最終話〈ビューポイント:波佐間清〉
六人目のディオーラを討伐した直後、大我に呼ばれたため第八支部へと向かうことにした。トレーラーは動かないため、置き去りにされていた自動車を拝借した。火群の運転はお世辞にも上手だとは言えない。が、他に運転できる人間がいなかった。
地面は凸凹で、車体は何度も大きく揺れた。
いたるところで爆発が起きている。それらを横目に目的地を目指した。加勢してもいいが、きっとそれでは意味が無い。なぜ自分たちが呼び出されたのかを考えれば、感情的に行動すべきでないとわかっていた。
徐々に近付く第八支部だが、近付けるような雰囲気でないとすぐにわかる。濁ったような、淀んだ魔法力が周囲に満ちていた。
四人は自動車から下り、遠くから観察することにした。
「こりゃ、近付けないな」
ボンネットの上に座り、火群が言った。
「私たちが戦っていた相手が子供みたいに思えるな。そう考えれば私たちも子供なんだけど」
火群の横に、清が座る。
「いや、たぶんこれが普通なんじゃねーかな? 私たちはよくやった方だと思うよ。一般人としては、な」
自動車のドアに寄りかかった風音が言う。
「狙撃できないこともないけど、敵がこっちにきたところで対処はできないね。一人ならギリギリなんとかなっても、たった一人でこっちに来るとも思えない」
三人の前に立ち、右手で日差しを遮りながら尽が言った。
「しかしな、こんな状況で私たちを呼び出した理由がわからない。私たち学生組にできることなんてないと思うんだけど」
第八支部の前では何度も爆風が巻き起こる。そんな光景を見せつけられて、自分からノコノコと出て行く気にはなれなかった。
あそこは異次元に近いなにかがある。想像しただけでも、張り詰めた空気と身体を締め付けるような魔法力に背筋が冷たくなる。
PDが震えてハッとした。PDを取り出すと、そこには安瀬神大我と表示されている。
通信を始めるのと同時に、受話設定をスピーカーにして他の三人も聞こえるようにした。
『聞こえるか清。こちら大我だ』
「はい、大丈夫です。一応数キロ先までは来たのですが、これ以上は近付けないかと」
『それでいい。無理に突っ込んでこられても、クオリアたちの負担が大きくなるだけだろう』
「それではなぜ招集を? このまま残存勢力の討伐に従事した方がよかったのでは?」
『そっちは軍隊を動かす。お前たちには、お前たちにしかできないことをしてもらいたい』
「できないこと、とは?」
『ライオネルが無理矢理異世界同士を繋げようとしている。他のメンバーと協力して、流れ込んで来るであろう魔獣を退治して欲しい。クオリアとエミリオには、三嶽神のクローンたちの相手をしてもらっているから、おそらくお前たちにしかできない仕事だ』
「ということは、アランたちもこっちに?」
『他の二つの班はもう少し後になる。周辺の住民の救助が長引いていてな。だがライオネルの行動は止まらない。だから一足先に来てもらったわけだ』
「なるほど。わかりました」
『その指輪の扱い方はもうわかるな? それは、ゲートを使った魔導術〈契術〉だ。リミッターはかけてあるから、使いすぎるということはないだろう。が、ほどほどにしておいた方がいい。使い過ぎると身体が重くなって身動きがとれなくなるだろう』
「極力使わないように立ち回り、命の危機が迫ったら使えということですね」
『そうだな。特に、他の班よりもお前たち四人は戦闘にかかるウェイトが大きいだろう。気をつけてくれ』
「わかりました。それではここで待機します」
『了解した』
通信が終了した。
清はため息をつき「気を付けてくれと言われても」と独りごちる。
こんな危険な場所に立っている時点で、気をつけるもなにもないのだ。自分で望んだこととは言っても、自分よりも強い相手と対峙するのは肝が冷える。それはきっと他の三人も同じだった。
「なにを言われたところで、私たちが下級兵であることは変わらないわけだ。使い捨て、と言われても納得してしまいそうだ」
鼻で笑いながら、火群が言った。
清も思わず笑ってしまった。
「その通りだな。人使いが荒い人だ」
「しかしまあ、悪い気はしない。こんな少人数に任せたってことは、少なからず信用されてるってことなんだろ?」
「なんだ、お前ってそういうのが好きなのか? 結構アツイところもあるじゃないか」
「バカを言うな。私は元々仲間思いだよ。そうでなきゃ、エレメンタルセブンなんてグループ作ってないだろ」
「かもな。他のエレメンタルセブンもお前のことを信頼してるみたいだし。似合ってるぞ、人の上に立つのも」
「嬉しくないと言えばウソになる。頼られるのは嫌いじゃない」
自動車が揺れたかと思うと、火群が立ち上がった。
「さて、おいでなすった」
歯を見せる彼女の笑顔は、これからの危機を楽しんでいるようにも見えた。
空が割れ、曇り空の向こうから紫色の光が差し込んできた。
黒い群れが、空から降ってくる。見たことがある。これは、クオリアが持つ【先導者の威厳】で生み出された魔獣にそっくりだった。
「なるほど、私たちが招集された本当の理由がよーくわかった」
三嶽神のクローンたち、と大我は言った。その中にクオリアが含まれないとも言っていない。
オリジナルの方は他のクローンたちと戦っている。
自分たちは、力の劣るクオリアのクローンの相手をさせられるのだ。そう直感した。
直後、大きな魔法力の塊が降ってきた。避けるので手一杯だったが、自動車は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「クオリア、ランゼルフ……!」
「さあ、遊びましょう!」
意識外からの強襲に身体が固まってしまった。
向けられた切っ先が近付いてきている。銀閃は一直線に、清の喉元へと向かってきた。
準備はしていた。それなのにこの醜態。一度は対峙したことがあり、オリジナルの劣化版だということで少しばかり気を抜いていたのかもしれない。
「クソッ……!」
避けられない。しかし、致命傷くらいは避けなければと身体を右にひねる。
クオリアの一撃は、清の首の皮一枚だけを裂いた。
その時だった。背後から、聞き覚えのない声が聞こえた。
「いい角度だ」
背後から側面にかけ、ものすごい衝撃が発生した。それは清への攻撃ではない。突撃してきたクオリアに対しての攻撃だった。
吹き飛んだクオリアは地面に叩きつけられ、ピクピクと痙攣していた。
急いで振り向いたが、そこには誰もいなかった。
「今のは……?」
「セカンドだ」
呆けた顔で、火群がつぶやいた。
「セカンドって、お前たちが言っていたファーストとセカンドの?」
「そうだ。一度だけ、ファーストとセカンドが戦っていたところを目撃した。しかし、セカンドがなぜこんなところにいるんだ。私が見た時と、背格好も一緒だった。まるで年をとっていないみたいな……」
もう一度空を見上げた。
「とりあえず、今は敵を倒すことに集中しよう。セカンドのことは後々考えるとしてな」
「そう、だな。生きていれば話もできる」
二人同時に剣を抜く。背中を合わせ、降り立つ魔獣たちを前にして身をかがめた。
「いくぞ! お前たち!」
清の声を引き金に、四人は一斉に動き出す。
この戦いが最後になればいいと、誰もが考えていたのだろう。その手に握っているのは、希望という名の目に見えぬ武器なのかもしれない。




