幕間 魔の森の王たち
魔の森──そこは弱肉強食が唯一の法であり、人の世の倫理など一滴の価値も持たない魔境である。
東西南北、四つの広大な領域には、数百年、千年の時をかけて頂点へと上り詰めた『孤独な王』たちが存在していた。
これは、彼女たちが『神獣』という名を与えられる前、ただ一匹の魔獣として、熾烈に、あるいは豪胆に生きた軌跡の記録である。
──東の王
東の森。そこは辺り一帯が巨岩が多く生きて行くには不向きな場所。その中心に、一匹の黒猫がいた。
生まれ数十年は彼女はただの『幻猫』というD級の脆弱な存在だった。
属性は『土』。土を捏ねて小石を投げる程度の力しかなかった彼女は、他の捕食者から逃れるため、土の中に穴を掘り、幻影で姿を消して、平和を祈りながら震えていた。
だが、ある日。森の地脈が暴走し、彼女の棲家が巨大な土砂崩れに飲み込まれた時、彼女の魂に眠る『闇の残渣』が目覚めた。
「……平和に暮らしたいだけなのに、土まであたいを邪魔するのかよ!」
怒りが理性を焼き切り、彼女は地脈そのものを自らの魔力で「固定」した。
200年程経ち、A級の『幻妖猫』へと進化し、さらに200年、土に潜む力を練り続け、ついには地形そのものを操るSS級の『幻大妖猫』へと至った。
彼女は東の王となった。一度怒れば山を崩し、大地を割る。だが、その本質は変わらず『平和主義者』。
自分を脅かさない者には無関心。彼女はただ、お気に入りの巨岩の上で、永遠に続く微睡みを楽しんでいたのだ。あの日、空間が「パチン」と弾けるまでは。
──西の王
西の領域。深い霧が立ち込め、透明な水が枯れることのない聖域。そこに千年前から棲まう一匹の白い蛇。
始まりはD級の「白蛇」。属性は『水』。水溜まりを泳ぐだけの小さな命だった彼女は、あまりに美しすぎた。そのため、魔物からも、時には迷い込んだ人間からも、その命を狙われ続けた。
彼女は極度の人見知りだった。他者と関わるのが怖かった。だから、より深く、より静かな水の底を求めた。だから生き抜いて来られた。
B級の「白角蛇」となり、額に一本の角が生えた頃、彼女は自らの周囲に「拒絶の霧」を張ることを覚えた。
1000年の孤独。それは彼女を、SS級の『神仕白蛇』へと昇華させた。手足が生じ、龍に近い姿となった彼女は、西の霧の海で『神の使い』として崇められるようになったが、その心は常に震えていた。
(さみしい……。誰か、私を、怖がらずに、見つけて……)
そんな彼女の、千年の孤独という霧を切り裂いたのは、あまりに強引な「招待状」だった。
──南の王
南の領域。一年中、生命の息吹が爆発し、緑が狂い咲く密林。
500年前、D級の『銀鹿』として生まれた彼女は、とにかく元気だった。属性は『木』。
植物と対話できる彼女は、食べ物を探す苦労こそなかったが、とにかく『退屈』が大嫌いだった。
森を駆け抜け、強そうな奴を見つけては「遊ぼうよ!」と体当たりをかます。
相手が死に物狂いで反撃してきても、天然な彼女はそれを『激しい遊び』と勘違いした。
A級『朧妖鹿』へと進化した彼女の姿は、森の木々と同化する『朧』の力を持ち、誰も彼女を捕らえることはできなくなった。
やがて角が三本になり、翼が生えたSS級の「朧幻妖鹿」へ進化した。
彼女は南の王として君臨したが、彼女にとってそれは『南の森の全員と遊び尽くして、誰も相手をしてくれなくなった』という、ある種の絶望を意味していた。
「あーあ、誰か新しい遊び友達、空から降ってこないかなー!」
考えなしに放ったその言葉が、文字通り現実となる日が来るとは、彼女は夢にも思っていなかった。
──北の王
北の領域。そこは氷の地ではなく、常に青白い焔が揺らめく『燃える不毛の地』。
700年前、一匹の「焔鳥」が空を焼いた。D級の彼女は、ただ空を飛びたかった。だが、彼女の属性は『火』。羽ばたくたびに、周囲を焼き尽くしてしまう。
彼女は物静かだった。何も壊したくなかった。だから、彼女は誰にも触れぬよう、遥か高空で沈黙を守った。
B級の『焔霊鳥』となり、さらに孤独を極めた末、彼女の焔は『白』へと至り、SS級の「白焔霊鳥」へと進化した。
北の王。彼女がひとたび翼を広げれば、地上のすべてが灰に還る。そのあまりの破壊力を自ら恐れ、彼女は700年間、魂を凍らせるようにして静かに空を漂っていた。
彼女が求めていたのは、自分の『火』を恐れず、自分の『沈黙』を許してくれる主。
「……静寂を、乱す者が現れるなら。……それは、世界の終わりの時」
彼女がそう予感した瞬間、空が、剥がれ落ちた。
──強制転移
「……ひゃっ!?」
最初に声を上げたのは、東の王『幻大妖猫』だった。愛用の巨岩から、突然「虚空」へと放り出されたからだ。
「な、なになに!? 新しい遊び!? 超楽しいー!」
次に落ちてきたのは、南の王『朧幻妖鹿』
「……ここは……?」
霧の底から引き摺り出され、パニックで震える西の王『神仕白蛇』
「………………」
静かに翼を畳み、しかし内側に凄まじい火力を秘めて警戒する北の王『白焔霊鳥』
そして、既にエリス様の足元で「黄金の絶望」を感じていた『金大妖狐』
魔の森の東西南北、そして深層を統べていた五体の王たちが、今、一箇所に集められた。
目の前には、崖の縁で優雅に笑う、幼い少女。
その隣には、この世の理そのもののような威圧感を放つ白狼。
(な、なんですの……この人間は……。私の『土』が、この子の足元に触れるだけで、ひれ伏そうとしている……!?)
