一話
スーベリアットに帰り、すぐに第八支部の最上階に呼ばれた。だだっ広い、父さんの仕事部屋だ。
「これが、新しい力なの?」
「そうだ。ゲートを利用した魔導術、契術というやつだ。名前を【抵抗の先に進化有り】と言う」
僕、エルア、キューリット姉妹の四人は、父さんに指輪を渡された。
「人には魔法量、魔法圧という物が存在する。魔導術を使うのであれば魔導量、魔導圧とも言うな。それが大きければ大きいほど、より良い導術師になる。ちなみに言えば、縁の魔導量は平均よりもずっと大きく、魔導圧も強い部類に入るだろう。これらは強さの基準と言われてはいるが、実際は抵抗力の差なのだ」
「抵抗力?」
「例えば、例えばだ。全ての人間が同じくらいの魔法力を溜め込むことができるとしよう。ではなぜ魔法量が個々に違うのか。それは器の大きさではなく、魔法力に対しての抵抗力が強いからこそ貯蓄量が多くなるんだ」
「じゃあ魔法圧も同じってこと? そうだな、電気の抵抗と同じように、強い力が使えないんじゃなくて、別の強い力によって抑制されている……」
「そういうことだ。それが個々に違うのだ。あらかじめ設定された抵抗力がある。器が小さければ、無理矢理にでも大きくすればいい。圧力が弱いのであれば押上げてやればいい。魔法量や魔法圧があまり成長しないのは、アプローチの方法が違うからだ。まあアプローチの方法がわかってもなかなか上手くはいかないのが世の中なんだがな」
「この指輪とその話の関係性が見えないんだけど?」
「この指輪はな、一時的にその抵抗をゼロにするんだ。だがその反動ももちろんある。人に抵抗が設けられているのは、身体が耐え切れないと判断しているからだ。身体に鞭を打っている、と言ってもいいだろうな。だから極力使うことは避けるべきだと考えている。カスミと俺とでできるだけデメリットは消したが、それでも最低限のリスクは残ってしまう」
「他の人たちもこれを?」
「ああ、波佐間や綾部なんかにも渡した」
「彼女たちはまだ学生だぞ」
「これが終われば軍人になる。そういう約束の元で戦ってもらってるんだ」
「また自分勝手だな、ホント。でも、そうしなきゃならないこともわかってる」
「お前は頭がいい。理解しているのも知っている。納得していないのも、な」
「――わかった。早く終わらせて来るよ。きっとそれが一番いい方法なんだ。次はどこに行けばいい?」
「そう言ってくれるとありがたい。すまないな」
大我は口元に笑みを浮かべて言う。
「本題に入ろう。お前たち四人には、これからミュレストライアに向かってもらう」
「第一世界に? 第六世界じゃないのか?」
「そっちはパットとイクサードに任せてある。他の世界にも協力してもらっているしな。ライオネルによって異世界同士が繋がろうとしている。望んでいるわけではないが、擬似転送装置なしでも異世界間航行ができるようになるだろう」
「あー、もう、なにから突っ込めばいいかわからないよ。でもとりあえず、僕らはミュレストライアに行くしかないんだよね」
「ああ、ミュレストライアにあるゲートを破壊してもらいたい。ライオネルが造った【ファクトゲート】はマルキオーラと繋がっている。そこから魔法力を供給し【エントランスゲート】が異世界同士を無理矢理繋げる役目を負っている」
「二つのゲートの破壊が最終目標か。ライオネルがいた城にでも行けばいい?」
「いや、ゲートがあるのは評議会の真下、約二キロの地点だ。事前調査ではかなり大きな魔法力が観測されている。ゲートの影響もあるだろうが、規模が大きすぎて誰がいるのか、なにがあるのかさえわかっていない」
「その事前調査ってのもまた雑だな……」
「モゾリスやリンに頼んだのでな、彼らは結局戦闘要員ではないし、三嶽神クラスも前線に出てしまっている。そこまでの無茶はできないんだろう」
「そこまで到達できない。つまり、評議会っていう場所にも敵がいるってことになるか」
「たどり着くまでにも、いくつかの戦闘は覚悟しておいた方がいいだろう」
「了解。それじゃあ行こうか」
他の三人に目配せをすると、皆ゆっくりと頷いた。
父さんと母さんに背を向けて、僕たちは部屋を出て行く。
「縁……!」
苦しそうな声が肩をつかむ。
横目で背後を見れば、胸を抑えた母さんがいた。
「わ、私は……!」
「大丈夫だよ母さん。全部わかってる。母さんがミュレストライア人だっていうのも、そのせいで僕が戦うことになって、胸を痛めてるっていうのも。母さんはいつでも冷静で、感情も顔に出ないけど、僕が転んだ時は誰よりも先に駆けつけてくれるんだ。今回の指輪だって母さんが言い出したんでしょ? 僕が、僕たちが生き延びられるようにってさ」
「そのせいで危険な目に遭っては意味がないというのに?」
「父さんは横暴だけど、あんなことがあった後でもちゃんと面倒を見てくれた。僕だけじゃなく、パットにだって息子のように接してくれた。母さんはずっと影で見続けてくれたし、僕が落ち込んだ時にも傍にいてくれた。二人には感謝してるんだ。僕はね、父さんと母さんの出会いがどうとか、そういうのはどうでもいんだよ。それでも二人が笑ってくれるなら、少しくらいの危険は覚悟してるつもりだ」
「こんなこと、言えたことじゃない。でも、本当はあなたが傷つく姿は見たくない」
「知ってるよ。だからちゃんと帰ってくるよ。死んだりしてやるもんか。二人が笑ってるのを見たいからね。それに僕が死んだら悲しんじゃうんじゃないかなって思うし。大丈夫、優秀な仲間もいっぱいいるから。だから――」
心から望んでいるから、その笑顔もまた真実なのだ。
「行ってきます」
もう一度背を向けてドアから出て行った。
僅かに聞こえたすすり泣きにも振り返らず。強く握りこまれた拳に、生きて帰ると誓いをたてた。




