第3話 第1次試験
前日の夜、首都の宿『緑の森亭』。
エリスとジュリアスは、挨拶(という名の恫喝)に来たモビット伯爵を、その圧倒的な威圧感と「暗躍」への指摘で、這うようにして追い返し、予定調和的に駒を確保した。
「……さて、ジュリアス明日からは、女神の台本が華麗に幕を上げるわ。全てが終わった時には皆、ただの道化よ。ふふっ」
「ええ、お姉様。楽しみにしておりますわ」
二人の不敵な微笑みが、首都の夜に溶けていった――。
──翌朝。
エリスは眠い目を擦りながらベッドから起き出した。隣では、既に身支度を整えたジュリアスが、窓から差し込む朝日を浴びて神々しく立っている。
「お姉様、おはようございます。新しい一日の第一歩を踏み出す朝ですわ」
「……ジュリアス、おはよう。あなたは相変わらず朝から元気ね……」
二人の様子を見ていたカレンとクロエが、和やかに声を掛けた。
「「おはようございます。エリスお嬢様、ジュリアスお嬢様。よくお休みになれたようで。朝食の準備ができておりますよ」」
カレンがお湯の入った桶を準備し、二人は顔を洗う。エリスの腰まである髪にはバラのコサージュが付いたバレッタを、ジュリアスにも色違いの髪飾りを。お揃いの橙のリボンを背中と腰に結び、準備は万端だ。
食卓でパンとスープ、デザートを優雅に食した後、二人は出発まで読書をして時間を潰した。
ベニアが馬車の準備を知らせに来ると、彼女たちは静かに立ち上がる。
御者が扉を開け「お嬢様方、おはようございます」と挨拶すると、エリスは微笑み、ジュリアスも「ええ、おはよう。ゆっくり休めたかしら?」と気遣いを見せる。
サリウス伯爵家の紋章が入った馬車は、人がごった返す首都の街路を、静かに、しかし威風堂々と進み始めた。
本来なら12歳からの入学義務。だが、二人はあえて8歳での「飛び入り入学」を選んだのは、女神の台本を演じきり、エリスが望む世界の未来を引き寄せるためだった。
「飛び級して最短で卒業するのは建前よ。学ぶことなんて、もう何もないのだから…そう、これが始まり、私達が描く未来の台本の序幕」
エリスの言葉に、ジュリアスは深く頷く。
学術院の馬車止めに着き、カレンたちの見送りを受けて受付へ向かう。
カレンとクロエは互いに頷き合い、水晶を取り出し、溶ける様にその場でかき消えた…
重厚な白壁と八角形の柱が並ぶ歴史ある回廊。周囲の受験生は12歳を越えた年上ばかりだ。
「おい、あんな子供が……」
「あれが、神童と名高い、サリウス伯爵家の双子か。」
訝しげな視線や憧憬を感じつつ、エリスは無表情で切り捨て、ジュリアスは余裕の笑みで受け流す。
試験会場の扉が開かれ、紺に赤のラインが入ったローブを纏う7人の試験官が現れた。
会場に緊張が走る中、筆記試験の開始合図が鳴り響く。
エリスとジュリアスは、同時に試験用紙をひっくり返した。
(……ふん。基礎的な問題ばかり。算術も経済学も、私たちが5歳で通り過ぎた道だわ)
(お姉様、これは試験というより、ただの『書き取り』ですわね)
念話でそんな会話を交わしながら、筆記試験が始まった。
二人のペンは止まることなく紙の上を滑る。
周囲が難問に頭を抱え、静寂の中に苦悶の溜息が漏れる中、二人の席からだけは、サラサラと心地よいリズムの執筆音だけが響いていた。
試験時間の半分が経過した頃。
スッと、二人の小さな手が同時に上がった。
「「終了いたしましたわ」」
試験官たちが驚愕の表情で駆け寄る。
見直しまで完璧に終わらせた回答用紙を渡し、二人は優雅に席を立った。
「お姉様、次は実技試験ですわね」
「ええ。スカートでは少々動きにくいでしょう? 準備しておいた、馬上服に着替えましょうか」
廊下に出ると、二人は女子更衣室に向かい、事前に準備していた荷物を空間から取り出した。
可憐な少女から、舞台俳優の顔へ。
衣服を脱ぎ捨て、機能美を追求した黒と深紅の衣装に身を包んだ二人は、もはや愛らしい子供ではなく、戦場に立つ小妖精のような凛々しさを纏っていた。
