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幕間 カレンの想い

 サリウス邸の窓から見える月は、あの日、燃える村で見上げた月と同じ色をしていた。


 カレンは、使い込まれた侍女のトレイを胸に抱き、静かに深呼吸をする。


 鏡に映る自分は、あの頃よりも少しだけ背が伸び、その瞳にはかつてなかった『意志』が宿っている。


(あの日……私は、確かに死んでいたはずでした)


 回想の扉が開く───


 視界を埋め尽くす赤い炎と、髪を振り乱して倒れた両親。歯尺の私兵たちが振るう剣の冷たさ。


 そして、連れて来られた屋敷での、体罰や拷問の絶望の淵で意識が遠のく中、彼女を救い上げたのは、圧倒的な『闇』を纏った小さな少女だった。


 目が覚めたとき、そこはテティア様の温かな腕の中だった。


 全身に負った深い傷と、それ以上に深い心の傷。カレンは食事も喉を通らず、ただ震えることしかできなかった。


 そんな彼女を、テティアと小さな少女は何も聞かずに抱きしめ、毎日毎日、優しく髪を梳いてくれた。


「カレン、貴女を見つけたのはね、私の娘のエリスなのよ」


 療養の日々の中で聞いたその名は、カレンにとって命の灯火となった。


 自分を見つけ出してくれて、身体の傷を全て癒やして救ったのは、小さな少女ではなく、家族を愛し、命を尊ぶ強き魂を持つ、私の英雄エリス様だったのだと。


「テティア様。私……エリス様のお側に行きたいです。私を助けてくれた、あの方の力になりたい」


 その日から、幼い少女の猛特訓が始まった。


 まだ傷の痛む体で、テティアから礼儀作法、掃除、洗濯、そして料理の基礎を学んだ。


 物覚えの早いカレンは、驚くべき速さでそれらを吸収していった。彼女を突き動かしていたのは、義務感ではない。


 亡き両親の背中に、自分を救ってくれた母娘の慈愛を重ねていたからだ。


「カレン! 今日のおやつはまだかのぉ! 妾、お腹が空いて倒れそうじゃ!」


「はいはい、エリス様。今、特製のパンケーキを焼いていますから、座ってお待ちくださいね」


 専属侍女として抜擢されてからは、嵐のような日々だった。


 我が儘で、奔放で、けれど誰よりも寂しがり屋な主。


 エリスに振り回される毎日は、カレンの心の傷を、笑いという薬で少しずつ癒していった。


 エリスと同い年のカレンにとって、彼女は主従を超えた『魂の友』になっていた。


 しかし、平和な日常に再び聖教会の影が落ちる。


 リレトス聖教法国による、無慈悲な領民大虐殺の計画。その目的が自分とエリス様の捕縛であると知ったとき、カレンは恐怖よりも先に、激しい怒りを覚えた。


 そして彼女は、真実を目にする。


 ミモラ様やテティア様から、真実を伝えられ、エリス様に本当のお姿を見せて頂く事となった。

 天を突くような強大な神気が渦巻き、自分と同じ黒髪をなびかせ、背には漆黒に輝く4枚の翼をはためかせ、紛れもない『女神』そのものだった。


(エリス様が……神様だったなんて……)


 衝撃に打ち震えるカレンに、静かに加護を与えて下さり、エリス様は私に語りかけてくれた。「今日から家族じゃ!」と。その言葉は、あの日失ったカレンの『居場所』を、永遠のものへと変えた。


「エリス様。私……いいえ、このカレン。一生、貴女の傍を離れません」


 その瞬間、カレンの体から清廉な水の輝きが溢れ出した。エリスの使徒としての覚醒。女神エリスより授かった『水神』の加護――。


 水は優しく、けれど時に岩をも穿つ強さを持つ。主を汚すすべてを洗い流し、その安らぎを守り抜く。それが、カレンが自分自身に立てた、鋼よりも硬い誓いだった。


「カレン? 何をボーッとしているのじゃ。お母様が焼いたクッキー、冷めてしまうぞ」


 背後から、エリスの声が聞こえた。振り返れば、口の周りにクッキーの粉をつけた『ちんちくりん』な女神が、不満げに頬を膨らませている。その後ろでは、テティアが困ったように、けれど幸せそうに微笑んでいた。


「ふふ、申し訳ありません。今、お茶を淹れますね。……ミカエルさんたち修行組の分も、多めに用意しましょうか」


 カレンは軽やかな足取りでキッチンへと向かう。


 今はまだ、お茶を淹れ、エリスの我儘をたしなめることしかできない幼い少女かもしれない。けれど、彼女の瞳の奥には、すべてを包み込み、悪しきを断つ『水神』の神威が静かに、確実に育っている。


(お父様、お母様。見ていてください。私はもう、震えるだけの子供ではありません。私の命を繋いでくれたこの家族を、私は……神となってでも守り抜きます)


 サリウス邸に、エリスの明るい笑い声と、テティアの穏やかな声が響く。


 カレンの淹れたお茶は、今日一番の温かさで、家族の心を繋いでいた。

いつも読んでくれてありがとうなのじゃ

結構、この章は作者のかきたかった内容らしくってのぅ。「争いは何も生まない」とか言っておったからのぉ。妾は、胸熱バトルを楽しみにしておったのに…

腹癒せにハゲる呪いを掛けておいたのじゃ!


さぁ、いようよ、次からは新章に突入だからのぉ〜妾はどうなっておるかのぉ〜

いつも応援してくれてありがとうなのじゃ♡

妾の励みになっておるのじゃ!

(*^^*)/

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