第10話 二人の母親
そこへ、もう一人の母テティアがアウロラの傍らに寄り添い、優しく背中を摩り、陽だまりのような神力が辺りを包み込んだ。
「アウロラ様⋯後悔はこれぐらいにして、二人をしっかり見てあげて下さい。同じ母親として、これからは、この扉がある限りは、いつでもここで会うことが叶いますから」
テティアは、百合が咲き誇るような柔らかで清廉な微笑みで告げた。
「ええ、ありがとう。テティアさん。母親になるのは、半ば諦めていましたが、二人に会えたことで、テティアさんが望んでくれたとおり、母親になれる気がしますわ……」
──そう、始まりは、テティアさんの精神世界でのお願いだったわ。マーキュリアスが折檻を受け、私が「どうしましょ!?」とオロオロと慌てていたけど、テティアさんの真意に気づいた私は、二人を見守っていたわ。テティアさんが、無事に母となる事に承諾してくれて、安堵していたところ、テティアさんに私の存在を見破られたわ。そうして、こう願ってくれたの…。
───テティアの願い
『ありがとうございます。《《お腹を痛めて産んだ、れっきとした私の愛娘》》ですから。母なる世界の意識さんにお願いがあるのですが、聞いて頂くことは、できますか?』
(はい、どうぞ仰って下さい…。
(生き別れるほど、親子として辛い事は無いわ!?どうにか、幸せにする方法はないかしら……きちんと、母親として二人に会って欲しいわ!そうよ!これを願いにすれば…)
──はい、叶えることは可能ですね♪)
「……心を読んで頂き、ありがとうございます。───
(どうすれば、会えるのでしょうか。)
(このまま、マーキュリアスの力がアフロディーテ…いえ、エリスディーテに収まり、二人が世界の真理を得た時に、この神聖界への顕現が叶うわ)
(分かりました。その時まで、同じ母親同士仲良くしてくださいね。お名前を伺っても?)
(こちらこそ、宜しくお願いしますわ。名はアウロラですわ。)
(分かりました、アウロラ様。その時期が来たら、二人でサプライズしましょ!二人の母としてね!)
(ええ、願ってもない、お願いをありがとう。テティアさん…ぐすっ…。)
───では、そのようにお願いします。」
〜〜〜〜〜〜
「ふふっ、二人とも聞いていたかしら?今日からは、私とアウロラ様が貴女達の母親よ?」
驚きに目を見開くエリスとジュリアス。その雰囲気からは喜びが溢れていた。
「お母様も母上も二人とも私達の母親でいいの?」
不安気に、眉を顰めて話すエリス。その反面、期待に目を輝かせていた。
「「ええ、愛しているわ。エリス、ジュリアス」」
「お母様!母上!」 「お母様!」
エリスとジュリアスは、二人の母親へと飛びつき抱きしめた。四人で、しばし抱き合いながら、互いの温もりを感じていた。
「絶望」から始まった神生と人生がまさか、こんな日が訪れるとは未来視ですら、見えていなかった事に、エリスは次から次へと嬉し涙が溢れてきた。心から渇望し、一度は諦めた「温もり」と「愛」を二人の母から得られたことを…。
ジュリアスも、権能に振り回され、姉を失い「後悔と贖罪」から始まった神生と人生に、生みの母と双子の姉と命の生みの母と、こうして寄り添う未来が来ることが奇跡に思えた。その喜びを噛み締め、今の幸せを歓喜し涙が溢れて止まらなかった。
互いが、この軌跡を生んだテティアに深く感謝し、4人で「温もり」と「愛」を確かめ合い、落ち着いたところで、テティアがアウロラに話し掛けた。
「アウロラ様もパーティーに行きましょうか?神聖界の下層界には行けますか?」
「はい、神聖界とそれに続く、下層界までは立ち入ることができるわ」
アウロラは、エリスとジュリアスに、双子の女神を生み出した時の思いや出来事を詳しく聞かせた。
愛の権能を授けアフロディーテを生み落とした時のことや、アフロディーテの希った家族を欲し、マーキュリアスを生み落とした時のことや、この世界が未熟だったため、二人を助けることが出来なかったことを語り聞かせた。
最近になってようやく、ジュリアスの神格魂を除く全てがエリスに収まったことで、直接干渉することが可能となったこと、またこの世界の信仰が強まりエリスとジュリアスに神力が流れ込み始め、そのお陰でこの世界の位階が上がり、双子の女神として、世界の調律者の真理を得たことで、神聖界も安定したことで、こうして会いに来られたことを告げた。
「母上、私が一人ぼっちで暗闇の中で怯えていた時もずーっと見ていてくれたでしょ?だから、頑張れたのよ」
