第1話 学術院への入学
ジュリアスが家族に加わってから5年が経ち、エリスとジュリアスは8歳となった。
3歳の時のやらかしから始まった再教育と厳しい躾(エリス限定)に続き、5歳から始めた二人の淑女教育。
その甲斐あって、二人は言葉遣いや仕草までも、すっかり令嬢らしく振舞えるようになっていた。特にエリスは考えなしの奔放さは鳴りを潜めた。
エリスは「世界の記憶」があるため、大抵のことは苦もなくマスターした。領民や親類からは「サリウスの神童」と持て囃されている。
一方のジュリアスも、家族と同等まで神力が回復していた。エリスの指導のもと世界の記憶へアクセスできるようになり、彼女もまた神童として名を馳せていた。
二人は家族や使用人たちから愛され、一部の領民達からは密かな信仰の対象として崇められ、幸せな日々を過ごしていた。その関係も、今では良好な姉妹そのものである。
「お姉様、お手紙が沢山届いておりますわよ」
「……いらないわ」
「またお母様に叱られますわよ?」
「…………やっぱり、この国、滅ぼそうかしら」
三歳の時のやらかしは、各国の上層部の記憶の改竄が思った以上に功を奏し、特定の国が騒がなかった事と、サリウス領の猛烈な信者以外は下火になり、天災と神隠しで上手く誤魔化せていた。それとは別に神童の噂は国中に広まっていた。
お茶会の誘いや釣書(縁談)がひっきりなしに届くが、エリスは夜会も舞踏会も徹底して拒否し続けてきた。
しかし、招かざる客が頻繁にサリウス領へ突撃し、要らぬ策謀を携えてやって来るため、腐った貴族に辟易し、エリスの逆鱗に触れていた。
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「お姉様! ミモラお祖母様から聞いたのですが、あと4年したら学術院か魔術院に通わないといけないようですわよ!」
「……行かないわ」
「またお母様に叱られますわよ」
「…………やっぱり滅ぼそうかしら」
この世界の貴族の義務として、12歳から18歳まで全寮制の「院」に通うことが定められていた。
不老の存在として、いずれ家族や使徒と共にこの世界からフェードアウトするつもりのエリスにとって、そんな縛りは苦痛でしかなかった。
「エリス! いい加減にしなさい!」
ついに母親の雷が落ちた……。
「いつかは神聖界に住むとしても、当分は人間として生きていくの! 地上世界のルールを守りなさい!」
「……行きたくないわ」
「お姉様、諦めたら? 意外と楽しいかもよ?」
「…………やっぱり滅ぼそうかしら」
しかし、逃げ道はなかった。この国だけでなく、隣国などでも同様の義務があり、病気や怪我で寝たきりでない限り免除はされない。
学術院には、領政科や騎士科、淑女科など、貴族が社会で生きていくためのあらゆる学科が揃っている。魔術院もまた、宮廷魔術師や研究者を目指す者には必須の場所だった。
「お姉様! 私は楽しみですわ。お友達ができるかもしれませんし!」
「……学ぶことなんて何もないわ」
「またお母様に――」
「わかっているわよ。……だから、考えたわ。貴女の力も取り戻し、尚かつ、腐った貴族も淘汰し、本当に幸せになって欲しい私のかわいい写し身である愛し子達が安らかに暮らせる世界を創り出すわ…」
エリスは不敵に微笑んだ。院の6年間で学ぶ教養など、すでに3年前に終わらせている。無駄を省き愛する家族と神らしく生きるために……。
(そうだわ!少々早いですが計画を早めましょう──ジュリアスが言ってた学術院を舞台の開幕場所にして……序幕のストーリーは……そうね…『飛び入り入学』をして、飛び級試験で最短卒業を目指す幼き姉妹をヒロイン役にして台本の序幕にしましょう!選ぶのは……そう『領政科』ね!)
「お姉様…また、悪い顔をしてますわよ」
「失礼ね…ちょっと、楽しいこと考えただけでしょ」
これまで出会った「人間」たちのレベルの低さと出会った残酷さに辟易していたのだ。
それから、エリスは自室に籠もり延々と台本を書き続けた。
「お姉様、何を書いているの?」
エリスは、ほくそ笑みながら、ひたすらペンを高速で走らせていた。
「ウフフ、舞台の台本よ」
「お姉様は舞台監督でもするの?」
「そうよ、貴女も一緒にね」
「???」
エリスは内心でほくそ笑むのだった。全ては女神の手の上で…
「お姉様、本当に飛び入り入学するの!? お母様も驚いていたわよ!」
「台本通りの結末を狙うタイミングは今しかないわ。この次は四年後まで、運命の歯車は廻って来ないわ。それで、貴女はどうするの?」
「お姉様と一緒がいいから、私も受験するわ! ……でも、タイミングって?」
「これよ(思念送信中)……。ふふふっ、台本通りならこれで私の掌の上よ…ふふっ」
「……この台本は、お母様たちは知ってるの?」
「おばあちゃまとお母様には伝えてあるわ。四年後じゃなくて、台本でそれを早めるだけだわ。さぁ、待っていなさい。わたくしが何もかも滅ぼしてあげるわ!!うふふふ…」
「お姉様、思考が邪神寄りになってますわよ」
「仕方ないわ、腐りきった貴族が多過ぎるもの。元々貴女の権能が私に加わってしまったのだから、諦めなさい」
「腐りきった貴族は同意ですけど、物騒な権能ですわね!」
「ジュリアスには言われたくないわ」
「………ひど…」
「台本を早めるため、メイル叔父様に手紙を出しておいてもらったから、ソロソロ到着しそうだから、おばあちゃまと、お母様を連れて、マリオお爺様の所へ出掛けて来るわ。貴女も来る?」
「いいえ、お稽古があるから、待ってるわ。行ってらっしゃい!お姉様」
──4ヶ月後。
「エリス、ジュリアス。受験票は持ちましたか? 筆記具は?着替えは?」
「「はい、お母様。忘れ物はございませんわ」」
家令のミツルギと侍女長のシルビアにエスコートされ、二人は馬車に乗り込んだ。
専属侍女のカレンとクロエも同乗する。
「ジュリアス、首都は初めてよね?」
「ええ! とても楽しみですわ!」
「私も赤子の時以来だから、景色を見るのは初めてだわ。楽しみね」
見送りに立つミモラやテティアに手を振り、念話で挨拶を済ませる。馬車は颯爽とサリウス伯爵領を後にした。
「お姉様、この世界に来て本当に良かったわ。こうして一緒にいられるのが一番楽しいわ♪」
「私もよ。今は家族が多くて幸せだわ」
旅の道中、侍女二人も加わって会話に花が咲く。元魔獣であり、今は神獣へと至ったクロエも、仕えられる幸せを噛み締めていた。
3日間の旅を経て、馬車はミレニアム共和国の首都へと到着した。
領都とは桁違いの規模。高い建物が並び、石畳の道は馬車道と歩道に整然と分かれている。4人は興味深そうに窓の外を眺めた。
予約していた宿『緑の森亭』に到着すると、そこは魔花の鉢植えが並ぶ落ち着いた空間だった。カウンターには、可愛らしい宿やの娘が座っている。
「いらっしゃいませ! 私は宿屋の看板娘のベニヤです。予約のサリウス伯爵家のお嬢様方ですね。お手続きをお願いします!」
手続きをカレンに任せ、エリスとジュリアスは優雅にロビーの植物を眺める。
家族が笑い合う未来に想いを馳せた…女神の台本の幕が降ろされようとしている……
とうとう新章に入りましたわ。この喋り方だと私がエリスって分かるのかしら…。
まぁいいわ。三歳のリレトス聖教法国と天界のやらかしで、お母様に変なスイッチが入ってしまったのよ!
大変だったんだからね!?(遠い目)
でも、こうして私達の物語を読んでくれて本当にありがとう。
皆が楽しんで読んでもらえるように、私達も頑張るわね!
これからも、応援お願いね!




