れるわ!

 応援もまってるわ!

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