第4話 エリスの目覚め
エリスが目を覚ましたのは、それから三日が経過した
「……ふぁ……。よく寝たわい。……む? お主ら、揃いも揃って何をそんなに暗い顔をしておるのじゃ?」
身体を重そうに起こしたエリスの背で、八枚の翼がバサリと大きく広がった。その神々しい輝きに、部屋にいた全員が思わず気圧され、言葉を失う。
「お、お嬢様……! お目覚めになられたのですね!」
カレンが涙を浮かべて駆け寄り、その手を取った。
「カレンか。……なんじゃ、そんなに泣いて。妾がそれほど長く寝ておったのかの?」
「はい……三日三晩、目を覚まされませんでしたから。それに、そのお姿……」
カレンが指さした先。エリスは自身の背中に、かつてない重みと、猛烈な勢いで高まる神力と魔力の奔流を感じて振り返った。
「な、なんじゃ、これは……。翼が増えておる? それに、この色は……」
黒と白、そして混ざり合う銀色。自身の翼を不思議そうに眺めた後、不意に隣で眠るテティアに目を留め、エリスの表情が強張った。
「お、お母様は!? お母様は大丈夫なのか!?」
エリスは慌てふためき、身を乗り出した。
最愛の家族が目を覚まさない──その事実に動揺し、おばあちゃまとビャクから、事の成り行きを聞き、安堵の溜息を吐き、母を見つめた。
彼女は神としての直感で世界全体を俯瞰し、現状を透かし見る。
「……そ、そうか。妾の世界と同等に近い、莫大な神力や神威といったエネルギーが一気に流れ込んでおるのか……!? そして、母上の中に流れ込んだのは……。ビャク! おるか!」
エリスの鋭い呼び声に、控えていたビャクが深々と頭を下げて前に出た。
「ここに。エリス様、お体の具合はいかがでしょうか」
「体調は万全じゃ。それよりビャク、神聖界はどうなった? 妾が眠る直前、あちらの理が崩れる音が聞こえたのじゃが」
ビャクは沈痛な面持ちで、震える声を絞り出した。
「……神聖界は、消滅いたしました。正確には……あらゆる光が失われ、無に帰したのです。我ら眷属も、もはやあそこへ戻ることは叶いません」
「消滅……だと?」ミモラが絶句する。
「左様か……。やはり、あの光のエネルギーが原因か」
エリスは冷静さを取り戻し、テティアの額にそっと手をかざした。
「エリス様、あの日……お嬢様から飛び出した光がテティア様の中へ入っていったのです。それに『この子』とも仰ってました。あれは一体何だったのでしょうか?」
カレンの問いに、エリスはどこか遠くを見つめるような瞳で答えた。
「あれは、この世界に流れ込んだ『異界の神の魂』じゃな。何処かの神が妾に大量のエネルギーを託し、この世界がそれを吸収したのじゃ。この世界そのものである妾の体に変化が起きたのも、その影響じゃろう。
……だが、同時に神聖界にも異変が起きた。妾を通じて逆流した膨大なエネルギーの負荷に、神聖界が耐えきれず自壊を始めたということじゃな」
エリスは自嘲気味に、苦笑いを浮かべた。
「では、テティア様の中に、異なる世界の神様の魂が収まっているというのですか…?」
信じがたい話に、一同に戦慄が走る。エリスは頷き、八枚の翼をゆっくりと畳んだ。
「安心せよ。神聖界は妾が目を覚ましたことで、すでに再生し始めておる。それから、その神の魂も……お母様という器の中で、再生の時を待っておるようじゃ。……さて、そうなるとお母様が目覚めた時、この人間界のバランスがどうなるか。少々、騒がしくなりそうじゃのぉ」
エリスは不敵な笑みを浮かべ、窓の外に広がる青空を見上げた。その瞳には、すでに次なる激動の予感が見えているようだった。
しかし、事態はエリスの予想を凌駕するのだった。
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