表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/93

第21話 触らぬ神に、祟なし

 その頃、高みの見物を決め込んでいた天界の智天使オフィリアは、かつてない戦慄に身を震わせていた。


「まずい、まずい、まずいわ! あれは神獣フェンリルですわ! どうしてあんな伝説の守護者が地上に……。フェンリルを従える主が、この星の管理者ですって!?」


「オフィリア! あなたのせいで天界が滅ぼされたらどうするのよ! 管理者が直々に降臨したというの? なんてことをしてくれたの!」


 仲間の天使たちの糾弾に、オフィリアは顔を真っ赤にして逆上した。


「うるさい、うるさい! あんた達だって、聖教法国が捧げる供物の甘い汁を啜っていたじゃない! 私だけが悪いって言うの!?あんた達も同罪よ!」


 醜い責任転嫁を続ける彼女たちの背後で、突如として空間に、鏡が割れるような鋭い亀裂が走ったと同時に空間の裂け目からヌゥッと手が現れオフィリアの首根っこをガシッと鷲掴みにした。


「あ――」


 そして、悲鳴を上げる間もなく、穴の向こうへゆっくりと引きずり込まれていく…


──パリン…と、ことわりが砕ける音と共に…


 オフィリアは目を見開き悲愴な顔で、仲間の天使に必死に手を伸ばすが、無情にも亀裂の中に引きずり込まれ、空間の亀裂もスーッと溶けるように消えていった……。


 残された天使たちは、蒼白になり、口をパクパクさせ腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


 残された彼女たちは理解した。


 世界の意識によって地上への干渉が制限されているはずの今、即座に理を破壊し、オフィリアを連れ去ることが出来るのは…


 そう、それが管理者の中でも上位の存在にしかできぬ神業だと気づき、彼女たちはいまさらながら、自分たちのしでかした事の重大性に絶望した。


 だが、直後に彼女たちが知る真実はさらに残酷だった。


 地上世界を見た彼女たちは、再び固まった。神獣フェンリルの手に、連れ去られたオフィリアが首根っこを掴まれて、そこにいたからだ。


「えっ!うそっ!?管理者の守護者って理を破る力は無いはずよ!」


 彼女が叫んだ瞬間、地上の次元の壁がガラスのように粉砕され、巨大な『(ひび)』が入った。


 その裂け目から、宇宙そのものを凝縮したような、巨大な怒気をはらんだ『瞳』が現れた。


「な、に、これ……うそでしょ……」


 天と地ほどの神格の位階の差に絶望する彼女たち、驚きの余り呼吸をするのを忘れていたが、それだけでは済まなかった…


 その怒りを孕んだ瞳と彼女たちの視線が交差する。


 空間を通り越し彼女達を見つめる瞳「えっ、こっちを見てる?」と呟いた瞬間…


 彼女たちは、絶望的なプレッシャーに魂が悲鳴を上げ、赦しを乞わずにはいられなかった。


 自然と地面へと平伏(ひれふ)し懺悔する。


 重圧から解放された彼女たちの前に、再び突如として空間に、鏡が割れるような鋭い亀裂が走ったと同時に空間の裂け目からオフィリアが捨てられたように飛び込んで来た。


 そして、頭から床に崩れ落ちた…


「「「…………」」」


 オフィリアは崩れ落ちたままの状態で放心し石の様に固まっている。


 それを震えながら眺めているしかない彼女たちは恐怖の余り言葉も出なかった…。


 正気を取り戻したオフィリアから、先程の存在が星の管理者どころか、この世界そのものを創りたもうた『創造神』であることを聞いた瞬間、彼女たちは一斉に泡を吹いて卒倒した。


 こうして天界は、いつ下されるとも知れぬ神罰に怯え、息を潜めるだけの監獄へと成り果てたのである。



 一方、サリウス領の魔の森。


 エリスは、空中に出現させた俯瞰術式の映像を、菓子を摘まむような気楽さで眺めていた。


 ビャクが予想以上に賢く立ち回り、聖獣たちが圧倒的な力で敵を粉砕していく様子に、「ちょっとやりすぎたかのう?」と首を傾げつつも、その表情はワクワクとした楽しげな色を帯びている。


 だが、ビャクが予定外の行動で偽女神を法皇の前へと引き摺り出したことで、天界と地上の境界が崩れてしまった。


「やれやれ、手間をかけさせるのう……」


 慌てて(ことわり)を修復し、その八つ当たりついでに最大の威圧を込めてビャクを窘め、おまけに天界から覗いていた天使も含め威圧をプレゼントしておいた。


 一息ついたのも束の間、エリスの眉間が再び険しくなる。


 領内に潜伏していたドラン帝国の密偵たちが、一斉に魔の森にいる『エリスディーテ』へ照準を合わせ、接近を開始したのだ。


(ふむ……非常に面倒くさいの。妾に構うなと言っておるのに……)


