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第10話 事象改変

「母なる世界の女神」から直々に「二人をよろしく」と頼まれた――。


 その事実を聞かされたエリスとジュリアスの背筋に、かつてない戦慄が走った。創造神としてのプライドなど、テティアの微笑みの前では、冬の朝の霜よりも脆く消え去る。


(永遠に頭が上がらないのじゃ……)

(一生、逆らえないですぅ……)


 二人が同時に、叱られた子犬のように身を縮めた、その時。部屋の温度がスッと数度下がった。視線の先には、冷ややかな、それでいてどこか『拗ねた』ような瞳でテティアを見つめるメアリーの姿があった。


「テティア様……。お目覚め早々、あまりにもドラマチックな展開で、私の理解が追いつきませんわ。……ですが、独身のはずのテティア様に、突然二人目の娘……。これはいささか、社交界では『醜聞』になりかねませんわね?」


 メアリーは一歩、また一歩とテティアに詰め寄る。その瞳は暗く澱み、深淵を感じさせた。


「あ、あら、メ、メアリー……?そ、その、な、なんだか目が怖いわ……」


「フンッ!急に『生まれました』なんて言われて、はいそうですかと納得できるほど、私はお人好しではありません。……まるで、私が知らない間にどこかの誰かと浮気をされたような、そんな裏切られた気分ですわ!」


「そ、そんなことないわよ!う、浮気なんてしてないわ!今晩、キチンと()()()するからね!ねっ。エ、エリスちゃん、何とかして!」


「私には、浮気は許さないと言っておきながら……ブツブツ、ブツブツ……」


 テティアが必死の形相で長女に助けを求める。エリスはヤレヤレと首を振った。


「……仕方ないのぉ。メアリーの機嫌を損ねては、家庭円満に過ごすことができんからのぅ。お母様、ジュリアスを妾と共に生まれた『双子』だったことにすれば良いのじゃな?あの公爵の子供ということで良いのじゃな?」


「……え、ええ、お願い。メアリー、それで納得してくれる?」


「……。テティア様がそこまで仰るなら。今晩の()()()に期待しておきますわ。ポッ♡」


「「…………」」


 明らかに「寝かさない」という含みを持たせた態度に、テティアの額から大量の汗が流れる。


 エリスは聞かなかったことにし、ジュリアスは意味が分からず小首を傾げている。ミモラは「あらあら♪まあまあ♫」と言いながら両頬に手を当て、クネクネしている。


 誰も彼もが居たたまれない状態で、部屋がカオスに包まれた。


 エリスは小さくため息をつき、この空気を解消して二人を助けるため、その「神の右腕」を場の雰囲気お構いなしに、おもむろに天に掲げた。


「では、歴史の帳尻を合わせるとしようかのぅ。……『事象改変術式』――発動じゃ!」


「エ、エリスちゃん!な、何を!?」

「エリスお嬢様!?」


 刹那、部屋の景色が歪んだ。


 エリスの背後に、銀河を内包したような清廉で荘厳な『巨大な時計』が現れる。


 カチ、カチと刻まれる音は、心臓の鼓動と同期し、やがて逆回転を始めた――。


 ゴォォォォ……!という轟音と共に、部屋が『時間の牢獄』へと変貌する。


 窓の外の太陽が狂ったように西から東へ沈み、昇り、季節が巻き戻る。


 一同は、自分たちの存在が歴史の奔流に飲み込まれていく感覚に驚愕し、目を見開いた。


 時計の針は、エリスが生まれるその日、アフロディーテ(エリスの前身)が運命の出会いを果たす直前まで戻り、止まった。


 テティア一行は、あまりにも常軌を逸した出来事を前に思考を放棄した……。


「ここから、新しい事実を刻み込むのじゃ……!」


 エリスが指先で空中に術式陣を刻む。『一人』だった誕生の記録が、『二人』へと書き換えられていく。


 タイムパラドックスという世界の拒絶反応が起きるたび、エリスの絶大な神力がそれを力技でねじ伏せ、修復していく。


 やがて、時計の針が再び正規の方向へと爆走を始め、元の時間軸へと戻ってきた。


 テティア一行が正気を取り戻したとき、そこには以前と変わらない部屋があった。


 だが、メアリーの記憶にも、領主館の公文書にも、世界中の人々の認識にも、『テティアには双子の娘がいた』という事実がはがねのように刻まれていた。


「お母様、終わったのじゃ!これでジュリアスは正真正銘、妾の双子の妹じゃ!褒めるのじゃ!」


 かなりの神力を行使し、ドヤ顔で頭を突き出すエリス。テティアはその頭を優しく撫でた。


「あ、ありがとう、エリスちゃん……。でも、今の凄まじい術式、何にでも使えるの?」


「何でもは無理じゃ。今回は『実体ジュリアス』が既にここにあり、因果の糸が解けていたからできた特例じゃ。亡命の手続きから出産の届け出まで、世界の記憶ごと改竄したからの。これで文句はあるまい?」


「ええ、全く理解できなかったわ……。でも、これで、ジュリアスは双子の妹でいいのね?」


「お母様、それでいいのじゃ」


 さらりと言ってのける娘の神業に、眷属たちはもはや言葉も出ず、感嘆の涙を流すしかなかった。


 一仕事を終え、一同はお茶を飲みながらようやく一息ついていた。


 しかし、平和な時間は長くは続かない。エリスと、少し調子に乗ったジュリアスが、コッソリと耳打ちし合っていた。


「……のぉ、ジュリアス。お母様はああ見えて、キレると『母なる世界の女神様』ですらドン引きさせる般若になるのじゃ。今のうちに、お母様を怒らせないための『禁忌リスト』を共有しておいてやるのじゃ(ドヤ顔)」


「お姉様、本当ですか?さっきの微笑みを見てると信じられないですけど……。でも確かに、あの精神世界での『お説教』という名の鉄拳制裁は、地獄の業火より顔が熱かったですぅ……」


 クスクスと、母の恐怖体験に花を咲かせる二人。


 だが、二人の背後に、音もなく『それ』は現れた。


 般若の面を被ったかのような、冷徹なまでの静寂を纏ったテティアの気配。


「……へぇ。私の『禁忌リスト』、私も詳しく聞きたいわねぇ?」


――ヒュッ。


 二人の喉が鳴った。ギギギ、と錆びついたブリキ人形のように振り返った先には、暗黒のオーラを背負った母の『笑顔』があった。


「「ご、ごめんなさいいいいいいっ!!!」」


 二人はそのまま部屋の隅で、絵に描いたように小さくなって小一時間、正座をさせられた。


 その光景を見て、カレンやビャクが「女神様が、あんなに小さくなって……」と引く中、ミモラだけは紅茶を啜りながら、慈しむように微笑んだ。


「……ふふふ。家族って、本当にいいものね」


 こうして、サリウス邸に穏やかな日常が帰って来るのだった。

読んでくれてありがとうなのじゃ!

いっぱい応援してくれて心から

感謝なのじゃ!


(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

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