十話
結果、七割以上の役員が賛成に投票していた。まあここで勝てなければ困るのだが。
「それでは、パトリオット様の継承条件を認めます。評議会より、ライオネル様と同じ金額の経費を後程お渡しします。今日はお疲れ様でした」
こうして、俺の初仕事は無事終了した。しかしこれから待っている苦難を想像するだけで嫌気が差す。
会場を出てビークルに乗り込んだ俺のエルファ。モゾリスとイクサードはあとから帰ってくるらしい。
「パトリオット様!」
ビークルが走りだしてすぐにエルファに怒鳴られた。ビークルの中ならば閉鎖空間なので俺が逃げられないと思ったのだろう。
「なんだ、大声じゃなくても聞こえてるぞ」
「なんだじゃありません! なんであんなこと言ったんですか! ただでさえ不利なのに大見得切っちゃって!」
「ああでもしなきゃ賛成を得られなかった。あの投票数を見ただろ。無理に思われるような条件でさえ八割に届かない」
「それを見越して、ということですか?」
「半分正解、半分不正解」
「もう半分はなんなんですか?」
「アイツを俺の手で捻り潰す。そうでなくては王になっても意味はない」
「そ、そんなことで……」
エルファは額に手を当てて項垂れてしまった。
「そんなことじゃない。このまま俺が王になってもすぐに反抗勢力が現れるだろう。当然ライオネルを含めてな。それを少しでも阻止するため、ライオネルが持つ戦力を削り、意志を削り、ヤツを地に落とさなければいけない。ライオネル側につく人間が「やはりライオネル様が王になった方がよかった」なんて言われては元も子もないんだ。徹底的に潰すことが最優先と言っても良い」
「そこまで考えていたとは……申し訳ありません……」
今度は申し訳無さそうな顔で、シートに上がって土下座をしてきた。土下座なんて文化、ミュレストライアにはないはずだが。
「お前、なんで土下座なんて知ってるんだよ」
「それはスーべリアットの文化を取り入れているから、ですかね」
「おいおい、じゃあこの時点でスーべリアットとの通信ができるってのか」
それは初耳だ。まあ、通信不可能という体で話をしていた俺も俺なんだが。
「いえ、通信は不可能です。ようするに着信拒否状態なので。限定的ですがこちらから無理矢理覗くことはできますよ。それにゲートを使えば移動することも。割りと最近開発されたので、あまり細かい設定はできませんし、私も数えるほどしか使ったことがありません。一応ライオネル様を支持しているという名目で軍隊に忍び込んでいる者もいますので、その者からの情報もあります」
「そのゲートはすぐに使えるのか?」
「ええ、今すぐにでも。ですが、準備もなくスーべリアットに出向いても、現状では敵としてみなされてしまうでしょう」
ライオネルがいろんな世界にちょっかいを出しているため「ミュレストライアは敵」という印象が全ての世界に根付いている可能性があった。それは否定できない。
「いや、大丈夫だ。外交に強い人間を知っている。ソイツに接触できればかなり上手いこといくだろう」
「スーべリアットにいる間にそんなコネクションを作っていたのですか」
「作ったというか、気付けばそこにあった。俺の意識が入った安瀬神縁の父、安瀬神大我は世界的な外交官だ。他世界との外交を主に活動し、軍人としても仕事を多く持つ。まさかこんなところで役に立つとは俺も思わなかった」
まあ接触できれば、の話ではあるのだが。
屋敷に戻ってからはいつものように訓練をし、風呂から上がった頃にモゾリスとイクサードが帰ってきた。
食事を終えた後でリビングに集まり話し合いを始めた。だが、そこでドアをノックされた。ドアを開けると白衣を着た背の小さな女の子がいた。
名はリン=ロロフ。科学班班長兼情報班班長という役職を掛け持ちしている幼女。年齢的には俺よりも十歳ほど上だが、身長はあまりにも低く、どうみても十二、三歳くらいだ。白衣なんて、リン用に調整したはずなのに地面スレスレだ。
「会議のところ悪いな。ちょっと聞いて欲しい話がある」
と、勝手に入ってきては、大きめのMUをテーブルの上に置いた。そこにはなにかのグラフや図形が表示されているが、正直俺では見方がわからない。
手際よく操作し、俺たちにもわかりやすいように説明を始めた。
「簡単に言うと、ダルカンシェルで相当大きな魔法力が検知された。照合した結果なんだが、どうやら元三嶽神クオリアのモノだと思われる。それだけじゃなく、白き凶弾カーティスとライオネルに近い魔法力も観測できた。カーティスはお飾りだからなんとも言えないが」
「そんなバカな。クオリアならば縁が倒したはずだ。今はスーべリアットの牢獄の中にいる」
「その話は聞いたよ。けどこれが事実だ。それにどうやら、ミュレストライア軍と戦っているようだ。もちろんクオリアが、ね」
「つまり、クオリアはライオネルと敵対関係にあると」
「そういうこと。もしもこれが事実なら、クオリアをこちらに引き入れることが可能だ。確かに三嶽神ではなくなったが、彼女の力は私たちに必要なものだ」
「あの女が俺たちの申し入れを受け入れるだろうかが問題だな」
「クオリアは元々、十二領帝によってゲートに放り込まれたんだ。クオリアという存在が邪魔だったのかなんなのかはわからないけどね。つまり、クオリアは十二領帝に借りがある。そしてその十二領帝は全員ライオネル側だ。ライオネルが十二領帝を使って彼女を殺そうとした、という可能性も否定はできない。これらを使えば上手く懐柔できるかもしれんぞ?」
なんて言いながら、リンは歯を見せてニヤリと笑った。
そうなればかなり心強いが、そう上手くことが運ぶとも思えない。
リン以外のヤツらの顔を見渡すと、どうなるかはわからない、なんてことは考えても無駄なんじゃないかということに気がついてしまった。どうなるかわからなくても、俺が起きることを待ち、俺に協力しているヤツらばっかりなのだから。
「リン、今すぐにダルカンシェルに飛べるのか?」
ここで俺が足踏みをしているのは筋違いなんだと思う。
「よく言った少年。行けるぞ。ただし、私が作った転送装置は、軍部で開発されたモノよりも性能が低い。行かれるのは二人までだし、魔法力をチャージしないと使えないんだ」
「行くだけの魔法力はあるんだろう?」
「そう。逆に帰ってくるための魔法力がなくなる。チャージ完了までは三日必要で、それまではダルカンシェルに滞在してもらう」
「それくらいなら問題ない。すぐにでも案内しろ」
「おーけー。で、誰を連れてくんだ?」
リビングを出てリンの後についていく。俺、エルファ、イクサード、モゾリスとリンの後ろについて歩く姿を俯瞰するとなんだか不思議だな。




