七話
が、そこで大きな魔法力を感じた。
一つではない、複数の、それも上と下の差がない。
わかっていたことだ。あのライオネルがディオーラだけを量産し続けるかと言われると、ノーと答える他にない。
向こうからぞろぞろと歩いてくる戦士の群れ。ディオーラのクローンよりは間違いなく強い、しかし戦士と言っていいのかわからない。そんな、強大な魔法力の群れ。
今までの三嶽神だろうか、顔ぶれは実に懐かしく、クオリアの背筋が冷たくなるほどに強烈な殺気を放つ。
「ねえちゃん、あれ……」
「歴代の三嶽神ね。オリジナルには遠く及ばないけれど、それでも十二領帝よりもずっと強い。ディオーラのクローンとはそこまで変わらない。ただし、戦闘に関しては今までのようにはいかないでしょう」
同じ技量を持っていても、別の人間であれば戦い方は違ってくる。踏み込み、間のとり方、攻撃のタイミング、思考による狙いの違い、防御の中に混ぜる回避方法など。
同じ人間が十人いようが、一人の特性を把握してさえいれば楽になる。では同じ技量の違う人間が十人いたらどうなるか。
全員が斬りかかってくるのであれば簡単な話だ。一番面倒なのは、個々の思考で別々の行動を取られること。前衛、中衛、後衛と分かれ、自分の仕事をされると隊列を崩すことも難しくなる。特にこちらは二人しかいない。クオリアの攻撃力がいくら高くとも、防御に特化した人間が一人いるだけで時間を稼がれてしまう。その隙にエミリオが前衛に出たとしても、彼にはクオリアほどの攻撃力はないのだ。
「やるしかないんだろ? だったら全員ぶっ殺してやろうぜ」
「貴方、スーベリアット人に投獄されたのよ? なぜこの世界のために戦おうとするの?」
「そんなのねえちゃんだって同じだろ? 俺はさ、ずっとねえちゃんに憧れてたんだよ。今はそれに近い力を持ってる。誰かを救うとかそんなのはどうだっていいんだよ。俺は俺のために戦う。ここで誰かを守れば、今まで俺をバカにしたヤツだって見直すかもしれないじゃん? チヤホヤしてくれるかもしれないじゃん?」
エミリオは歯を見せて笑う。服は所々破け、頬も砂で汚れてしまっている。それでも尚、妙に爽やかで自信に満ちている。まるで「俺の発言が正しいのだ」と本気で信じているかのようだ。
「非常に貴方らしいわね。でも私は貴方とは違う。なぜなら、なんで私が戦っているのか、私自身がわかっていないから。でも――」
いつものほほ笑みではなく、非常に気高く、矜持に満ちた笑顔だった。つり上がった眉尻がそれを象徴している。
「チヤホヤされるのも、悪くないかもね」
彼女の二つ名は〈白き厄災〉であった。幼き頃より危険視され、周囲は彼女を遠ざけた。後ろ指を差されれば指を折り、悪口を聞けば歯を折った。
最終的には後ろ指も差されず、悪口も言われなくなった。逆に、彼女は完全に孤立した。
幼い頃に亡くなった両親のことはよく知らない。姉弟は研究所で育ったから。
愛情という言葉もよく理解できない。経験がなく、それ以上にどうでもいいと思っていた。
だが彼女は、エミリオが窮地に立たされれば身を挺して守るだろう。気付いていない、理解していないだけであって、彼女は間違いなく愛情というものを知っている。
今度は自分が愛されたいと、心のどこかで思っていた。
力が活かせるであればその限りではない。では自分の力は誰のためにあるのか、どのような使い方をするのが正しいのか。
「私の力は私の物で、私だけが正しく使える。自分のために使うのが間違っている世界なんて、そんな世界が間違っている」
「ああそうだ。そうでなくちゃねえちゃんじゃねーよ。俺がカッコいいって思ったねえちゃんは、いつだって自分のために戦うんだ」
「それはカッコいいのかしら……」
「カッコいいんだよ。世界の殆どが「身勝手だ」って言おうとも、俺だけは「カッコいい」って言い続けるよ。確かに自分勝手かもしれないけど、ねえちゃんはそれをねじ伏せちまうだろ?」
「まあね、よくわかってるじゃない」
「そこが最高にカッコいいじゃん」
クオリアは「貴方の感覚、よくわからないわ」と首をかしげた。
剣を自分の胸元に構え、目をつむった。笑顔を浮かべたまま、今までの戦闘を脳内で反芻する。自分のだけではない。見ていただけの戦闘も含め、その全てを自分の中へと吸収した。
「ついてきなさい」
「言われなくても!」
次は同じ速度で駆けていく。今まで顔を合わせたこともない、見たこともない三嶽神たちもたくさんいる。そんな強者の群れの中へと飛び込んでいった。
追いかけてくるエミリオに、クオリアは初めて手を差し伸べた。二人の間には、姉弟としてだけではなく、戦士としての信頼関係も生まれていた。




