第19話 因果応報
──リレトス聖教法国、大聖堂。
空に映し出された数々の罪業が、国民の信仰を粉々に砕き散らしていく中、法皇は苦渋に満ちた表情で緊急招集を命じた。
集められたのは、軍を束ねるラウエル元帥、バロウ大司教、サディス審問官長、アザート諮問副長、そしてグリゴ部隊長。
国家の中枢を担い、甘い蜜を吸い続けてきた彼らだったが、謁見の間へ向かう足取りは泥のように重い。その顔は一様に青白く、茫然自失としていた。
バロウ大司教は、ミレニアム共和国へ派遣したはずの『蠍』部隊や七聖天との連絡を試みるべく、歩きながら必死に魔道具を起動させていた。
「バロウだ! 何が起きている、応答せよ! ……おい、聞こえないのか!」
通信機を壊さんばかりに握りしめ、怒声を浴びせる。しかし、魔道具の向こう側から返ってくるのは、心臓を凍らせるような不気味な沈黙のみ。
刻一刻と過ぎゆく絶望的な時間の中、彼は全身に脂汗を浮かべ、死に物狂いで法皇のもとへと急いだ。
謁見の間では、法皇が深く刻まれた眉間の皺を揉みほぐすように顔を顰め、重苦しい沈黙の中で閣僚たちが揃うのを待っていた。
最後にバロウが扉を跳ね除けて駆け込んだのと時を同じくして、頭上の虚空から再び、賢者ラッセルの無機質な声が響き渡った。
『リレトス聖教法国の民よ。これぞ真なる神からの神託なり。
――『罪を償う時が来た。これより汝らの魂を選定する。清らかな者は救われ、穢れた者はその度合いに応じ、苦しみに打ち据えられるがいい』──』
神託を宣言したラッセルは、己の罪に焼かれるように白銀の炎に包まれ、最期の絶叫と共に光となって消失した。
その姿は、半年前の『邪神による神隠し』を彷彿とさせ、居合わせた者たちを戦慄させた。
「「「「………………」」」」
その宣告を皮切りに、悲鳴のような報告が次々と舞い込んだ。
聖都の城壁外には、千体もの魔獣が包囲。
東西南北の主要都市にはそれぞれ五百体ずつ、計三千体が突如として出現。
さらに、最悪の報告が謁見の間を凍りつかせた。
「報告! 聖都内部――時計塔を中心とした市街地、および各門付近に、十体のS級を含む精鋭魔獣、計三百四十体が転移してきました!」
バロウ大司教は膝をつき、がたがたと震え出した。
これらはすべて――今日、この時間、自分たちがミレニアム共和国のサリウス領で実行しようとしていた計画そのものだったからだ。
己が研ぎ澄ませた残虐な刃が、因果の理によって、今まさに自らの喉元に突きつけられている。
法皇は冷徹な眼差しで側近に短く命じた。
即座に聖騎士たちが動き、バロウ大司教と異端審問官の面々を力ずくで玉座の下へ引き立て、跪かせる。
「大司教バロウ、および異端審問官の者たちよ……。申し開きはあるか」
「こ、これは、何かの間違いです! 卑劣なサリウスの謀略なのです!」
バロウの口から出たのは、言い訳にすらならない、汚物のように見苦しい叫びだった。
法皇はそんな彼らをゴミを見るような目で見下ろし、届いた被害状況を、自らに言い聞かせるように復唱した。
「聖都の外に千、主要都市に計二千。そして聖都内部にS級を含む精鋭が三百強……か。すべてが後手だ。このままでは国が滅びずとも、再起不能の打撃を受けるだろう」
法皇は震える声を押し殺し、一同に問いかけた。
「この事態を収束させる策を問う。時間は一刻を争う、忌憚なき献策をせよ」
だが、返ってくるのは混乱を極めた無意味な議論のみ。聖騎士団を聖都防衛に回せば地方都市が壊滅し、地方を救おうとすれば聖都が落ちる。
解決策は見つからず、破滅の足音だけが確実に近づいていた。
――その時だった。
謁見の間の中央において、激しい雷鳴と共に光の球が空間を焼き切った。
一帯が焦げ付いたようなイオン臭に包まれ、衝撃波が重厚な石造りの広間を揺らす。
あまりの衝撃に場が騒然とする中、光の跡に現れたのは、一人の女性と、彼女を護るように従う五体の魔獣であった。
「曲者だ! 法皇殿下をお守りせよ!」
ラウエル元帥を筆頭に、軍務卿、七聖天、聖騎士団長たちが一斉に抜剣し、殺気を放って立ち塞がる。
しかし、そこに立っていた者の姿に、彼らは一瞬、殺気すら忘れて言葉を失った。
白銀に輝く、流れるような長い髪。
頭上には誇り高い狼のような耳と、漆黒のクリスタルを思わせる神聖な角。
背中には重力を嘲笑うかのように、二対四枚の漆黒の翼が静かに羽撃いている。
純白のドレスを纏い、足元では白銀の尾が優雅に揺れる。
その姿は、この世のものとは思えないほど神々しく、透き通るような肌は月の光そのものを纏っているかのようだった。
だが、直後に放たれた圧倒的な『覇気』が、彼らの正気を強制的に引き戻した。
その女性と、背後に控える五体の聖獣から溢れ出すプレッシャーは、尋常ではない。
聖教法国最強と謳われるラウエル元帥すら、彼女の前では赤子同然と思わせるほどの、魂の格の隔絶。
魅了は即座に、喉元を掴まれるような根源的な恐怖へと塗り替えられた。
法皇をはじめ、そこにいた強者たちのすべてが、三次元の檻を突き抜けた「真なる神威」の前に、顔を歪ませるしかなかった。
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