第12話 領都防衛戦
──午前零時。
サリウス領を包む次元結界の内に、テティアとシルビアの冷徹な声が、念話を通じて全ての戦闘員に響き渡った。
『カウントダウン開始。……三、二、一。――作戦開始!』
領都郊外、深い森の陰。シルビア率いる三百名の混成部隊は、エリス直伝の『隠密術式』を維持したまま、静寂そのものとなって敵を包囲していた。
前方から、勝利を確信して無防備に迫る襲撃者たち。
彼らは、自分たちがすでに逃げ場のない「死の網」にかかっていることにも気づいていない。
後衛の魔術師たちが、獲物を嬲り殺すための絶命呪文を陶酔と共に紡ぎ終えるのを待つばかりであった。
だが、彼らがその呪文を放つ機会は、永遠に訪れない。
一方、領地の境界近くに佇む粉挽き小屋。
そこには、聖教会の実行部隊の精鋭たちが潜伏していた。
だが、テティアがその扉を音もなく開け、一歩足を踏み入れた瞬間、結界内に充満した『睡眠術式』が発動した。
潜伏していた七名のうち、六名が抵抗の術もなく、糸が切れた人形のように床へ転がった。
だが、唯一人。逸早く状況を察し、凄まじい瞬歩で術式の範囲外へと逃れた男がいた。
「ほう……やるな、女。我は七聖天の一人、『瞬滅』のアムロ!」
男は下卑た笑みを浮かべ、背負っていた二本の幅広なシミターを抜き放った。
その瞳には、テティアを「女」として、そして「獲物」として辱めようとする醜悪な欲望が渦巻いている。
直後、アムロの姿が視界から掻き消えた。
テティアの喉笛を正確に狙った、音速を超える袈裟斬り。
それをテティアは、瞬き一つの間に紙一重で回避した。
男は止まらない。
着地と同時に高速回転を加え、真空の刃を伴う剣技『風神乱舞』の連撃を繰り出した。
粉挽き小屋の床が砕け、壁が裂け、暴風が吹き荒れる。
狂乱する刃の嵐。
だが、その中心でテティアは舞うように、あるいは初めからそこに刃など存在しないかのように、すべての斬撃を躱し続けていた。
「……俺の『風神乱舞』をすべて躱すだと!? ならばこれを受けろ!『雷神爪震斬』!」
アムロの脚部に激しい稲妻が奔る。
電光石火の速さで放たれた、雷撃を纏う双刃の突き。それはテティアが展開した魔法障壁さえも意志を持つかのように『避けて』曲がり、死角から彼女の肉体を八つ裂きにせんと肉薄した。
バチチッ! と火花が散る至近距離。
しかし、テティアはあえて動かなかった。
エリスから授かった、理を歪める『完全防御』の薄膜が雷撃と接触し、鼓膜を震わせる轟音を響かせた。
「な、なに……!? 防がれただと……?」
「……お遊びは、ここまででよろしいかしら」
テティアが一歩踏み込んだ瞬間、その足元の地面が爆散した。
アムロが反応するよりも早く、吸い込まれるように彼女の掌底が男の鳩尾を打つ。
衝撃と同時に、アムロの腹部には幾何学模様の幾重もの術式陣が、呪いのように展開された。
「ぐっ、あああああ!? 腹が、熱――」
──ドォォォォォン!!
夜空を衝く轟音と共に、汚い大輪の花火が咲き誇った。
まさに『瞬滅』。
内部から術式によって爆砕されたアムロであった肉片が、雨のように、パラパラと虚しく地面に降り注ぐ。
「……名前通り、一瞬で滅びてしまったわね」
テティアは冷ややかに呟くと、床に転がっている残りの六人の頭を無造作に掴み、『記憶抽出』を強行した。
脳内に流れ込む、聖教会がこれまで行ってきた、吐き気がするような残虐行為の数々。
テティアは不快感に顔を顰め、精神安定の術式を自らに掛けて呼吸を整えた。
「ゴミに同情する時間は無駄ね。……苦しみながら消えなさい『浄化の洗礼』」
「「「「「「ぎゃぁァァぁぁぁ!?」」」」」」
六人の肉体を白銀の浄火で塵へと帰すと、彼女はすぐさまシルビアの待つ戦場の上空へと転移した。
「シルビア! 襲撃犯の首魁、および『七聖天』一名を排除。残党の処理を援護するわ! 死なない程度に、騎士団に実戦を積ませてね!」
『了解です、テティア様!』
上空から降り注ぐ、テティアの広域回復術式と精密な援護射撃。
それを背に、シルビアの指揮は苛烈を極めていく。
「一班、二班、前進! 負傷は恐れるな、テティア様が癒やしてくださる! 三班、四班は挟撃を開始せよ! 領民の眠りを妨げる不届き者どもを、一匹残らず地獄へ叩き落としなさい!」
降り注ぐ慈愛の光と、冷徹な軍神の采配。
逃げ場のない次元結界の中で、予測不可能な死の雨に打たれた襲撃者たちの悲鳴が、サリウスの森に空虚に木霊した。
この後、「訓練を積ませる」という名目の誤算に、テティアとシルビアは苦虫をかみ潰すとは微塵も思ってもいなかった。
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