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第18話 『神隠し』の真相

 賢者ラッセルの数メートル頭上に、一点の極光が生じた。


 それは瞬く間に膨れ上がり、時計塔の頂と呼応するように白銀の輝きを放ち始める。


 深夜の静寂を切り裂くその光は、聖都全土を昼間よりもなお白く、残酷なまでに照らし出した。


 見上げる人々の目に映ったのは、遥か上空に出現した巨大な「何か」であった。


 それは魔導師たちが知る魔法陣ではない。


 幾何学的でありながら、どこか生物の神経網や星々の運行図を思わせる、人類の英知では解読不可能な精密な紋様。


 その正体不明の陣は、見る間に拡大を続け、聖都のみならずリレトス聖教法国の全土を覆い尽くすほどに膨れ上がった。


 そして、巨大な紋様は地上に向けてゆっくりと降下し、万物を透過しながら、まるで大地そのものに浸透するようにして消えていった。


「なんだ、今のは……。魔法ではない!? あれほどの規模、賢者ラッセルの魔力をもってしても不可能なはず……。もしや、女神オフィリア様の奇跡か!?」


 深夜にも関わらず訪れた異様な光景に、眠りを妨げられた貴族も市民も一様に窓を開け、あるいは屋外へと飛び出し、言葉を失って夜空を見上げていた。


 異変は聖都に留まらなかった。


 国中の主要都市、聖教会の建物の真上に光球が浮かび上がり、時計塔の頂に立つラッセルの姿が巨大な虚像となって映し出されたのである。


 それは、この国の全土で行われる「断罪の儀式」の幕開けであった。


 やがて、虚像のラッセルが無機質な、魂の抜けたような声で語り始めた。


 その背後には、目を覆いたくなるような残虐非道な光景が流れ出す。


 それはエリスが『世界の記憶』から直接引き出した、リレトス聖教法国と聖教会が永きにわたり隠蔽し続けてきた凄惨な真実であった。


 紋様の範囲内にいるすべての民に、その光景、音、そして被害者が感じた苦痛までもが、逃げ場のない記憶として共有されていく。


「リレトス聖教法国の民よ。この国がいかに人命を軽んじ、偽りの信仰で真実を欺いてきたか。今その目に映る光景こそが、聖教会、貴族、そして力ある者たちが積み上げてきた罪業の真の姿である」


 映し出されたのは、民から敬愛されていたはずの聖職者や聖騎士、高位貴族たちの「素顔」であった。


──命乞いをする夫婦を、その幼い子供の目の前で嘲笑いながらなぶり殺す聖騎士の歪んだ笑顔。──


──逃げ惑う村々を蹂躙し、略奪と暴行に興じる兵士たちの濁った高笑い。──


──孤児院で救いを求める幼子たちを家畜のごとく虐待し、その魂を弄ぶ聖職者の醜態。──


──行方不明になった我が子を探してほしいと、全財産を捧げて教会に嘆願した両親。その裏で、その子が貴族の慰み者にされ、絶望の中で無残に命を散らす様までもが、隠す術もなく白日の下にさらされた。──


「あああ……! 私の、私のあの子は……あんな、あんな奴らに!」


 真実を知った親たちは、血の涙を流して天を仰ぎ、復讐の炎を瞳に宿した。


 あまりの残酷さに正気を保てず、その場で卒倒する者が続出した。


 悪行を暴かれた当事者たちは、発狂せんばかりの恐怖に駆られ、支離滅裂な弁明を叫びながら逃げ惑う。


 しかし、彼らが隠れようとした家の前には、すでに武器を手にした民たちが、憎悪に満ちた形相で集まり始めていた。


 映し出されるすべての悪徳に、神の代理人を自称する「聖教会」が関与している。その事実は、民の心から信仰という名の枷を完全に破壊した。


 さらに、この国の根幹を揺るがす真実が続く。


 数百年前に謳われた魔王と五国連合による『偽りの勝利』。


 その契約の対価として、女神オフィリアへ捧げられ続けてきた供物。


 それは、黒髪・黒目の赤子たちの魂であった。


 輪廻の輪から強引に外され、救いもなく闇に消えていった無垢な命の叫びが、視覚化され、国民全員の脳裏に響き渡る。


 偽りの女神はその不浄な魂を食らうことで神託を授け、聖教会はその偽りの力で弱き者を虐げてきた。


 穢れを祓うべき聖教会こそが、この世界で最も深く、おぞましい穢れを撒き散らす源泉であった。


 ありのままの真実が、心臓を直接掴むような重圧となって、人々の魂に焼き付けられていく。


 女神オフィリアを、そして至高なるはずの法皇を信じていた民の心は、音を立てて崩壊した。


 失われた子供たちの嘆きを聴き、罪の深さに絶望する者、己の無知が招いた惨劇に跪いて懺悔する者。


 聖教法国は、瞬く間に救いのない混沌の渦へと飲み込まれていった。


 そこへ再び、賢者ラッセルの声が、天の底から響くような音圧で鳴り渡る。



「リレトス聖教法国の民よ。これぞ()()()()からの神託なり。

――『罪を償う時が来た。これより汝らの魂を選定する。清らかな者は救われ、穢れた者はその度合いに応じ、苦しみに打ち据えられるがいい』──」



 その言葉を合図に、時計塔の頂で賢者ラッセルは白銀の炎に包まれた。


 彼は自らの内にある罪業を絶叫しながら、重力に従って落下し、地面に激突する直前に空間へ溶け込むように消失した。


 浮かび上がる残光の映像は、誰もが半年前の『邪神による神隠し』を、そして「神の裁き」を予感させた。


 ラッセルの消失と同時に、聖都の結界内、そして国内の主要都市へと、異形の影が次々と転移していく。


 それはサリウス領を襲うはずだった魔獣の群れ。


 エリスによって再定義され、より強力な「捕食者」へと進化した獣たちであった。


「……ギ、ギシャアアアアアアッ!」


 信仰が消え、絶望に染まった大地に、飢えた獣たちの咆哮が轟く。


 聖なる都は一晩にして、罪を清算するための血塗られた狩場へと変貌を遂げた。

いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!

それと応援してくれて感謝じゃ!

嬉しくて!妾は、張り切って

頑張るからのう


(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

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