「そう、私の想いが伝わっていて、本当に嬉しかったわ」
「ジュリアスもごめんなさいね。エリスの魂がひび割れて消滅しかけ、慌ててジュリアスを生み落としたのは良かったのだけれども、『癒し』を冠する権能を付与しようとしたら、神力が足りなくて、全ての権能が反転しちゃって『絶望』を冠する権能になってしまったのよ」
「ううん。大丈夫よお母様、今が幸せだからね。気にしないで」
そうして、四人は女神アウロラから、アフロディーテの魂が消滅した後、母を思う涙の結晶が闇の神界に残されたことで、マーキュリアスに神界ごと吸収される前に、魂を再構成した事を告げた。
「は、母上は、女神でも別格ですわね!神の魂を再構築できるなんて…凄いわ」
「だから、闇の神界が無かったのね。結果として、アウロラお母様に私は救われたのね…」
また、新たに得た最高神の証である『母性神』の権能を使って、アフロディーテとジュリアスに寄り添い道を示し続けたことを伝え、そうしてアフロディーテはテティアと出会い、転生を果たしたことを告げた。
それから、ジュリアスには、『絶望』冠する権能を抑えながら、寄り添い姉への贖罪を促し、姉の元へ送り正しい世界の形に戻すため、神格魂以外を全てエリスへ譲渡し転生するように道を示し、無事テティアと出会い、双子の女神として再スタートできたことを喜んだことを話して聞かせた。
「母上⋯」
「お母様·····ありがとうございますぅ」
エリスとジュリアスは驚きに目を瞬かせて、アウロラに再び飛びつき、両頬へ二人からキスを送り、何度目かの感謝を伝えたのだった。
「良かったわね。優しいお母様で。ずーっと傍で見守って道を示してくれていたなんて。素敵ね」
「ありがとう、テティアさん。貴女のおかげでこうして、正し世界に導けたの。アフロディーテが貴女に出会えたことに心から感謝しているわ」
「ふふっ、そう言ってもらえて光栄ですわ。そろそろ会場に着きますわ。皆様に紹介するので、一緒にお願いしますわね」
「ええ、お願いします。エリスちゃん、ジュリアスちゃん。手を繋いでもらってもいいかしら。ずーっと憧れていたのよ」
エリスとジュリアスは照れながらそっと手を握りしめた。
「「⋯⋯温かい⋯」」
エリスの魂に刻まれた氷のような『孤独』はその温もりで静かに春を待つ草花のように雪解けを迎え、花開いたのだった。
ジュリアスも同様に『絶望』を冠する権能の束縛から免れ、こうして、温もりを感じられるようになったことに深く感謝した。
「皆様、少し注目して下さい!!」
参加者がざわつきながら、テティアの元に集まってくる。
「皆様にご紹介したい方がいますわ!エリス、ジュリアス⋯...」
二人に手を繋がれ、その二人に面影がよく似た女性がテティアの横に立った。
「ご紹介しますわ。この世界の生みの親で、エリスとジュリアスを創生した魂の母でもある。女神アウロラ様です。この神々の世界でも最高神であらせられる『母性神』様です」
参加者の誰もが驚きに身を固め、目を見開いた。
「ご紹介に預かった、アウロラよ。このエリスとジュリアスと、この世界を生んだ女神です。娘共々よろしくね」
神々しく、天上の最上位の輝きを放つ存在に畏敬の念が魂の内から溢れ出してきた。
世界の創造主を超える存在が、目の前に現れ、しかも最高神で、この世界と創造主二人を生んだことに、自然と全員が膝をついた。
「まぁ、そんなに堅苦しくしないで下さいな。今日は、テティアさんのご招待を受けて娘に会いに来ただけですから」
「もう一つ大事な報告があります。エリスちゃんとジュリアスちゃんの母親が、私とアウロラさんの二人になったの。このことを紹介したかったのよ。これから、アウロラさんは、度々この世界に訪れると思いますので、皆様よろしくね」
その言葉に、誰しも息を飲んだ。最高神で母性神のアウロラ様と女神の聖母で陽神のテティア様の二人が、この世界の創造神であるエリス様とジュリアス様の母親となることに⋯。
固まっている参加者をそっちのけで、はしゃぐエリスとジュリアス。そして、二人に引っ張られながら様々な料理を楽しむアウロラとテティア。和やかな雰囲気で談笑する四人と、冷や汗を流しつつ固まる参加者達。
その後は、規格外のサプライズと創造神を超える存在に出会ってしまった一同は、自分達の存在がいかにちっぽけかを知り、それぞれの異界の調整者達と神の使用人達が打ち解けて、それぞれが楽しみながら双子の神聖界の誕生を祝うパーティーを時間を気にすることなく思う存分堪能したのだった。