 エリスは眉間に力を込め、すべての密偵の所在を瞬時に捕捉した。


「創生術式――『一括転移』『強制拘束』『全状態異常無効』『異空間創生』『伝心妨害』……ついでに『魅了』も展開じゃ!」


 五人一組の班で行動していた密偵たちは、自らに何が起きたのか理解できなかった。


 彼らは実力者である『紅堕天使の4姫』たちを避け、最大に脆弱なはずの『三歳の幼児』を誘拐、もしくは殺害せよとの勅命を受けていた。


 だが、視界が暗転した次の瞬間、彼らは見知らぬ異空間で、隊長を含め部隊全員が集められ、腰に手を当てて踏ん反り返る三歳の幼女に見下ろされていた。


「おい、ドラン帝国の狗ども。妾に何か用かえ? リーダーよ、知っていることをすべて吐くのじゃ」


 拘束は鋼より硬く、奥歯に仕込んだ自害用の毒薬もなぜか霧のように消え去る。


 魔道具による外部報告も完全に遮断され、逃げ場を失った彼らは、エリスの放つ『魅了』の強制力によって、帝国の内情から宰相代理、軍務卿の悪行に至るまで、覆面を脱ぎ捨て歌い踊るように喋らされた。


 この様子は、エリスの手によってミモラやテティア達にもリアルタイムで中継されていた。


 邸内で戦況を監視していたミモラや、戦場で戦闘の最中にあるテティア達は、その映像を前に別の意味で戦慄した。


「ド、ドラン帝国!? ……エ、エリスちゃん! 今度はどこと戦ってるの!?」


 三歳の幼女がふんぞり返り、密偵を並べて尋問する光景。だが、尋問されているはずの暗殺者全員が覆面を外し何故か頬を染め、喜々として暴露大会を催している謎の光景が映し出されていた。


 それは、敵襲よりも遥かに恐ろしい無秩序な光景であった。


 尋問を終えたエリスは、ビャクに新たな指示を出し、その視線は、主犯であるミユラー宰相代理の執務室を捉えていた。


「敵軍の将自ら、密偵たちを出迎えるがよい。宰相代理もまとめて処分して、部屋に並べておくとするかの!」


 エリスが指をクルリと回す。


 その刹那、二十一名の密偵たちの心臓が停止した。


 そのまま亡骸を転移させ、ドラン帝国の執務室に整然と並べる。


 目の前に突如出現した「自らの手下たちの死体の山」に、ミユラー宰相代理は椅子から転げ落ちるほど驚愕し、護衛騎士二人は驚きの余り身動き一つできなかった。


 ミユラーは咄嗟に魔道具へ手を伸ばそうとするが、その指は凍りついたように動かない。


「……触らぬ……神に……祟りなし……か……」


 己の傲慢が生んだ「天罰」を最期に悟り、ミユラーもまた、息絶えた。


 同じ日、計画に関与していたアシッド軍務卿や皇族に貴族達、悪徳商家など、計三十三名が謎の心臓麻痺で同時多発的に急死を遂げた。



──ドラン帝国軍


 リレトス聖教法国が混乱の最中であると皇帝からの勅命で「出撃命令」が成され、国境付近で待機していた帝国軍二万が鬨の声とともに出陣した。


 国境を超えた頃、漆黒の闇の中を行軍する軍勢の前に突如、太陽と見間違えるほど明るい光球が軍勢の上空に現れ、軍勢の前に眩い雷光球が出現し、周囲の木々を一瞬で炭化させた。


 白煙の中から現れたのは、神々しい紫電を纏った――天女のような姿をした神獣ビャクだ。


 その威容と凄まじい威圧感は、最後尾の兵士までもを震え上がらせた。魔法では成し得ない光球の光度と紫電を纏って転移する未知の技法に魔法師部隊は既に戦意を喪失していた。


「な、何者だ!? ドラン帝国軍だと知っての狼藉か!」


 将軍ブゥドウは、全身から滝のような汗を流し、絶叫した。


「二度は言いません。我が主神からの神託です。『神の浄化の炎に焼かれたくなければ、このまま国へ戻れ』とのお言葉です」


「だ、黙れ! どこの馬の骨か分からん奴の言うことなど聞けるかー!」


 将軍が吼えた瞬間、光球から、凄まじい雷鳴が轟いた。


 一筋の閃光が将軍の目の前に落ちたかと思うと、ドラン帝国軍の半数が、なす術もなく感電してバタバタと倒れ伏した。


「これは私の慈悲です。暫くすれば、目を覚ますでしょう」


 その光景を見た後方の兵たちは、武器を投げ捨てて逃げ惑った。


 ビャクはさらに、俯瞰術式を通じて皇帝の脳内に直接、地獄のような戦場の様子を送りつけた。


『ドラン皇帝。今見せたとおり、軍は半壊させました。死にたくなければ、リレトス聖教法国から手を引きなさい。これは、主神からの神託です』


 ビャクがパチンと指を鳴らす。


 その瞬間、皇帝の目の前に、城の強固な結界も屋根もすべてを貫通した一筋の雷が落ちた。


 数センチの誤差もなく床を撃ち抜いた雷鳴に、護衛たちは腰を抜かして狼狽える。


「なっ!? …………わ、分かった。手を引く……今すぐ全軍すべて撤退させろ!」


 皇帝は力なく玉座に項垂れた。


 いつでも、どこにいても、神の指先一つで命を奪われるという絶望。


 リレトス聖教法国の滅亡に続き、ドラン帝国もまた、目に見えぬ『神の逆鱗』に触れたことを、その骨に刻み込まれることとなったのである。


 ミユラー宰相代理とアシッド軍務卿と関わりのあった皇族の家族を含め、多くの重鎮が謎の死を遂げたことを知った皇帝はさらに絶望を深めた。

いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!

それと応援してくれて感謝じゃ!

嬉しくて!妾は、張り切って

頑張るからのう


(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