第3話 母なる世界の意識
たっぷりと反省させられ、泣き疲れたマーキュリアスは、そのまま深い眠りに落ちた。
テティアは床に座り込み、そっと彼女の頭を抱え上げ、自身の膝に乗せた。
「仕方のない子ね……」
慈愛の籠もった瞳で見つめながら、白銀に輝く髪を指でゆっくりと漉き、その頭を優しく撫でる。
「馬鹿な子ね、フフッ…」
テティアは、壊れ物を扱うような温かな眼差しで、新たな「娘」を見守った。
マーキュリアスは微睡みの中で、確かな温もりに心が洗われるのを感じていた。
誰かに包み込まれるような安らぎは、彼女にとって生まれて初めての経験だった。
やがて意識が浮上し、自分が膝枕をされていることに気づく。
そして、権能を捨てたから分かることがあった。
姉であるアフロディーテがどれほどの温もりと愛情を求めていたのか。その重みが、今の自分には痛いほど理解できた。──物理的な頬の痛みと共に…。
「ねぇ、貴女は……神性を捨て、人間として生きることになっても、エリスディーテの妹として支え合い、生きていきたいと望むのですか?」
静かな、けれど芯の通ったテティアの問いかけに、マーキュリアスは顔を上げた。
『はい……! この命をかけて、一生をかけて償っていきたい。それが私の願いです!』
「分かりました。ならば……私が、貴女の母になりましょう」
『えっ……!? あ、ありがとうございます……っ!』
何十億年という絶望的な孤独。かつて見た、闇の女神のあの寂しげな微笑み。
それらを思い浮かべ、テティアの内に眠る強固な母性が、姉妹揃って必ず幸せにしてみせると心に強く誓わせた。
「ええ。ただし、条件があります」
『はい! どのような条件でも受け入れます!』
身を乗り出すマーキュリアスを見つめ、テティアは微笑みを絶やさないまま、釘を刺すように言葉を続けた。
「……私の娘として、厳しく躾けます。間違ったことや、人様に迷惑をかけるような真似をしたら、今日のように鉄拳制裁です。それでもよろしいですね?」
その瞬間、マーキュリアスは顔面蒼白になり、ガチガチと歯を鳴らした。それでも、彼女は必死にコクコクと何度も首を縦に振る。
今にも泣き出しそうな、それでいて悲壮な決意の滲む顔で、彼女は震える声を絞り出した。
『よ、よ、よろしくお願いします……! ど、どうか……貴女のお子に、してください……!』
「はい♪じゃぁ、貴女は、今から、マーキュリアスという名を捨てて──と名付けます。」
『──ですか!あ、ありがとうございます!とても素敵な名前です!』
「それから、人間の魂へと位階を落とすことも認めません。」
『エッ!? で、でも……。私がこの世界に入るため、魂の位階を人間と同格まで落とされましたが……。』
「大丈夫だと思います。そうでないと、貴女は、我が家ではやって行けないからです。家族の多くが、神と同等の力を有しています。」
『エッ!! すごっ!? で、でもどやって?』
「それは、エリスの力です。それに、貴女の魂が神の魂である『神格魂』のままだからです。
力を失ってはいますが、取り戻すことは可能です。 そうですよね………。 母なる世界の意識さん。」
(………気づいてましたか。仰るとおりです。改めて、名乗りはできませんが、この子達を宜しくお願いします。)
『………エッ!?母なる世界の意識って…』
「分かりました。貴女の子ども達は、私の娘として、《《きちんと》》育てあげ、立派な女神としてみせますわ」
(フフフ♪ありがとうございます。貴女のような方は初めてです♪流石、《《我が子達》》が選んだ『聖母』ですね♪)
「ありがとうございます。《《お腹を痛めて産んだ、れっきとした私の愛娘》》ですから。母なる世界の意識さんにお願いがあるのですが、聞いて頂くことは、できますか?」
(はい、どうぞ仰って下さい。──はい、叶えることは可能ですね♪)
「……心を読んで頂き、ありがとうございます。では、そのようにお願いします。」
(はい♪賜りました。心からのお礼に、貴女の権能に合わせた、女神の母に相応しいプレゼントを贈りますね♪そろそろ、もう一人の貴女の娘が目を覚ますようですので、二人揃って現世に送りますね♪)
「ありがとうございます。」
(えっ!?私達の「魂の生みの親」!!うそでしょ!『本当ですよ♪(母なる世界の意識の声)』!!?!?)
『………エッ!?』
こうして、母親同士が語らい、テティアは新たな力を宿し、マーキュリアスは新たな名前と、女神の力を取り戻した。
エリスの世界に新たなスパイスを加え、騒がしい日常が帰ってくるのだった。
(私は、温もりと愛を求めて、私を選んで来てくれたこの奇跡に、感謝しています。永遠を共にするなら、エリスとこの子に世界を愛し続ける力を…)
意識が現実世界に戻るテティア
それを見送るマーキュリアスが精神世界で一人その時を待つ……
マーキュリアスは虚空に向かって叫んだ
『お、お母さん!私を生んでくれて、ありがとうございます!そして、不甲斐ない馬鹿な娘でごめんなさい!私は、新しいお母様とお姉ちゃんを支えて生きて行きます!』
優しい風がマーキュリアスの頬をそっと撫でた。その頬にそっと手をあてがい、頬を伝う涙が輝きながら霧散する…
行ってらっしゃいとそっと背中を押す温かい風に、新たな一歩を踏み出す勇気をもらい、母テティアの元へ…
ありがとう…おかあさん……
読んでくれてありがとうなのじゃ!
いっぱい応援してくれて心から
感謝なのじゃ!
(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐




