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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ノーブルパルサー編】
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四話

 小型の自動車に乗り、僕たちは評議会場の裏手に回りこんだ。


 表はかなりの混戦状態状態であり、ライオネル派とパトリオット派で争いを続けている。裏でも戦闘は起こっているが、こちら側が表に戦力を集中させているので戦火は小さい。


 表に戦力を集中させた場合、裏からの増援で囲まれる恐れもあるだろう。そこは遊撃軍が蹴散らしている様子だった。


 自動車を下り、手袋に指を通した。黒く、革に似た素材であるが、魔法の伝達が良くなるらしい。


 一緒に乗ってきたモゾリスさんが、僕たちの前に立って話を始めた。


「よろしいですかな。縁様たちの役割は、ただただ最下層を目指すことにあります。こちらも援護はいたしますが、深くなれば深くなるほどにそれが困難になります」

「大丈夫です。今となっては十二領帝はいない。三嶽神も同様です。向こうも大衆を想定とした白兵戦を主軸にしてくるでしょう。それならばなんとかなると思います」

「縁様たちが突入した後、こちらも増援を送ります。が、決して後ろを振り向いてはいけません。貴方は、自分のことを最優先に考えていただきたい。スーベリアット人である貴方に言うべきかどうかは難しいことですが、貴方の肩にはたくさんの人間の命が乗っているのです。ミュレストライアとスーベリアットだけではない。他の世界の命運さえもかかっています。貴方のようなお若い方にそのような大任、こちらも心苦しいところではありますが……」

「いえ、現在ゲートを完全破壊できるのは、おそらく僕とエルアだけだと思います。心配しないでください。やると言ったからにはやります」

 腰から剣を外し、自動車の中に放った。


「あら、それ使わないの?」


 と、そこでエルアが声をかけてきた。


「身軽に動くにはやっぱり邪魔だよ。コイツさえあれば僕は戦える」


 ポンポンと、腰に携えたケースを叩く。


「妙に清々しい顔してるわね」

「そうかい? 結構緊張してるんだけどね。それ以上に、少し楽しみだから」

「楽しみ? ヒドく楽観的に聞こえるんだけど」

「僕だけができるんだ。僕にしかできないんだ。責任は重いけど、その分だけ達成した時の未来を想像すると明るくなる気がするだろ?」

「私は逆に怖いけど」

「だからだよ。キミが怖いって思ってて、僕まで尻込みしてしまったらダメだと思うんだ」

「別に尻込みしてるわけじゃないから! これが普通なの!」


 腕を組み、頬を膨らませながらそっぽを向いてしまった。なんとも彼女らしく、僕もだいぶ慣れてきた。


「頼むよ、エルア。ここから先は、キミと僕が一緒じゃなきゃ意味がないんだ」

「わかってるわよそんなこと。でなきゃ、こんなところに立ってないわ」


 今度は気丈に笑って見せた。こういうところもまた彼女らしい。好感が持てるというよりは、頼もしく傍に置いておきたくなる。


「よろしいですかな、縁様」

「ええ、いつでも」


 モゾリスさんが運転手に目配せをした。運転手兼軍人なのだろう。彼は戦場を見ながら手を上げた。


 その手が振り下ろされたのと同時に、僕たちは評議会場へと駆け出した。


 同時に放たれる後方からの銃撃。こちらの兵器は実弾であっても魔法力を必要とする。僕とエルアは持っていないが、キューリット姉妹はいくつか銃器を持ってきたようだ。


 僕たちの姿を見て、敵も的を絞ってくる。こちらの意図を理解しているためか、一般兵を差し置いて僕たちに銃口を向けてくる。


 放たれた弾丸は極力避ける。ダメそうだったら防御する。その際、広域に障壁を展開するのでは効率が悪い。できるだけ小さく、薄く壁を作って弾丸を防御する。


 敵兵士を一人も倒さない。無駄な労力、無駄な時間だ。白兵戦はあくまで一般兵に任せるという方向だ。


 兵士の群れをすり抜けて、評議会場へと突っ込んだ。入り口をぶち抜いて侵入するが、そこにも当然兵士はいた。裏手といってもエントランスのように広く、表裏関係なく人が出入りできるように作られているのだとわかる。