『幻大妖猫』の内心は、驚愕で塗りつぶされた。
(こ、この神々しい闇……。千年間、私が探していた……私を包み込んでくれる、大きな深淵……!)
『神仕白蛇』は恐怖を超え、一瞬で少女に心を奪われた。
(わあ、すっごい! この子、絶対私より強いよ! もっと遊んで遊んでー!)
『朧幻妖鹿』は、自身の生存本能が『逃げろ』ではなく『仕えろ』と言っていることに気づき、興奮で翼を震わせた。
(……この方の前では。……私の焔も、ただの温かな灯火に過ぎない。……ようやく、安らげる)
『白焔霊鳥』の白焔が、幼い少女の神威に触れて、穏やかな橙色へと変わっていった。
「ほぉ♪ 狐に猫、白蛇、鹿に鳥か。お主ら、妾に仕える気はあるかのぉ?」
エリスの黄金の瞳が、彼女たちの魂の奥底、数百年、千年の孤独を見透かすように輝く。
闇の女神としての圧倒的な力。
それと同時に、彼女たちが渇望してやまなかった『温もり』を、エリスは無意識に放っていた。
私達は直ぐに恭順した。孤独と色褪せた毎日に彩りと温もりを与えてくれると信じて。
「準備完了じゃ。ビャクよ、この眷属どもを連れて、リレトス聖教法国を攻め落としてくるのじゃ。……これは、妾からの最初の命令じゃぞ!」
その言葉と同時に、五体の魔獣たちの魂に、神獣フェンリル様の神力が直接流し込まれ聖獣に至った。一瞬の出来事に五匹の聖獣は一様に固まった。
((((えっ!………))))
そこから、『思考共有』で様々なことを知った。世界の記憶も見せてもらった。
そして、ビャク様と共に謁見の間へ飛ばされた──
そこからは、瞬く間に聖教法国が白銀の炎に包まれ、国全体が浄化された。……規模が違う……理解が追いつかなかった。でも、我々は必要とされる歓びを知った。
──リレトス聖教法国から帰還
エリス様が、我々を森にリリースしようと、ビャク様と話していた。
五匹は、頷きあい全力で『腹』を差し出した。我々獣の最上の服従のポーズだ!
ビャク様が執成してくれて、皆がホッと溜息を吐いた。
エリス様がその小さな手を私に向けた瞬間、魂に『名』が刻まれた。
九尾の『クロエ』、猫又の『シヴァ』、白龍の『ミロク』、麒麟の『ディア』、不死鳥の『ファル』。
種族としての壁を突き破り、『神獣』へと強制的に引き上げられる衝撃。
「……御意のままに、我が主よ!」
シヴァが、猫のようにしなやかに頭を垂れた。
「ミロク、一生ついていきます……!」
ミロクが、感極まって涙を流しながら誓った。
「よーし、主と一緒に一杯遊ぶもんねー!」
ディアが、新しいおもちゃを与えられた子供のように跳ねた。
「……すべてを。主のために、焼き尽くします」
ファルが静かな決意をする。主のために。
漆黒の波動を纏う幼い女神と、五体の神獣、そして神獣フェンリル。
それから、全員が人化し主と全力で遊んだ。初めての経験だった…『楽しい』が『孤独』を塗り潰していく。『温かい』気持ち。
家族として、共にあることを選んだ。温もりある日々を過ごすために、主と共に…
いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!
それと応援してくれて感謝じゃ!
嬉しくて!妾は、張り切って
頑張るからのう
次はいよいよ新章に突入じゃ!
これまで、妾は戦ってばかりじゃった
からのう。チョットはまったり
したいかのぅ。
(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐




