第27話 隠し切れない事実
大陸全土が震撼した。『リレトス聖教法国の滅亡』と『ドラン帝国の敗戦』
これまで聖教法国が捏造してきた歴史を大陸全土の国々が追認していた事実が暴露されたのだ。
また、唯一神と崇められた女神は『偽りの女神』であり、『真の神』が降臨した今、その偽女神も滅ぼされる運命にあるという噂が大陸中を駆け巡っている。
大陸各地にある聖教会は『新神教』へと名を変えた。
これまで『清貧に過ごし、神にお布施を』と説いていた教えは、『我らが犯した咎は巡り巡って粛清され、善性こそが魂を浄化する』という教訓に改められた。
『清らかに過ごし、善性を磨く』ことが新たな指針となったのだ。
この一件以降、悪徳で有名だった貴族たちも、自らの善性を示すため競うように善政を敷き始めた。世界は劇的に変わりつつある。
人々は、新しい神の威光にひれ伏していた。
シェード公国――。
ミテラン公王が上座に座り、その後方にスバル宰相とクラウザード公爵が控える中、大臣たちが集まり緊急会議が行われていた。
「リレトス聖教法国が滅亡した」
公王の言葉に、議場は静寂に包まれた。誰もが信じがたいといった表情で目を見開き、体を強張らせる。
「公王様、どこの国が聖教法国を攻め滅ぼしたというのでしょうか?」
法務大臣が震える声で問うた。
「半年前の『神隠し』を覚えているか?」
公王もまた、顔を青ざめながら答えた。
「神隠しですか? たった4日で大陸中の闇組織が一斉に壊滅した事件……。あれは人の手によるものではなく、文字通り神の仕業だと言われていたはずですが」
公王はスバル宰相とクラウザード公爵に目配せをした。意図を察した宰相が説明を引き継ぐ。
「半年前の『神隠し』の真実。それは、この大陸に新たな神が降臨し、心に澱みのある者をその罪業に従って、白銀の炎で焼き尽くしたのだと言われている」
「一日目にドラン帝国、二日目にリレトス聖教法国、三日目にアーク王国と我がシェード公国、四日目にミレニアム共和国……。人も建物も財産も、悪しきものは全て一夜にして消滅した」
続いて公爵が補足した。
「生存者は僅か二人。ミレニアム共和国の子爵家で起こった事件だ。黒髪の『忌み子』を聖教法国へ売り飛ばそうとした子爵が晩餐会を開いていた際、二人の神が降臨した。証言によれば、姿は認識できても顔を思い出そうとすると、記憶にぽっかりと穴が開いたようになるという。その後、子爵家の41人は自身の罪状を叫びながら、体の内側から湧き出た白銀の炎に焼かれ、忽然と消えた。生き残ったのは、罪のなかった使用人二人だけだ」
公王が再び大臣たちを一人ひとり見据える。
「今回の聖教法国の滅亡も、それと同じだ。密偵の情報によれば、七聖天の一人『賢者』ラッセルが神の使いとして現れ、国の罪を暴き、神託を宣言した直後、自らも炎に焼かれ消滅した。その後、三千体の魔獣が現れて国を蹂躙し、最後は国全体が白銀の炎に包まれ、亡骸ごと焼き尽くされたという」
あまりの凄惨さに、大臣たちは言葉を失った。
「……被害状況は、どうなっているのですか?」
「聖教法国の貴族の八割、聖職者の九割が命を落とした。商家や兵士、民も三割が魔獣に嬲られ、神の炎に焼かれたという」
慈悲のかけらもない粛清。議場には背筋の凍るような沈黙が流れた。
「そ、その……罪業の基準などはあるのでしょうか……?」
「詳しくは分からぬ。だが、人が罪を犯せばそれが罪業となり、魂を穢す。新神教の教皇はそう説いている。とにかく善性を磨くほか、生き残る道はないのだ」
シェード公国ではこの日を境に、身に覚えのある貴族たちが率先して慈善事業に乗り出すという、空前の『善行ブーム』が巻き起こった。
アーク王国──
アーク王国でも同様の会議が開かれていた。当初は『弱体化した聖教法国へ兵を出すべきだ』と主張していた好戦派も、実情を知るにつれ、顔を青ざめて保守派へ転向していった。
そんな中、この事態に『ある確信』を抱く二人の男がいた。テティアの元夫(公爵)と、ミモラの元夫(侯爵)である。
「なあ、侯爵……やっぱり、あいつらだよな?」
「……ああ、そうだろうな」
ベスタ公爵が震える声でささやくと、ゾル侯爵も苦い顔で頷いた。
「テティアが赤子を産んだ後、『聖教法国を滅ぼす』と言った時は鼻で笑ったが……。その後、騎士団長に乗り移った『何か』が放ったあの魔力のプレッシャーを感じてから、いつかこうなると思ってた」
「俺もだ。だが、実際に滅んだと聞くと常軌を逸している。元妻も娘も、もう人間を辞めているんだろうな……。生き残った貴族がたった二割だぞ? 正気でいられるか!?」
「落ち着け、侯爵。ドラン帝国でも言われているだろう、『触らぬ神に祟りなし』と」
「……ああ、そうだな。」
「……なあ、侯爵。俺……恨まれてないよな?」
「それを俺に聞くな。俺たちは……同志だろう?」
年齢は違えど二人の男は、これからは清く正しく生きようと、痛いほどの力で熱い握手を交わした。
ドラン帝国──
ドラン皇帝は頭を抱えていた。
事の発端は、ミユラー宰相代理とアシッド軍務卿による『サリウス領抹殺計画』だった。
神隠しの首謀者と思われる『紅堕天使の4姫』と『神童エリスディーテ』を暗殺、あるいは拉致して弱体化させ、その力を搾取する。
その隙に聖教法国を実効支配する算段だった。
しかし、結果は散々だった。密かに計画に関わった54名は不審死を遂げ、進軍していた二万の軍勢は、神の使いである天女のような神獣に蹴散らされた。
トドメと言わんばかりに、皇帝の目の前で玉座に雷を落とされ、『いつでも殺せる』と無言の圧で脅されたのだ。
『触らぬ神に祟りなし』という言葉が城内に飛び交う中、皇帝は独りごちた。
「だが……あの神の力を我が帝国に取り入れれば、大陸制覇など容易い。サリウス伯爵家、どうにかして取り込めぬものか……」
この執着が、後に深海よりも深い後悔を招くことを、皇帝はまだ知らない。
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