九話
イスに座り周囲を見渡す。学校の体育館ほどの大きさがある会議場。中央には青く光る円形のテーブルが鎮座し、三十人超の役人たちが座っていた。テーブルの中央は繰り抜かれておりホログラフを写しだしたりする装置が設置されていた。そしてそのテーブルにはモゾリスやイクサード、他の三嶽神も座っている。
黒き胎動、イクサード=ナンバライズ。ここでも不遜な態度は変わらず堂々としている。
赤き神罰、ベリアル=ギューネス。三人の中では最年長の中年男性で、体が大きく顔も厳つい。現状の三嶽神では一番着任からの期間が長い。
次期白の銘を受け継ぎし者。白き寂寞、ディオーラ=ハウゼン。まだ年端もいかない少女。まだ慣れていないのだろう、おどおどと小さくなっている。白と黒が混じった髪の毛と幼い顔立ちはかなりのギャップがあった。ちなみに現在は白き凶弾カーティスが三嶽神らしいが、ライオネルと共に動いているため、次の候補であるディオーラが代理で出席しているようだ。
テーブルを通路で挟み、囲うようにイスがぐるりと置かれている。列が後ろにいくにしたがって段差が高くなるため、後方にいる人でも中央のテーブルが見える。
俺とエルファはその一番前のイスに座っている。その理由は、今日この場所で【継承条件】を発表するためだ。
全ての役員が会場に入り終わったのか、場内は耳鳴りがしそうなほどに静まり返る。
円形のテーブルに座っていた一人の老人が、静かに立ち上がり一礼した。髪の毛は薄く、もう齢八十を越えているのではと思うほどに体が小さい。
「それでは、パトリオット=エルド=アルメイシュ第二皇子より、ライオネル=フィン=アルメイシュ第一皇子に対抗するための【継承条件】を発表していただきましょう」
マーケンの事件のあとで、俺たちは【継承条件】についての話をした。
必要なのはライオネルが提示した【第六世界へと到達し征服する】という継承条件を上回らなければ意味がないということ。条件の規模は評議会に一任するしかないが、最低でもそれに迫るなにかがなければいけないということ。
俺たちが出した結論は【第六世界以外の世界と交信、友好条例を結ぶ】というものだった。インパクトは非常に弱いかもしれないが、今まで孤立してきただけに、ちゃんとした手順で条例を結べればミュレストライアにとっては大きな進歩と言える。
立ち上がり、細く長く息を吐いて肺の中の空気を全部出した。そして、目一杯息を吸い込む。
「ミュレストライア王位継承候補、第二皇子パトリオット=エルド=アルメイシュだ」
一礼をし、兜の緒を締める。
「私が提示するのは【第六世界以外の世界と交信、友好条例を結ぶ】というもの。現在ミュレストライアは他世界との交信を絶ち、独自の文化を築いてきた。しかしそれだけではいけないと思う。そこで外交を強化し、こちらの文化を他世界へ、他世界の文化をこちらへ取り入れたい。同時に、第六世界が脅威となった場合や第七世界、第八世界が発見され、それが我々の脅威となった時の結束を固めたいと思う」
ライオネルが外世界を重視した条件ならば、俺はこちらの世界に有益な条件を提示する。ライオネルに対抗するにはこれしかないという結論の元に決めた条件だった。
そう言ったあとで数秒の沈黙。それを破ったのは、ある役人の言葉だった。メガネを掛けた初老の男性だ。確か名前はルッツ=ジュワース。役人の中でも特に発言権が強く、ライオネル側についていることでも有名だ。
「それがライオネル様が出した条件に釣り合うと?」
「ああ、私はそう思っている。だがここで考えて欲しい。私が意識不明になっている間、兄はそれを無視して継承条件を提示した。それはこの世界の規則に反している」
「ミュレストライアを引っ張っていくにはそれくらいのことは必要だと考える者もいる。キレイ事では済まされないのだよ、王になるということは。両肩に背負うモノの大きさを自覚しているからこそ、ライオネル様はそういう手段を取ったのだと私は思うが?」
「そうだな、そういう意見も大事だとは思う。だからこそ、二つ目の条件を提示したいと思う」
イスをガタッと揺らしながら「パトリオット様!」と小さく言うエルファ。モゾリスも「何事か!?」と言わんばかりの視線を向けてくる。
そう思うのも当然だ。これは俺がここに来るまでに考えていたことで、まさに独断と言っても良い愚行である。
「兄の【第六世界を征服する】という条件を打ち破ること。これを二つ目の条件として提示させてもらう。第六世界に関係する事柄は後追いになってしまうが、ミュレストライアの情勢を見ると、我々パトリオット側は完全な劣勢だ。その劣勢を覆せれば、私こそが兄よりも王に相応しいと言えるのではないか?」
ここで、役人に向けて笑顔を作った。
優しい笑みでも、諭すような笑みでもない。まさしく「これでどうだ」という意思表示のつもりで口端を釣り上げた。
「本当にそんなことができると思っているんですか?」
「そうでなければ口には出さない。ゲートを上手く使えば、他世界との交渉だって簡単に行える。それに第六世界への移動もゲートを使う以外の方法がない。ならば私にだって可能なはずだ。必ずやってみせよう。これでいかがかな?」
場内が一気にざわついた。
ライオネルは現在、他世界を侵略しようと動いている。モゾリスから聞いた話ではあるが、どうやら「侵略する」つもりはないとも言っていた。つまりそういうスタンスで行動し、他世界に本当の目的を悟らせないようにするのが狙いだ。
他世界も第六世界の存在を観測している。スーべリアットにいた頃、大我から第六世界の話を聞いていたので間違いはない。
ではなぜそんなことをする必要があるのか。
理由は簡単だ。イクサードが言っていたように、すでに第六世界がどのような世界であるかをある程度わかっているのだ。ミュレストライアの全てを支払っても手に入れたいなにかがそこにある。
見過ごすことはできないだろう。ミュレストライアを犠牲にさせることも、第六世界にある未知の部分を使わせることも、両方止めなければいけない。
「では決議を行います。イスにスイッチがついていますので、パトリオット様の継承条件を認める方は右を、反対の方は左のスイッチを押してください」
司会の老人が決議を取れば、中央のホログラフに表示される。リアルタイムで見られるのは面白いシステムだ。
ここで「ライオネルへの支持が多ければ、俺の継承条件は却下されてしまうのでは」と思う人間もいるだろう。最初は俺もそう思ったものだ。が、俺は自分の条件を提示した上で、ライオネルの条件を潰すという宣言をしたのだ。つまり、ライオネルよりも酷な条件であり、後追いではあるが競合相手を蹴落とすという意味を含む。
もしも俺の継承条件が受け付けられないのであれば、それがどうして受け入れられないのかを言及できる。評議会の権力は相当なものではあるが、俺が第二皇子であるという事実だけは覆せない。