二人が2次試験の会場である大講堂に足を踏み入れると、そこには異様な緊張感が漂っていた。
正面に受付があり、その奥には巨大な武舞台が三箇所。
それぞれの舞台には赤(炎)、青(水)、緑(樹)の旗が掲げられ、重厚な鎧を纏った試験官たちが、獲物を待つ獣のような鋭い視線を受験生に送っている。
「……あら、お姉様。見てくださいませ」
ジュリアスが、受付の奥に並ぶ武器保管箱を指して、クスクスと喉を鳴らした。
「ずいぶんと『年季の入った』おもちゃが並んでいますわね。それも、わざとらしく」
エリスは無言で頷き、まずは受付へと向かった。
「サリウス伯爵家、エリスディーテ」
「妹のジュリアスですわ」
受付の女性に受験票を差し出す。女性は驚愕したように二人の顔と受験票を二度見したが、エリスの冷ややかな視線に射抜かれ、慌てて受付印を押した。
「……あ、あちらの武器保管箱から、各自に合った装備を選んでください。準備ができたら、こちらで受験番号を記入した採点用紙を提出するように」
指示を受け、二人は並んで武器保管箱へ向かう。
そこには大剣、小剣、槍、戦斧、盾など、ありとあらゆる武器が雑然と詰め込まれていた。しかし、エリスがその一つを手に取った瞬間、彼女の「神眼」が隠された真実を暴き出す。
(……ええ、やっぱりね。ワザとだわ。これも試験のうち、というわけね)
エリスが手にした小剣の柄には、一見目立たないが、強い衝撃を受ければ確実に折れるような細かな亀裂が走っていた。
他の箱を覗けば、金具が腐食した槍や、重心が極端に偏ったメイスが「ハズレ」として意図的に混ぜられている。
「ジュリアス、どう思うかしら?」
「お姉様の思ってる通りですわ。……それも、かなり悪趣味な。未熟な子供がこれを選べば、舞台の上で武器が砕け、その時の判断が試されるのでしょうね。誤れば試験官に一方的に叩きのめされるか、無手での格闘を試験する……そんな筋書きが見えますわね」
ジュリアスもまた、透き通るような青い瞳を細め、神力を通して武器の「本質」を見抜いていた。
彼女は優雅な仕草で箱の中から、一切の曇りがない一振りの細剣と、小柄な彼女の体格に完璧に適合した円盾を選び出す。
一方のエリスは、慎重に重心を見極めながら、二本の武器を選んだ。
左手に、刃引きされてはいるが、丁寧に打ち込まれた業物の小剣。右手に、しなやかな強度を誇る短槍。
「二刀流……いえ、短槍と剣の併用ですのね。お姉様らしいわ」
「ええ、これが一番効率的よ」
二人が選んだ武器を携えて受付に戻ると、先ほどの女性が目を見開いた。
「……武器の提出を。確認します」
エリスとジュリアスが武器を差し出すと、控えていた鑑定役の魔導師が、顔色を変えて震え声で呟いた。
「……そんなバカな。数百ある武器の中から、一点の曇りもない最高級の個体だけを、迷いなく……? 偶然か……?」
「いいえ、必然ですわ」
エリスが氷のような微笑を浮かべて言い放つ。
「私たちは、壊れ物には興味がありませんの。……さあ、採点用紙ですわ。早く呼んでくださるかしら? 退屈で欠伸が出てしまいそうだわ」
二人は受験番号を記入した採点用紙を提出し、控え席へと移動した。
いよいよ、このミレニアム共和国を揺るがす舞台でもある2次試験の幕が上がる――。
いつも読んでくれてありがとう。
今日のテストは楽勝でしたわ。えっ!カンニングしてたって!?私もジュリアスもしてないわよ!世界の記憶で見てたって!見てないわよ!?テスト中の念話も怪しいって!気がつかなかったわ。
もう、済んだことだわ。忘れてね?
これから、いつも通りだけど、ストーリーが加速していくわ。楽しみにしていてね。
これから、バトルシーンが増えて来るわ。
私的には、温かいストーリーの方が好きよ。未来の為に戦うわ。
いつも、応援してくれてありがとうね♡
応援してくれるあなたのために頑張るわ!




