第15話 3人の少女
サリウス邸の庭に、柔らかな陽光が降り注いでいる。
そこには、三人の少女たちが身を寄せ合い、小さな花冠を作っている光景があった。
笑い声が風に乗り、見守るテティアの元へと届く。
それは、奇跡のような『日常』だった。
(ああ……こうして、笑い合える日が来るなんて)
木陰で編み物をしながら、テティアは目を細める。
彼女が『母なる世界の女神』から授かった『生命を誕生させる権能』。それは単に命を造る力ではなく、愛を形にする力だった。
かつて、権能に振り回され、アフロディーテを手に欠け、後悔に苛まれた、ジュリアスの魂を、自らの子として抱き上げ、この世界に呼び戻したあの日。
最初は、戸惑いしかなかった。
闇の女神として生まれ、孤独に生きてきたエリスにとって、突如現れた『妹』という存在は、どう接していいか分からない異分子だった。
エリスは遠巻きにジュリアスを眺め、ジュリアスはそんな姉の視線に、かつての過ちを思い出しては俯いていた。
しかし、運命の歯車はテティアの愛によって、ゆっくりと、けれど確実に温かな方向へと回り始める。
「エリスちゃん、ジュリアスちゃん。二人とも、クッキー焼いたから一緒に食べましょう?」
テティアの膝の上で、二人は初めて隣り合った。
エリスが不器用にクッキーをジュリアスの皿に分け与え、ジュリアスが涙を浮かべて「ありがとう、お姉様」と微笑んだその瞬間、二人の魂を縛っていた古い因縁は、音を立てて崩れ去ったのだ。
だが、物語は甘いだけでは終わらない。
エリスは自らの強大すぎる力を調整するため、一時的に神聖界へと引き籠もらねばならなくなった。
母テティアを心配しつつ旅立つエリスの背中を、ジュリアスはいつまでも、いつまでも、豆粒のようになるまで見送っていた。
姉のいないサリウス邸で、ジュリアスはテティアから、エリスのこれまでの苦労、孤独、そしてどれほど妹である自分を待ち望んでいたかを聞かされた。
「エリスちゃんはね、ずっと貴女を待っていたの。独りぼっちの神様ではなく、『家族』になりたかったのよ」
テティアの言葉に、ジュリアスの決意は固まった。
(お姉様に、もう二度と寂しい思いはさせない。私も、お姉様を支えられるくらいの力を取り戻さなきゃ!)
それからのジュリアスは、別人のようだった。小さな体で魔力と神力の練練に励み、かつての光の権能を、今度は『破壊』や『拒絶』ではなく『守護』や『愛』のために再構築していく。その隣には、いつもカレンがいた。
「ジュリアス様、無理は禁物ですよ。エリス様が戻られた時に、倒れていたら悲しまれます」
「大丈夫よ、カレン! 私、お姉様を驚かせたいの!」
そして、お弁当を持ってエリスの元に赴いたが、テティアのお弁当を食べるなり、エリスは力の調整が出来てしまった。そして、皆揃っての帰宅が叶った。
──サリウス邸
「改めて、ただいまなのじゃ! ジュリアス、カレン! 妾を忘れておらんだろうな!」
ジュリアスはエリスを全速力で抱きしめた。
「お姉様! お帰りなさいませ!」
「ぐふっ、……お、お主、少し力が強くなったのではないか?」
再会した姉妹の周りを、カレンが「お帰りなさい、エリス様」と優しく包み込む。
その日から、サリウス邸にはさらなる賑やかさが戻った。
テティアの後ろを、雛鳥のようにちょこちょことついて回るエリスとジュリアス。時にお菓子を奪い合い、時に一緒に昼寝をし、時にカレンを巻き込んで庭を駆け回る。
エリス(闇)、ジュリアス(光)、そしてカレン(水)。
本来ならば、世界を揺るがす強大な力を持つ二人の女神と未来の女神候補が、今はただの少女として、泥だらけになって笑い合っている。
「見るのじゃ、お母様! 妾とジュリアスとカレンで、こんなに大きな砂の城を作ったのじゃ!」
「あら、素晴らしいわ。でも、そんなに泥だらけだと、お風呂が大変ね」
テティアの笑い声が響く。
このアットホームで、あまりにも尊い幼児ライフ。
彼女たちがいつか成長し、三人の女神として肩を並べて空へ羽ばたくその時まで、この庭は世界で一番安全で、一番温かい聖域であり続けるだろう。
エリスの我儘も、ジュリアスのひたむきさも、カレンの献身も。
すべてを包み込むテティアの愛の庭で、新しい世界の歴史は、今日も一ページ、温かな色彩で書き加えられていくのだ。
読んでくれてありがとうなのじゃ!
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感謝なのじゃ!
(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐




