三話
「遅いわ」
無属性の衝撃波がクオリアを中心としてはじけ飛ぶ。
「ぐうっ……!」
接近、斬撃。
防御、跳躍。
追従、斬撃。
回避、瞬動。
どこでどう変わったのか、502番は受けに徹せざるを得なかった。
理解をするということ。分解、分析して一つ一つを探っていく必要がある。
ではこの状況でそれが必要なのか。剣を振るいながら思考するクオリアは、自分の脳内が妙に冴え渡っているとさえ思えた。
「必要ない」
今までいろんな人間と戦ってきた。様々な忌術を使われ、契術によって殺されそうにもなった。脳内で個々の状況をリプレイし、自分がその時どのような感覚だったかを思い出していく。
能力を使われた際、相手はどのように動き、自分はどう感じたのか。肌で感じる能力の本質と、その能力を使うことによる立ち回りの有無。忌術、祠導術は決まった行動しかできない。つまりそれを利用するための立ち回りが必要になる。
忌術も行き着く先は魔法力を消費する行動だ。
発せられた時の魔法力を思い出せと、彼女は自分を鼓舞し続けた。
情報ならば目の前に山程ある。プラスアルファ、肌で感じるものと分析、理解できるものを統合する。
一つ目。二つの属性を併用させても、互いの属性が反発しあわない。それだけ魔法力の制御に長けている。
二つ目。502番は攻撃よりも防御を重要視する。慎重であり万全を期するタイプ。
三つ目。攻撃できる場面だったはずなのに、腹部に触れるだけにとどめた。能力を発動させれば勝機があると思っている。
四つ目。こちらの魔法力減退と相手の魔法力増加。ただし縁と戦った時とは魔法力の動きが違う。
五つ目。魔法力の泉に設けられた用水路は一方通行ではない。
つまり、引き出せる。用水路の向こう側にある、もう一つの魔法力の泉から
試行錯誤の末、クオリアは活路を見出した。
「魔法力の共有。それが貴女の能力ね?」
渾身の左ストレートが502番を捉えた。
防御しなかったわけではない。クオリアに魔法力を吸われ、魔法力の循環に淀みが出たことに気が付かなかった。
斜塔のように不安定なビルに502番の身体が激突した。先行して魔法障壁を展開し、あくまで逃さないという姿勢をとる。
一足飛びで接近し、倒れた502番の前に立った。
「魔法力を共有して無理矢理引き出せば勝てるとでも? 私も甘く見られたものね。貴女が引き出せる魔法力の容量が、私が持ってる魔法力を上回れるはずがない。そんなこと、本当のディオーラならば知っているのにね。なにせ、研究所であの子を後継者に見初めたのは私なのだから」
「こんな、野蛮な一撃で……!」
「強化もできない、壁も張れない。そんな身体で私の一撃を受ければ当然そうなるわ。忌術を理解し、解除する必要がないっていうのは楽でいいわね」
歩み寄り、胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「さて、そちらの情報を吐いてもらおうかしら」
「私はなにも言いません。拷問したくばそうしたらいい。したところで、意味なんてありませんけど」
「自白剤も、スーベリアットの物がミュレストライア人にきくかどうかはわからない。それでもやらないよりはましかしらね」
クオリアの強烈な眼光が502番の瞳を射抜いた。その瞬間、502番は脱力し、全ての筋力が弛緩した。
「これで一人目。魔法力をギリギリまで吸収しただけでこれとは、便利な能力ね、これ」
「ねーちゃーん!」
そこで、どこからやってきたのかエミリオが到着した
息を切らしながら、ようやく追いついたといった感じだった。
「速いよねえちゃん。飛んでくのも、倒すのも」
「これでも情報収集をしながらだったのだけど、相手がよくなかったわ。弱すぎる。あの子と似ているのは見た目だけね。あ、そうだエミリオに――」
その時だった。
強い魔法力反応が幾つか急接近し、姉弟を取り囲んだ。
「ウソだろ……」
やれやれといった表情のエミリオ。反面、クオリアは楽しそうに笑う。
「話はあとね。今は彼女たちをなんとかしましょう」
「なんとかしましょうったって、俺はねえちゃんほど強くないんだってば!」
「姉弟なのにこんなに差がある。疑問に思ったことはあるでしょう。でもそれは間違いなの。私が器用で貴方が不器用くらいなら納得はできる。けれど、血が繋がってるにもかかわらず天と地ほどの差があるというのはあり得ない。貴方はまだ自分の能力を理解していない。祠導術や忌術を食って能力を取り込む。それが吐き出せないと誰が決めたの?」
「吐き、出す?」
「本来ならば食った能力の劣化版しか使えない。それは食った力をそのまま使おうとするから。身体に合わないものをそのまま使おうとすれば拒絶反応が出るのは当然。逆にリバウンドしないのが不思議なくらいに。じゃあなぜリバウンドしないのか、そしてその力を平常通りに使い、尚且つどうすれば今の自分を超えられるのか」
エミリオの額に人差し指を当てると、ピンと張った糸が切られた。
「私も貴方も研究所でいろいろと実験をされた。その上で私は三嶽神としての素養を認められた。ではなぜ貴方には認められなかったのか。貴方の力が満たなかったわけではない。相応しくないと、そう判断されたに過ぎないのよ」
「なんかよくわかんないけど、なんかよくわかった気がする」
「貴方は本当に馬鹿な子ね。そこがまた可愛いのだけれど」
「食うことができて、それを排出できないわけがない。能力を吸収した上で、外へ出すことが可能って言いたいんだよな。それがわかれば、俺ももう少しだけ強くなれるかな?」
「少し? 少しどころじゃないわ。貴方の魔法力のリミッターは、そうすることで解除される。言ったでしょう、私は器用、貴方は不器用。ただそれだけなのよ」
踏み込む大地はひび割れた。
クオリアはずっと考え続けていた。なぜここまで差がついたのか。
それを氷解させたのが、今しがた行った502番との戦闘。過去の記憶からの分析や、今まで見てきたエミリオの能力を考慮した結果だ
自分の弟にはなにかある。そう思って探った。
彼にもまた、膨大な魔法力が眠っている。しかしそれを使うためには手順が必要だった。最先端の技術を人に埋め込むという非人道的な研究。魔法力や忌術を封じ込めてトリガーを埋め込む。それを施されたのがエミリオであった。
それでも彼の魔法力はクオリアに及ばない。
「いくぜ!」
でも彼には関係ない。
縮み上がっていたのが嘘のように、楽しそうに敵へと攻撃をしかけていく。
「さすが私の弟ね」
エミリオの顔は、戦闘を楽しむ戦闘狂の顔だった。
まるでクオリアのように、今まで格上だと思っていた相手に手が届く。
「楽しいなあ! まるで主人公だ!」
「そういうのは、倒してから言って欲しいわ」
背中をあずけ、あずけて貰える関係になった。姉弟は信頼をわかちあう。ディオーラたちの相手をしながら舞踏会のように立ち回っていた。