 頭の中で見取り図を思い浮かべる、なんてことはしない。進行ルートは何度もシミュレートしてきた。


 近くの兵士の鳩尾に肘を入れる。それを盾にして銃弾を防御して、すぐさま左へと駆け抜けていく。正面にエレベーターはあるが、利用するだけの時間はない。エレベーターの床を抜いて一気に下ることも考えたが、どうやら目的地までは行ってくれないらしい。それに緊急用防御壁が横から出てきてしまうと、そこで下方には下れなくなってしまう。反魔法物質で生成されていると、生半可な攻撃では壊せない。


 極力リスクヘッジを行い、リターンを大きくしなければいけない。この状況でのリスクテイクは非常に難しく、リスクなしでリターンが得られないというのを顕著に表していた。


 左には階段がある。待たれていることは承知の上だ。


 が、それは増援がなんとかしてくれる。


 突入時もそうだが、評議会場に侵入したあとでも後方援護は続いていた。僕らの後ろから一般兵士も一緒についてきたのだ。敵の攻撃を防御する係と、僕らの援護をする係で分担。矢継ぎ早に兵士の補充があるため、後方支援が途切れることはない。


 避けられるだけ敵を避け、広く長い階段を下っていく。階段にも銃や剣を構えた兵士がいる。基本的な動きは崩さず、階段の折り返しで更に下る。


 階段はまだ下方に繋がっているがこれ以上くだるのは危険が伴う。一度地下の通路へと出て直進する。


 評議会場の地下には階段が四つある。東西南北と別れているため、一度下りた階段は使わずに別の階段に向かうことにした。


 東の階段から降りたら、今度は北の階段に向かう。北の階段を降りたら今度は西へ。西の階段を降りたら、南に向かうフリをして再度東の階段を使う。それを下りきったら南の階段だ。


 何度もそれを繰り返し、できるだけ兵士を撹乱しながら階段を下りた。


 空気が薄くなっていくのを感じる。それに伴って兵士の数も目に見えて減っていた。当然、こちらの兵士もどんどんと数を減らしている。


 急がねばという気持ちもあるが、慎重さも背中合わせで存在している。


 そして、最下層に降り立った。


 現在地下二十階。しかしこれには続きがあった。


 表向きは二十階までだが、北の階段付近に隠し扉がある。そこから更に地下へと降りられる。本当の最下層は三十階で、隠された地下十階はすべて、評議会が隠してきた暗部の象徴だとモゾリスさんに教えられた。


 地下へと降りるドアは隠し扉であるが、セキュリティはかなり強固なようだ。モゾリスさんいわく、魔法での破壊は難しいとのこと。できないことはないが、通常の何倍、何十倍という魔法力を必要とする。代わりに偽造されたセキュリティーカードを壁にかざす。すると、真っ白な壁からドアが出現した。急いで中に入ってドアを閉めれば、内側からもただの壁になってしまった。


 地下二十一階。今までとは打って変わって灯りが弱い。いかにも、という雰囲気は灯りの弱さだけではなく、鼻につくような薬品臭のせいもあるだろう。この隠された地下室もまた、反魔法物質で作られている。壁に向かっての攻撃もそうだが、この場所では魔法そのものがかなり制限されてしまうだろう。


 肌には炎を近付けられているような痛みがあった。この階に降りてすぐだ。きっとこの先になにかがいる。ディオーラと似た脅威。けれどそれとはまた違う。ディオーラではないが似たなにかが鎮座しているに違いない。


 なにを見てを立ち止まることは許されない。


 地下二十一階以降、部屋の数は激減した。通路にはガラス張りの部屋なんかも多く、中でなにをしているのかが一目瞭然だ。


 が、見ないようにと前だけを向いていた。横目で見えた部屋の中には、何人もの人間が培養液に浸かっていた。腕がない者、脚がない者。もう人なのか獣なのかわからなくなった者。詳細などはわからない。それでも、ここが非合法的に作られた研究施設なのだろうということはわかる。

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