十七話
『オラオラどうした! そんなんじゃ傷一つ付けられねーぞ!』
大きな体躯が俊敏な動作で動き出す。ぐるりと旋回し、まるで空気の抵抗がないかのように、逃げる僕のことを追ってきた。
巨体から伸びる腕は伸縮自在なのか、ディオレットを捕まえようと何度も空を切る。それに光の球体のレーザー攻撃も避けなければいけない。
腕を避け、レーザー攻撃をシールドで防ぐ。しかし、レーザーの威力が凄まじく、シールドはすぐにヘタってしまう。
「頼むぞルキナス」
シールドを捨て、魔法力をありったけ注ぎこむ。魔法力の枯渇は考えなくてもいいだろう。が、ルキナスにも稼働限界というものがある。このまま逃げて戦いを長引かせるわけにはいかない。
『ようやくやる気になったか! 楽しくやろうぜ!』
「そのつもりはない。僕は戦いたくてここにいるわけじゃないんだ。これは目的ではなく手段なんだから」
大型アーマードギアに向け、エルアがビームガンで攻撃を仕掛けた。一応援護なのだが、やはり見えないバリアによって防がれてしまう。
『無駄だ! そんなもんじゃ、このアスクレイアにはきかないよ!』
腕を振り、手のひらをクラレールに向けた。
「まずい! エルア避けろ!」
『お前は黙ってろ!』
別の腕が腹部に直撃、空中で二度三度と回転し、体勢を立て直すまでに少しばかり時間をとられてしまう。
エルアに向けられた手のひらからレーザーが放たれた。
ここで、僕の中に一つの考えが浮かぶ。彼女は僕がいない間も一人で訓練を続けていた。彼女の勤勉さがあれば、もしかすると僕よりも操縦が上手くなっている可能性もあるのだ。
幾度となく射出されるレーザーをギリギリで避け続けるクラレール。ギリギリで避けられているのではない、無駄な動きを少なくし、できるかぎりエネルギーの消費を抑えているのだというのがわかる。
当然こちらにも攻撃は向かうが、今の対象はクラレールがメインだ。
それはきっと、エルアを見下していたからだろう。確かに僕は大立ち回りを続けてきた。そういう自覚もあるし、逆にそういう風に見られたくて戦っていたフシもある。
だからキミたちにも見せなければいけない。僕のパートナーがいかに優秀で、いかに強いかということを。
攻撃を避け、銃を構えて反撃するエルア。その攻撃が通らずとも関係ない。僕とリュノアもビームガンを打ち続け、結果としてバリアの欠陥が露わになっていく。
空気抵抗がないように見えたのは見間違いではない。こちらのレーザーが当たった瞬間、周囲の空気と共に横に反れていくのを確認している。おそらくは空気抵抗がないのではなく、抵抗に反する力を働かせて相殺しているんだろう。つまりその相殺部分で別ベクトルの力をかけてやれば、間違いなく攻撃が通るはずだ。
「来い! リュノア!」
アルクノスを呼び寄せて変形させる。レーザーを掻い潜って、ちゃんと僕の元に来るあたりパイロットとしての器量がうかがえる。
「アームジョイント:アルクノス! モードチェンジブレイバー!」
右肩から腕にかけてアルクノスを接続。大剣状態と言えばわかりやすい。
『そんなことをしても無駄だ!』
こちらに攻撃を仕掛けようとしてもエルアがちゃんと足止めをしてくれる。
「僕たちをどれだけ下にみていようと関係ない! 今キミと戦っている女の子は、僕にとっては最高のパートナーだ!」
アルクノスから噴出されるビームソードはディオレットの身長をゆうに超える。が、それで攻撃することはない。
左手に通常のビームソードを持ち、一気に間合いを詰めた。そして、斬りつけた。
『ははっ! 痒いじゃねーかよ!』
「そうかい! いつまで涼しい顔をしていられるかな!」
今度はアルクノスを振った。大型アーマードギア、アスクレイアを挟むようにしての攻撃。左手のビームソードで作ったバリアの歪みを、アルクノスで切り裂いた。
ガラスが割れるように、目の前のバリアが砕けた。
『なっ……!』
壊れた状況が長く続くとは限らない。
「一気に決める! モードチェンジドライバー!」
ビームが消え、また別の形態へと変化する。それは、大きな大きな拳を模した形状だった。
『ドライバーモード認証完了。いつでもいいよ』
リュノアの誘導を聞き、目の前の空気を殴るように拳を突き出す。
「穿ち貫け! アルクノスドライバー!」
もう障害はない。
アスクレイアの胴体を直撃した拳を、力いっぱい振り切った。
高出力のビームを纏った拳が巨体を貫き、貫通した後で再度飛行形態になって離脱した。
『き、貴様あああああああああああああ!』
僕もリュノアにならってその場を離れた。
アスクレイアの腹には大穴が空き、先は長くないのだと予感させた。
「キミは強いのかもしれないよ。イクサードと戦った時も思ったけど、三嶽神っていうのはすごいよ。一生かかっても指さえかけられない場所にいる。でも、慢心してたら負けるんだ。キミの前に戦ったディオーラはもうちょっと賢かったけどね」
『……くくく、あーっはっはっはっ!』
悔しがるだろうと思っていたけど、予想外な笑い声が聞こえてきた。
『私を倒したからって優越感にひたるのは早いぜ? ライオネル様を追うなら覚えておきな。お前は絶対に私たちに勝てない。絶対にだ。理由は簡単。お前は「慢心を突く」ことでしか相手に勝てないからだ。弱い奴が慢心を突いて勝つのは定石だけどな、それがずっと続くわけないんだ』
「わかってるさ。でも僕たちだって歩みを止めたわけじゃない。これからも成長し続けて、ライオネルの野望を食い止めてみせるよ。僕だけじゃない、みんなでね」
『若いな、若いよ』
その言葉が最後だった。アスクレイアは爆発と共に生涯を終えた。
これで終わりにして欲しいと本気で思ってしまった。毎回ジリ貧ではいつか限界が来る。
わかっている。泣き言なんて言ってはいけない。それでも、終わりが見えないディオーラとの戦いは、僕にとっては嫌な未来しか感じさせないのだ。
『お疲れ様』
「そっちもね、エルア」
唯一の救いは、たくさんの仲間が支えてくれることだろう。
「戻ろう、エベット基地へ」
『ええ、そろそろ王子も来るでしょうしね』
僕、エルア、リュノアは、エスクレイアがいた場所を見つめたあとで、エベット基地へと機体を向けた。




